TOKYO BASE「初任給40万」の衝撃と、アパレル業界の現在

2024年4月1日
全体に公開

こんにちは、スタイリストの神崎裕介です。今日から4月、新年度のスタートですね。新社会人の皆さんもそうでない方も、気持ちも新たに頑張っていきましょう!

ここのところ、アパレル界隈を飛び出してTOKYO BASEの「初任給40万円」が話題になっています。

ただ、この40万円という数字がひとり歩きしている感があり、どんなブランド・企業なのかやアパレル業界の全体像という部分があまり見えてこないように感じます。

そんなところにもスポットを当てつつ、全体像を理解する一助になる内容を目指して記してみます。

そもそもTOKYO BASEとは

TOKYO BASEは、名前の通り「東京をベースとして」FROM JAPAN to THE WORLDを標榜している企業です。

 特記すべきは、2009年のスタート当初から「ジャパンブランド」にこだわって展開していること。このコンセプトは当時とても新鮮で、前例が少なかっただけにどうなるのかな?という見方もされていましたが、国内55店舗、中国本土を中心に海外も14店舗と大所帯に成長。アメリカ進出のため昨年末現地法人を設立しています。

現在も会社トップを務める谷正人氏がまさに一から立ち上げた業態であり、日本初のクリエイションを世界に、というコアな部分は今も変わっていないように感じます。陣頭指揮がしっかりしている印象です。

https://www.fashionsnap.com/article/tokyobase-top-2022/

コアなブランドは大きく3つ。

「ジョンローレンスサリバン」や「ホワイトマウンテニアリング」など日本の著名ブランドを扱うセレクトショップ「STUDIOS」

ベーシックをベースに、東京らしいモード感を表現したオリジナルブランド「UNITED TOKYO」

東京カジュアルを掲げ、よりスタンダードなカジュアル志向のブランド「PUBLIC TOKYO」に分かれています。(ラインは増え続けています)

スタイリスト的な印象としては、コスパの良さ=値段比の質の良さを感じることが多い。

個人としても購入していますが、このUNITED TOKYOのレザーライダースは質感や着やすさが優れているのにブランド物の半分以下の価格で、5年ほど前に買いましたが今でも重宝しています。

筆者提供。昨年12月に撮影。30,000円くらいだったと記憶

日本製であるとかサスティナブルであるとか良いことを謳っていても、品質が付いてきてないというブランドは正直多い。そんな中でTOKYO BASEのアイテムは質やデザインの基準はクリアしているし、公平に見ても評判は良いと言えます。

もうひとつ印象的に成功していると感じるのが絶妙な見栄えの良さです。どれもひと捻りしてあっていい感じにインパクトがある。

https://united-tokyo.com/shop/g/g144200004630/

ここも、日本製だからという押しだけでデザインに特筆すべきことがないブランドが多い中、色もビビッドすぎず、日本的な落ち着いたカラーリングが絶妙です。それが良い、というファンは周りにも多くて。これで25,000円以内で日本製ということなら十分購入に値するでしょう。

またシンプルでシルエットの良いアイテムも多く、扱いもラクなのでビジネスユースにも向きます。8割このブランドという方もいるほどです。

https://united-tokyo.com/shop/g/g133559001166 これでマシンウォッシャブル、19,800円

全体を通して東京発のモード&カジュアルというコンセプトは通貫されているし、海外にも店舗を持つようになり規模が大きくなってもそれがブレていないことが成長の理由だと考えています。

「月給40万円」はアパレル業界の問題を解決するか

一方、まずアパレル業界の環境を見てみます。

https://www.readytofashion.jp/mag/column/store_sales_average_annual_income/

平均給与を見ると店員の平均年収は約343万円となっており、令和3年分民間給与実態統計調査で比較すると、国内給与所得者の平均年収は約443万円、正社員に絞ると約508万円。平均を下回っていることが分かります。

離職率も、平成30年3月に卒業した就職者の離職状況を調べた結果(厚生労働省が令和3年に調査)よると、アパレルを含む小売業の入社3年以内の離職率は大卒で約38%、高卒で約48%という結果に。(別調査でアパレルに絞ってもほぼ同等の結果)

僕も業界に携わる中で、やはり大きな改善ポイントは「憧れ産業」でやってきたことと「儲かりにくい構造」だと思っています。

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カリスマ店員に代表されるように、アパレル業界は花形産業でした。作れば売れるブランドは販売員も人気で替えが効く。やりがい搾取というとキツい言い方になりますが、そういう意欲を頼みに無茶を通していた部分は多いにあった。

「あのブランドで働けている嬉しさ」と「仕事量に見合わない給料」で、前者が勝っていた。実際にそのギャップに苦しみながら働いていた人を知っています。結局辞めてしまいましたが。

もちろん服が好きだからと納得してやっていたのであればそれで良いのですが、頑張っても給金が上がらないのは構造的な部分も関わってきます。

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セレクトショップなどで仕入れ販売するとなると掛け率50%は当たり前。例えばモンクレールなどは人気なので60〜70%といった強気の掛け率設定です。そうなるとセールをしたら利益はほぼゼロになってしまう。僕はバイヤーもしていましたが、数%の交渉が大事な仕事でした。

大手セレクト各社が自前のブランドを拡充しているのはそういった事情からです。オリジナルなら30〜40%に抑えることもできます。正直、アパレルは自前で作らないと儲からない。

そしてもうひとつ大きいのが在庫問題。派手に売れているように見えても在庫を抱えてしまうと負債が嵩んでいく。最終的にフラッシュセールサイトに二束三文で売れればマシな方。

高い掛け率と在庫で資金をすり減らし、店頭で頑張るスタッフにお金が回らないというのがこれまでのアパレルでした。

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ただ、今後はそうはいかない。というのはアパレル自体が「憧れ産業」ではなくなってきているから。これはITなど他業種との絡みもありますが。

専門学校のファッション科で教えていますが、特に販売志望という学生は確実に減っていると感じます。変わってPRやバイヤー、ファッション雑誌の編集といった職種が増えている。やはり販売はブラック(キツい)というイメージがあるようです。

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そして月給40万円の話。

ポジティブなニュースの反面、固定残業代が80時間分(過労死基準に匹敵)含まれていることが分かり、疑問や反発の声が多く上がってきています。この点について谷正人CEOは

当社の販売スタッフの残業時間は平均10時間〜20時間。万が一45時間を超えた社員には始末書で改善策を提出させることを徹底している。(80時間分の設定は)僕らがベンチマークしている企業がそのような設定をしていたので、それに倣っただけで深い理由はない。そもそも80時間の残業は過労死レベルだ。固定残業代を設定することで無駄な残業を減らす狙いもあった。

と語っていますが、45時間を超えた場合は始末書(正確には業務改善報告書)提出であるのに80時間設定という点は、確かに素人でも疑問を感じる部分ではあります。

ただ、この発表2週間で新卒エントリーは2倍に、中途募集も6〜7倍になったといいます。それだけ異例のことで期待があり、インパクトがあったことは間違いありません。

https://tokyobase.co.jp/about/

TOKYO BASEはセレクト業態にオリジナルとバランスよくブランドを持っており、オリジナルが好調なのでこの金額は継続が可能なのではないかと考えます。そしてこの施策が好循環を生めば、他社も追随せざるを得なくなる。

他業種との争いでも、やはり稼げないと勝てない。アパレル、特に販売というのは総合職であり、洋服の知識やセンスだけでなく人の機微や時勢にも通じていないといけない難しい仕事だと思っています。お金が回ってくれば教育に投資してさらに質を上げられるでしょう。

アパレルは稼げる職種でもある。好きと両立できそう。そんな流れの端緒となることを業界の一員としては期待せざるを得ないし、正当に報われることを願ってやみません。

さいごに

今のアパレル業界の潮流で言うと、スタッフのインフルエンサー化が加速しています。

これまでスタッフ個別の影響力やWEBからの売上貢献度合いは数値化、報酬化が難しかったのですが、それを可視化、管理できる「スタッフスタート」をはじめとするDXシステムの登場でそれが可能になったのです。

これによってSNSのようなコーデ投稿から明確に個人の売上に繋げることができ、顧客とのコミュニケーションもハードルを下げオープンな状態でできるようになった。成果によって報酬も増えるわけでスタッフの投稿モチベーションも上がる。これはとても良い循環といえます。

平成のカリスマ店員がWEBやSNSでも活動できるようになったようなもので、距離を超えて販売できることは大きなプラス要素です。この流れを受けて、僕も専門学校の授業では自分やアイテムをWEBで魅力的に表現することやその練習を主題に置いています。

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今後を考えるに、アパレルだけではなくどの業界も個々人が個性を表現し、いかにそれをビジネスに繋げていくかがポイントになっていくでしょう。

企業も個人のパフォーマンス向上に期待しているし、販売やサービス業は基本給プラスアルファで頑張ってほしいと思っている。そしてサービス内容や料金に大きな違いがなければ、結局顧客は人につきます。魅力的な印象であればあるほど良い。

その点、特にハイブランドやアッパー層向けのショップスタッフは、営業や渉外の観点で見てもスキルが高くとても参考になります。そういった視点でアパレルを観察、接客を受けてみるのもオススメですよ。

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神崎裕介

Maison-du-StylisteMaison-du-Styliste

表紙画像:https://tokyobase.co.jp より引用

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