ゾンビになるな:終わりから考える起業

2023年7月31日
全体に公開

7月28日にハコスコ社は、DNPによる株式の過半数取得により同社の子会社となり、ハコスコシーズン2が始まりました。

ハコスコは2014年の7月31日に登記されているので、10期目にしてようやくExitできたことになります。正直時間かかり過ぎだと思うのですが、ビジネスはマーケット次第なところがあるので仕方ないかなと思ってます。むしろ、時間はかかったけど、DNPという素晴らしい親会社を得るという、いい形でExit出来たのは本当に良かったです。

いつものハコスコポーズで記念撮影

一般に会社を始めるということは良いことのように言われます。特に若い方が自分自身の可能性に賭けて社会に新しい価値をもたらす。美しいですよね。

でも、実際そんなことはないんですよね。大抵の起業はうまくいかない。多少うまくいったとしても、特にスタートアップだから、当座のお金が必要だからと言って、何も考えずに投資家から出資をしてもらうと、将来の選択肢が狭まることは分かっておいたほうが良いです。出資を受けるということは、ある意味自分の首を絞める不可逆な行為なのです。

たとえば、シード資金として1000万入れてもらったとします。そのとき、投資家に20%の株を渡すとすると、会社の価値は5000万になります。昨日まで価値ゼロだったのに、シードを受けた瞬間に会社の価値が5000万になるのですから、普通はびっくりします。お金の意味とか良くわからなくなるんですが、だんだん慣れてしまうのが怖いところです。

1000万円の資金は、何人か雇用してしまえばあっという間に無くなります。そういうのを溶かすと言いますが、普通はグングン溶けます。もし最初から売上が立っているのであれば、溶かさなくていいんですが、通常は勢いに乗って人を雇用したり、オフィスを増床したりして無駄に溶かしていきます。

資金繰りが苦しくなると、投資のおかわりシリーズが始まります。シードで数千万だった会社がおかわり投資を続けて、あっという間に株価総額数十億になったりするのは珍しくないです。おかわりの額は事業の価値よりも、2年間会社を存続させるための必要金額で決まったりしますのであまり合理的ではありません。そうやって、溶かしながらも売上が上がっていったり、マーケットを作れたりすると良いのですが、そんなケースでも自転車操業が続かないのは誰にだって分かることです。基本は垂れ流しの赤字なんですから。

投資家は、人のお金を預かって投資を行っているので、基本的に100円でも良いからリターンをプラスにしたいという気持ちで一杯です。なので、出資時の価格から下がることを嫌います。優先株であれば多少下がっても元本は確保できることは多いかもしれませんが、とはいえなんとかして1円でも多く利益を出してよねって思っています。

まあ、そこまでは良いんですが、しばらく会社を続けるとIPOとかM&Aを意識し始めます。IPO出来るくらい順調な事業なら良いのですが、ほとんどのスタートアップはIPOの準備すら始められません。IPOの準備には毎月数百万単位のお金がかかるので。

そうなると、ほとんどのスタートアップの出口はM&Aしか道が無いのです。そしてM&Aでは10億を超える会社を買える買い手は極めて少ないのです。これがオプションを狭めてしまうという意味です。完全に詰んでしまう。

本来もう少しリーンにやっていれば、投資金額は半分で良かったはずなのに、もしくは出資自体は要らなかったのかもしれないのに、気の迷いで受けた出資のために、株価は上がり、出口の数が少なくなってしまいます。

なので、会社を始めるときには、明確な出口設計を行っておかないと、どんどん首が絞まって、死ぬに死ねないリビングデッドになってしまいます。ある程度の売上があるので、今日や明日に潰れることはない。けれども大きく売上が上がる気配は全く無く、会社の実質の価値は最後の出資を受けたときから数分の一になっていて、M&Aではオファーが来ないか、来てもいい値段がつかない。なので、辞める理由も無くてこのまま続けるしかないというような状態です。まさにゾンビ。

そんな詰んだ状態は本当にツライものです。これは、スタートアップ業界の構造的な問題で、誰が良いとか悪いとかそういう事ではありません。これを打開するには、新しい価値を創出して、投資家へのリターン可能なところまでもっていくか、投資家には泣いてもらって、企業価値を大幅に割り引いた形でM&A先を探すしかありません。もしくは会社精算か。

今回のハコスコのExitでは、株主のみなさんと笑いながらお礼を言える形で閉じることが出来ました。いい値段がつかなくて腐っていたときは、投資のお金は自分のお金じゃないんだから投資家のことを気にしなくていいよくらいに思っていましたが、やはりきちんとお返しできると気分が良いです。

号泣したアンリさんとハコスコ創業者の藤井、太田良

シード投資家であるアンリさんが、Exitの謝恩会で「なおちゃんとたらづんとは友達だったのに、投資家という立場に変わってからは友達として接することが出来なかったのが辛かった。今回のクロージングで、元の友達に戻れてよかった。」と言って号泣されたのはビックリしましたが、それぞれの立場で傷つけ合うのが、出資をして出資をうけるということなんですよね。

なので、これから会社を始める人、すでに始めていて増資を考えている人たちは、そのお金本当に必要?Exitはいつどういう形なの?という質問への答えを常に持っておいてもらえたら良いなと思います。

ゴールを設定しないことには未来は作れません。まずは、いつまでに何をやったらどうなるというExitまでの設計をしましょう。

僕は今回の教訓を得て、個人的な活動になるのか、事業としてやるのか未定ですが、スタートアップスタジオ事業を通じて「(優秀な)Living Deadが再び輝けるしくみ」を作ろうと思っています。(実際には太田良さんが作るんですが)

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