保険外の診療を行うと全て自費になる!? 〜混合診療とは

2024年1月15日
全体に公開

 今回の診療報酬改定では、「選定療養」の範囲が拡大し、注目を集めています。それに先立って、まずは混合診療について紹介したいと思います。

混合診療とは?

 混合診療とは、「保険で認められている治療法」と「保険で認められていない治療法」を併用することです。日本の医療保険制度では原則として禁止されており、実施した場合には、全ての費用が自費となります。

混合診療をめぐる理念の相違

 混合診療については、小泉政権以降、主に規制改革推進会議と厚生労働省の間で長いこと議論が続けられました。規制改革側が推進派、厚生労働省側が慎重派となるわけですが、そもそも両者は保険医療制度に関する理念が大きく異なっています。

推進派と慎重派では、公的保険の理念が異なる。
すなわち、推進派は、公的保険は最低限度の医療をカバーし、これを上回る部分は民間保険を含め自己負担で行うべきものと考えるのに対し、慎重派は、所得水準にかかわらず誰でも必要十分な医療を受けられるよう、公的保険は必要かつ適切な医療をカバーしなければならないと考える。
「混合診療をめぐる経緯と論点」(堤 建造)

国立国会図書館が、双方の意見の違いをうまくまとめており、混合診療の全面的な解禁について、それぞれ以下のような主張をしています。

<医師ー患者間の情報の非対称性について>

慎重派:専門知識のない患者は、効果や安全性が明らかでない治療法であっても、その内容を正確に評価することは難しい。医師の勧奨を受ければ、治療は実施される可能性が高く、科学的根拠のない医療が安易に行われる危険性がある。

推進派:情報開示や説明義務の徹底により、情報の非対称性は解消できる。そもそも、安全性に問題のある医療は保険内外を問わず、取り締まるべき。

<医療格差について>

慎重派:(製薬企業などは)保険収載しなくてもビジネスが成り立つようになるため、公的保険の給付範囲が縮小し、高所得者以外の者は最低限の医療しか受けられなくなる懸念がある。

推進派:本当に必要な一般的な医療を保険診療として守れば、医療格差は生じないはずである。むしろ、混合診療を解禁することで、患者負担が軽減され、先進的な医療を受けやすくなる。

<保険財政について>

慎重派:の命を平等に扱うには、全ての医療を保険収載し、全ての国民が平等に医療を受けられるようにすべき。

推進派:全ての医療を公的保険で賄うのは、財政的に不可能である。

制度上、認められている混合診療もある

 混合診療は「原則として」禁止されていると述べましたが、慎重派・推進派の間で議論を重ね、現在では部分的に解禁されています。これが保険外併用療養費制度と呼ばれるものです。新しい医療技術を保険に導入するための評価を行うものとして「評価療養」と「患者申出療養」、保険導入を目的とせずに患者の選定に委ねられるものとして「選定療養」の3つ制度が設けられています。

次回は、これらについて、取り上げたいと思います。

参考文献:

  • 厚生労働省「保険診療と保険外診療の併用について」https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/sensiniryo/heiyou.html
  • 国立国会図書館調査及び立法考査局社会労働課. 堤建造「混合診療をめぐる経緯と論点」(レファレンス平成27年3月号)
  • 島崎謙治「日本の医療 制度と政策」(東京大学出版会, 2020)

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