フィジカルインターネットとは? 実現に向けた取組の進捗状況は?
「フィジカルインターネット」とは何でしょうか?
経済産業省は2023年6月13日、「2023年度第1回 フィジカルインターネット実現会議」を開催しました。
今回はこの中から、フィジカルインターネットの実現に向けた取組の進捗についてとりあげたいと思います。
フィジカルインターネットとは?
フィジカルインターネット(Physical Internet)は、物流システムの効率と持続可能性を大幅に改善することを目指した考え方です。
フィジカルインターネットは、インターネット通信における、データの塊をパケットとして定義し、パケットのやりとりを行うための交換規約(プロトコル)を定めることにより、回線を共有した不特定多数での通信を実現する考え方を、フィジカル、つまり物流の世界にも適用しようという考え方です。
フィジカルインターネットは、以下のような特徴を持ちます。
オープン性と相互運用性:物流ネットワークの参加者は、共有のプロトコルと規格に基づいて行動し、互いに連携する
動的な最適化:送付先、時間、コスト、環境影響などの要素に基づいて、輸送ルートやネットワークのリソースが動的に最適化する
スケーラビリティ:物流ネットワークは、小規模なローカルな運送から、大規模なグローバルな供給チェーンまで、あらゆるスケールで適用する
持続可能性:フィジカルインターネットは、輸送の効率を向上させ、空車走行を減らすことで、環境への影響を最小限にする
フィジカルインターネットは、物流業界における効率性と持続可能性の向上を可能にする考え方として期待が高まっています。
政府がフィジカルインターネットに注力している背景
電子商取引の増加や積載効率の低下、人口減少に伴う労働力不足の深刻化などにより、物流における需要と供給のバランスが崩れつつあります。
この状況を放置すれば、2030年時点で、7.5~10.2兆円の経済損失が発生するなど、経済全体の成長を制約することになるだけでなく、物流機能それ自体の維持が困難になるおそれがあると指摘しています。
こうした事態を回避し、物流を産業競争力の源泉としていくため、物流のあるべき将来像として、我が国における「フィジカルインターネット」の実現に向けたロードマップを策定することを目的に、経済産業省と国土交通省は2021年10月にフィジカルインターネット実現会議を設置。そして、2022年3月8日、ロードマップを取りまとめています。
フィジカルインターネットの実現に向けたロードマップ
フィジカルインターネットの実現に向けたロードマップのイメージでは、完成時期は2036年ごろを完成期として位置づけています。
本ロードマップでは、業界横断的に行うべき取組として、
・ガバナンス
・物流・商流データプラットフォーム
・水平連携
・垂直統合
・物流拠点
・輸送機器
の6つの項目に整理しています。
各項目では、パレットやコンテナ容器などの物流資材の標準化・シェアリングや、データ連携のためのマスタ、プロトコルの整備、企業経営者のサプライチェーンマネジメントやロジスティクス重視への意識変革など、2040年までに段階的に行うべき取組を示しています。
本ロードマップでは、フィジカルインターネットが実現する4つの価値として、
・効率性(リソースの最大限の活用・CO2排出の削減など)
・強靭性(災害にも備える生産拠点や輸送手段の多様化など)
・良質な雇用の確保(労働環境の改善・新産業の創造など)
・ユニバーサル・サービス化(買い物弱者や地域間格差の解消など)
を挙げています。
これらの価値は、「持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)」における17の目標のうち、8つの目標(保健、エネルギー、成長・雇用、イノベーション、不平等、都市、生産・消費、気候変動)の達成にも寄与するとしています。
深刻化する「物流の2024年問題」への対応
物流業界において大きな課題となっているのが、「物流の2024年問題」などへの対応です。
トラックドライバーの長時間労働是正のため、2024年度からトラックドライバーに時間外労働の上限規制(年960時間)が適用されます。
物流効率化に取り組まなかった場合、労働力不足による物流需給がさらに逼迫するおそれがあり、コロナ前の2019年比で最大14.2%(4.0億トン)の輸送能力不足が起こると試算されています(物流の2024年問題)。
さらには、2030年には、34.1%(9.4億トン)の輸送能力不足が懸念されています。
こういった状況の中、荷主、事業者、一般消費者が一体となって我が国の物流を支える環境整備について、関係行政機関の緊密な連携の下、政府一体となって総合的な検討を行うため、令和5年3月31日に「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」を設置しています。
同年6月2日に第2回を実施し、商慣行の見直し、物流の効率化、荷主・消費者の行動変容について、抜本的・総合的な対策をまとめた「物流革新に向けた政策パッケージ」を決定しています。
フィジカルインターネットの実現に向けて
フィジカルインターネットの実現に向けては、さまざまな実証の取り組みを行っており、「物流・商流データプラットフォーム」に関する取組では、SIPスマート物流サービスの展開をしています。
地域でのフィジカルインターネットに向けた取組
地域でのフィジカルインターネットに向けた取組では、物流課題には地域差・業種差があることを踏まえ、企業や業種の枠を超えたそれぞれの地域レベルでのフィジカルインターネットの実現を国としても後押しすべきとしています。
特に課題が顕著と考えられる北海道を対象に、幅広い荷主・物流の事業者間の問題 意識の共有、情報・意見交換を促す「地域フィジカルインターネット懇談会」を開催。併せて、地域物流の課題や協調の可能性を探るための実態調査も実施していく計画です。
業界でのフィジカルインターネットに向けた取組
業界でのフィジカルインターネットに向けた取組では、フィジカルインターネット・ロードマップに基づき、業界別ワーキンググループを設置。それぞれのWGにおいて2030年に向けたアクションプランを策定し、2022年度より基本 的な項目の標準化やルール化などに向けた議論を開始しています。
出典:2023年度第1回 フィジカルインターネット実現会議 2023.6
今後の展望
フィジカルインターネットのゴールのイメージは、さきほどの繰り返しにはなりますが、
①効率性(世界で最も効率的な物流)
②強靭性(止まらない物流)
③良質な雇用の確保(成長産業)としての物流
④ユニバーサルサービス(社会インフラとしての物流)
です。
興味深いのがアマゾンジャパンが7月6日に、日本全国11カ所に配送拠点を新設することで、配送の効率化を測っています。フィジカルインターネット的な動きの一つといえるかもしれません。
「物流の2024年問題」がより現実的にせまっている中、中長期的な視野も含めたフィジカルインターネットへの取組の加速が急がれるところです。
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