不眠症治療アプリ:保険申請で株価急落

2024年1月29日
全体に公開

デジタル技術の発展により、色々な分野で新しい製品が出ています。医療の世界でもそれは同じです。昨年は、不眠症の治療を行うアプリが医療機器として認められ、保険適用の準備が進められていました。

ところが、今月、国の審議会で「評価すべき医学的な有用性が十分に示されていない」と評価され、株価が半値近くまで下がる事態になってしまいました。一体、何があったのでしょうか。

どんな製品なのか?

今回、保険適用が申請されたのは、不眠障害の患者に対して、認知行動療法を提供するアプリです。

認知行動療法とは、ストレスなどで固まって狭くなってしまった考えや行動を、患者自身の力で柔らかくときほぐし、自由に考えたり行動したりするのを補助する心理療法の一種です(国立精神・神経医療研究センター)。

このような治療をアプリで提供し、不眠障害を治療していこうとするものです。

医療技術評価分科会

昨年、医療機器として承認されている

本品は、臨床試験を行い、昨年、医療機器として承認されています。

その際には、アテネ不眠尺度(AIS)という指標を用いて、本アプリを使用した患者87名(Active群)と、比較用のアプリを使用した患者88名(Sham群)における、治療前後の不眠症状を比較しています。

審議結果報告書

結果は下図のとおり、比較用アプリを使用した場合よりも、本アプリを使用した場合の方が、AISの改善が大きくみられました(※AISは、6−9点で軽度不眠症、10−15点で中等度不眠症、16−24点で重度不眠症に相当するなどと報告されています。)。

医療技術評価分科会

保険適用を申請し、38,400円の価格を希望

企業側は、本アプリについて、対面の認知行動療法の8〜10回分の効果がみられるとして、認知行動療法8回分の費用である38,400円という価格を希望したようです。

ただし、対面の認知行動療法と本アプリによる治療を、直接比較した研究は行っていないようです。他の研究を引用して、同程度であることが示唆されたとしています。

また、そもそも不眠障害に対して、認知行動療法は保険適用されていません。つまり、不眠障害に対する認知行動療法の有用性は、対面で実施したとしても、保険上評価すべきものとして扱われていないということです。

そうした申請内容を踏まえて、医療技術として審議が行われた結果、「評価すべき医学的な有用性が十分に示されていない」と評価され、今回改定では対応を行わない技術として分類されました。

今後はどうなる?

今回、まずは医療技術という観点から審議が行われ、次に医療機器として最終的な評価が行われる段取りとなっていました。しかしながら、企業側は、このまま審議を行なっても希望に沿った結論には至らないと考え、保険適用の希望を取り下げたようです。

今後、企業が希望すれば、再度、保険適用を申請することも可能です。医療材料等であれば年に4回、今回のように他の既存技術に対する評価の見直しがあわせて必要などと判断された場合には2年に1回、保険適用される機会があります。

ただし、単に再申請しただけでは、今回の検討がそのまま準用されてしまう可能性が高いため、さらに有用性等を示すなど、対応が必要になってくると思われます。

参考文献

  • サスメド株式会社「不眠障害治療において患者と医師を支援するアプリの医療機器製造販売承認取得について」(2023年2月15日)
  • サスメド株式会社「昨日の厚生労働省からの公表資料について」(2023年1月16日)
  • サスメド株式会社「サスメド Med CBT-i 不眠障害用アプリ」令和6年度診療報酬改定時における保険適用希望書の取り下げについて」(2023年1月29日)
  • 診療報酬調査専門組織・医療技術評価分科会「医療技術評価・再評価提案書」(2023年11月20日)
  • 診療報酬調査専門組織・医療技術評価分科会「医療技術の評価(案)」(2024年1月15日)
  • 診療報酬調査専門組織・医療技術評価分科会「医療技術に対する評価について(案)」(2023年2月9日)
  • 国立精神・神経医療研究センター「そもそも認知行動療法(CBT)ってなに?」https://www.ncnp.go.jp/hospital/patient/rinshoshinri/rinshoshinri_blog20220713.html#:~:text=%E8%AA%8D%E7%9F%A5%E8%A1%8C%E5%8B%95%E7%99%82%E6%B3%95%EF%BC%88Cognitive%20Behavior,%E3%81%8A%E6%89%8B%E4%BC%9D%E3%81%84%E3%81%99%E3%82%8B%E5%BF%83%E7%90%86%E7%99%82%E6%B3%95%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82
  • 厚生労働省「審議結果報告書(SUSMED 不眠障害治療用アプリ Med CBT-i)」(2022年12月19日)
  • Okajima et al. Evaluation of Severity Levels of the Athens Insomnia Scale Based on the Criterion of Insomnia Severity Index. Int J Environ Res Public Health. 2020 Nov 26;17(23):8789. 
  • 保険医療材料専門部会「令和6年度保険医療材料制度の見直しについて(案)」(2024年1月17日)

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