【お正月休みに】スタイリストが選ぶ、ビジネスに効くファッション映画5選

2023年12月29日
全体に公開

こんにちは!ファッションスタイリストの神崎裕介です。

いよいよ2024年、スタートしました。本年もよろしくお願いします。

このタイミングで積ん読や積みゲー、あの作品を観よう、という方も多いと思いますが、その中に加えて頂きたい映像作品を5つ、ご紹介させてください。

ファッションがテーマの作品ですが、ビジネス的な観点からも共感やヒントになるようなポイントのあるものを選んでみました。

1:HOUSE OF GUCCI

まず娯楽作としてオススメしたいのが、ハウスオブグッチです。

グッチ家最大の悲劇である”マウリツィオ・グッチ殺害事件”を追ったノンフィクションの原作をベースに、巨匠リドリー・スコットがメガホンを取った作品となっています。

レディーガガの熱演もさることながら、マウリツィオ役のアダム・ドライバーも好演。パオログッチ役ジャレッド・レトの体重を大幅に増やして臨んだ怪演も話題となりました。

特筆すべきは、グッチが全面協力した圧巻の衣装たち。アーカイブへのアクセスも許可したということで、登場人物が纏う衣装はほとんどがグッチ所有のアイテム。サンローランは伝記映画への提供を拒否したこともあり、実は簡単なことではないのです。

アダム・ドライバー(中央左)の紺ストライプダブルのスーツは、まさに一時期のグッチを象徴するもの。ストライプのシャツをストライプのスーツに合わせた着こなし、ドットのネクタイも色味が合っているから馴染んでいます。

アル・パチーノ(右)の赤いチーフでのワンポイントなおしゃれや、ジェレミー・アイアンズ(左)の茶系のコーディネートをネイビーで引き締めたスタイリング、ジャレッド・レト(中央右)のピンクとグリーンのコーデアイデアなど、登場人物たちのスタイリングもビジネスファッションとして大いに参考になります。

個人的に意識して頂きたいなと思うのは、パンツの丈です。

靴の上に裾が乗るのを”クッション”と呼びますが、この宣材ポスターを見ても分かる通り、基本的に丈感はジャスト〜ワンクッションくらいで収めるのが印象として綺麗。ここがダブついている方を多く見かけます。

ここが必要以上にダブついていると「だらしない」印象になってしまうし、ヒップから足先に掛けてがスッキリ見えずスタイルも悪く見えてしまいます。ビジネスではハーフクッションがベストとされていますが、長いものを直すのは簡単。ぜひ見直してみてください。

2時間半超えと大作ではありますが、サスペンスエンタメとしても一級品。スタイリングも楽しみながら観て頂きたい作品です。現在アマゾンプライムでレンタル可能となっています。

2:ディオールと私

続いては、クリスチャン・ディオールのショーを追った「ディオールと私」

この作品は、ディオールのデザイナーに就任したラフ・シモンズ(現在はプラダのデザイナーを務めている)が、自身初のオートクチュールコレクションをわずか8週間で完成させた現場に密着したドキュメンタリームービー。

初のコレクションを8週間=2ヶ月で、というのは一般のビジネスに置き換えても異常な事態と言えるでしょう。それを世界的なトップメゾンで課された重圧。作中ではそんな苦悩も垣間見える印象的なシーンがあるのですが。

シモンズはすでに高名なデザイナーですが、彼はまず「スタッフ全員に会いたい」と言い、直接アトリエを訪れます。

そしてひとりひとりに挨拶を交わすと「僕はプレタ=既製服しか作ってこなかった。その時には時間にゆとりがあったのだけど…」と率直に不安を伝えるシモンズ。

するとスタッフが口々に「手伝うわ!」「任せて!」と勇気づける言葉を掛けるのです。

http://www.webdice.jp/dice/detail/4741/より

彼ほどのキャリアがありながら、丁寧に、正直に接する姿はまさに参考とするべきでしょう。ビジネスでは多くの人の協力が不可欠。それをトップ自らがこうべを垂れて協力を仰ぐのは、分かっていても出来ることではないと思います。

仕事のプレッシャーをいかに消化していくか、プロジェクトを成功導くためには、という視点からも観る価値のある映画です。

また、この作品ではハイブランドがいかに大切に、手塩に掛けて作られているかを感じることができます。確かにハイブランドは高い。でも心を打つ素晴らしさがある裏にはこんな想いやプロの職人がいるんだと。

近年ハイブランドの裏側を公開したり、イベントで職人の実演を行ったりするのは、単に高いだけではないということを知ってほしいからでしょう。デジタルなゼロイチではなく、多くの人が関わって作られている作品だということを再認識してほしいと。

ちなみに現在ディオールのウィメンズデザイナーはマリア・グラツィア・キウリという女性が務めていますが、彼女のロマンティックなデザインも人気を博しており必見です。

「ディオールと私」は現在U−NEXTにて配信中です。

3:ファッションが教えてくれること

3作品めは、ファッション雑誌の米版VOGUE(以下ヴォーグ)の伝説的編集長である、アナ・ウインターを追ったドキュメンタリー映画「ファッションが教えてくれること」

アナは1988年から、なんと35年に渡ってアメリカ版ヴォーグの編集長を勤めている業界内外で知られた名物編集長。「プラダを着た悪魔」でメリル・ストリープが演じた編集長役のモデルにもなっています。

このおかっぱ頭にサングラスがトレードマーク。一時は駐日大使に就任という噂も流れたほど政財界とも繋がりがある重鎮ですが、とてもチャーミングな人物です。

このファッションが〜では、2007年の9月号をリリースするまでの日々を追っています。原題が「The September issue」となっているように、9月号はヴォーグの中でも最も売れる、重要な号なのです。

作中では主にアシスタントや部下にスポットを当てて進行していきますが、その様子はまさに鬼編集長。ほぼ決まっていた写真をすべてひっくり返してボツにしたり、土壇場でスタイリングにケチを付けたりと編集部は彼女に振り回されます。

しかし「彼女は冷酷なのではなく、不必要に気さくに接しないだけだ」「ビジネスに徹する彼女の代わりに、自分が笑顔で対応する」と言う部下たち。それは、アナの「ヴォーグとはこうあるべき」というプロフェッショナルなこだわりに信頼を置いているからでしょう。

アナ自身も「私には〇〇のような感性はないし、感覚の違いを乗り越えて部下を信頼している」といったことを語っています。それを表に出しては言わないものの、しっかり伝わっている。そして明確なビジネスへの向き合い方で信頼を集めている。

サングラスを外すとキュートな印象

組織のマネジメントには色々な手法がありますが、彼女のような距離感の取り方もひとつのやり方。阪神の岡田監督も選手とは一定の距離を置くマネジメントで緊張感あるチームを作り、日本一という成果を出しています。

距離の近さや気さくさが現代的と言われる中、ケースバイケースで考えても良いのではないかと考えさせられる内容です。

作中に登場するのはファッション界やフォトグラファー界のトップばかり。そんなメンツのファッションも参考に楽しめる作品です。こちらもU−NEXTにて配信中です。

4:本番まで、あと7日

少し気軽に観られる作品を、ということで選んでみたのが「本番まで、あと7日」。ネットフリックスで配信中のドキュメンタリー作品です。

シャネルの2018年春夏のオートクチュールコレクションの7日前から密着した内容ですが、2019年に惜しくもその生涯を終えた伝説的デザイナー、カールラガーフェルドの貴重な「動く姿」が収められている作品でもあります。

モノトーンに白髪のポニーテール、革手袋の装いがアイコンになっているカールは、1982年にシャネルのデザイナーに就任。当人をして「死んでいた」と語るブランドを再度トップブランドに再生させた人物であり、亡くなるまでFENDIのデザイナーも兼務していたことでも知られています。

彼を世界的なデザイナーたらしめたのは、そんな実績だけでなくその風貌も大きな役割を果たしていると言えるでしょう。本人もキャラとして遊んでいて、フイギュアになったりディフォルメしたキャラクターグッズも販売されています。

誰々と言えばこのスタイル、というのを作ることは認知の上では強いですし、自分もラクになります。ここまで特徴的である必要はなくとも、必ずこの色を入れる、象徴する小物を身に着ける、など考えてみるのはどうでしょうか。

そして彼が凄いのは、老齢の重鎮でありながら時代の変化に関心を持ち、むしろ自ら参加していこうとするところです。多くのデザイナーがファストファッションについて批判的な反応を示す中、カールは「私は新しいものが好きだ。若者に届けられるのは喜ばしい」とセカンドラインを積極的に作ったりとても柔軟でした。そんな柔軟さもビジネスの世界で長く活躍するためには大切な要素。

個人的に彼の才能だけでなく考え方やスタイルのファンでもあるのですが、意外と「動くカール」は表に出ていません。そういう意味でも価値のある作品ですし、普段見ることのできないシャネルの舞台裏も興味深く楽しめます。

時間も46分と短いので、サクッと観られるのも嬉しいポイント。NetFlixにて配信中です。

5:アイリスアプフェル!94歳のニューヨーカー

最後にご紹介するのは、御歳94歳だったファッションアイコンにフォーカスした作品。

アイリスアプフェルは、現役のビジネスウーマン、ファッショニスタ。インテリアデザイナーとして成功を収めた人物でもあります。公開当時も94歳という高齢でしたが、なんと現在102歳、ご健在です。

パッと見ると、単に奇抜なおばあちゃんだから注目を浴びているのでは、と思うかも知れません。しかしその真髄は別のところにあるんです。それは”魅力を努力で身に着けた”こと。

若い日の彼女はある時、有名百貨店のオーナー夫人から「あなたは美人じゃない。これからもずっとね。でも人とは違うセンスがある」と告げられます。

これを受けて憤慨するのではなく、そのセンスとは何か?を突き詰めて突き詰めて、自分だけのスタイルを確立したところにポイントがあります。彼女のスタイルは、20ドルのアクセサリーも2000ドルのワンピースもミックスさせることができる。それはセンスを磨き上げてきた成果なのです。

100歳を記念したH&Mとのコラボコレクション発売も話題となりました。

アイリスは自身でも「自分を美人と思ったことは一度もない。でもそれでよかった」「努力して身に付けた魅力で味のある人間になれるし、その魅力は年を取っても変わらない」と語っていますが、実際94歳の彼女が言っているので説得力が違いますよね。

僕もよくクライアントや講義で言っていますが、ファッションセンスは誰でも磨けるものなんです。もちろん男女関係なく。

センス、というと生まれながらのものだし、、と諦めてしまう人も多い。もちろん天賦の才を持つ人もいます。でも大半の人は諦めているから伸びないだけで、今からでも伸ばすことは可能です。

そのためには、とにかく周りに関心を持つこと。人を見て、世の中を見て、ロールモデルを見つけて、観察する。真似してみる。まさにアイリスのように。

そのうち、どの組み合わせがお洒落と感じるのか、世の中で何がトレンドなのか、ロールモデルと自分は何が違うのか分かってくる。そこから自分ならどうコーディネートするのがいいのか、個性が立つのかの実験を繰り返していく。

僕自身も、なぜマネキンのように綺麗に着られないのか?という悔しさからスタートし、肩幅や全体のバランスの違いを学び、では自分が着るとどうなるのか、というシミュレーションと実践を繰り返して繰り返して、似合うものが分かるようになりました。最初から分かっていたわけではありません。

アイリスの含蓄のある言葉全てが学びになる。男女問わずビジネスや人生に活かせる作品になっています。こちらもU−NEXTにて配信中です。

素敵な年末年始を

どの作品も定期的に見返したくなるものをピックアップさせて頂きました。もし気に入る作品などあれば嬉しいです。

12月よりスタートした本トピック「世界は見せ方で出来ている」ですが、本年の更新は今回で最後になります。ぜひ他の記事もお読みいただけたら嬉しいです!

2024年も、何かビジネスに役立つ、ヒントになるような内容をお伝えしていきたいと思っていますので、どうぞよろしくお願いいたします。良いお年をお迎えください!

※なお、本記事はアフィリエイト記事ではありません

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神崎裕介

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