【基礎情報整理:スタートアップ 】(その2)なぜブラジルでフィンテックが盛んなのか

2023年10月23日
全体に公開

ブラジルのフィンテックの背景については前編でお伝えしました。今回は、そのフィンテックの今後の発展に影響を与えそうなポイントを挙げたいと思います。今年初めにNewsPicksでも多くピックされたメルコスール共通通貨構想関連の話題にも触れます。

オープンファイナンスの利用率は8%に過ぎないが、今後の急増が期待されている

ブラジルのフィンテック分野の今後の拡がりを考える上で見逃せないのがオープンバンキング/ファイナンスです。これは顧客のファイナンス履歴を他の銀行と統合システムを通じて共有できるものですが、ブラジルでは2021年2月に始まり、4フェーズに分け少しずつ範囲を広げてきました。2021年12月以降のフェーズ4では保険、投資、外国為替などについても取引データの共有が可能になっています。Distrito社のレポート(元データは中銀)によると今のところオープンバンク/ファイナンスの利用者は、口座保有者の8%、1500万人程度にとどまっているようです。ただし、自分のデータを他の金融機関に共有することに合意すると回答している消費者の数が急増していることで、オープンファイナンスのユーザーの今後の急増も見込まれています。また既に利用している8%のユーザーについては、すでに45程度のサービスが利用可能になっているとのことです。

即時決済システム(PIX)の国際化、まず南米を中心に展開

以前のトピックスでご紹介した、ブラジルの即時決済システムPIXについては、中央銀行がその国際化を進めようとしています。カンポス・ネット中銀総裁は、10月2日の金融イベント出席の際、ウルグアイ、アルゼンチン、米国のオーランドにおいてブラジル人はPIXで一部の買い物ができるようになると発言しています。ウルグアイの場合、ブラジルのフィンテック企業のPagBrasilとウルグアイのPlexo社が関わっているようです(ウルグアイ側の報道ですと南半球の夏にあたる年明け以降に旅行に来るブラジル人が使えるだろうと書かれています)。

即時決済システムの国際化については、国際決済銀行(BIS)がNexusプロジェクトというクロスボーダーの即時決済システムの導入を研究していますが、ブラジル中銀はそちらにも積極的に参加する姿勢を見せています。

筆者撮影:スーパーマーケットのレジの横の支払い手段に関するボード。PIXでの支払いができることと小切手の支払いができないこと(かつては利用者多し)が書かれている。

自国通貨・レアルのデジタル化は2024年末を目途に

ブラジルは、自国通貨レアルのデジタル化も進めています。2023年5月には中央銀行がパイロットプロジェクトに協力してくれる金融機関を募集したところ、最終的に14の機関が選ばれました。リストはこちらです(ポルトガル語ですが参加機関の名称は箇条書きなので読み取れます)。

ブラジルの代表的なフィンテック企業のNubankの他、サンタンデールやBBVなどスペイン系銀行、イタウ、など国内大手行も名をつられています。なお、マイクロソフトがいろんな金融機関とコラボしているのが目につきます。2024年末までには準備が整うと見込まれています。

メルコスール単一通貨導入否定するブラジル。実は自国通貨のみの決済システムは既に存在

ブラジルの通貨絡みのニュースとしては、今年の初め頃に「南米南部共同市場(メルコスール:原加盟国アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ)で単一通貨導入を目指す」というニュースが話題になりました。しかし、これについては誤解が多いとして、3月、ブラジル政府がソーシャルメディアにおける共通通貨構想の情報拡散にクギをさしています(政府発表。ポルトガル語)。

つまり、メルコスール間の共通通貨は、国際間の商業活動の際のみ使用されるものを指しており、ブラジルの現通貨レアルやアルゼンチン・ペソに代替する通貨として言及されたことはなかったというものです。

なお、共通通貨ではありませんが、既存の自国通貨同士の決済システムはすでにメルコスールの中で運用されています。2007年12月のメルコスール首脳会議の際に合意(ALADIデータベース:スペイン語)され、現在も稼働中現地地通貨決済システム(SML)と呼ばれています。

出所:ブラジル中央銀行のHPをもとに作成

2国間の協定をベースにしており、ブラジルの場合、アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイとそれぞれ協定を結び、中銀が管理しています。それぞれの通貨ごとのレートが設定されています。

ブラジル・アルゼンチン間の協定では物品の取引のみが可能ですが、ウルグアイとパラグアイ間では物品に加え、サービス貿易、個人送金なども対象となっています。アルゼンチンとウルグアイ間については、ジェトロ・ブエノスアイレスの2023年7月6日付レポートの後半にも書かれていますが、最近SML協定が見直され、それまでの物品以外に、サービス貿易や家族送金も対象となったようです(アルゼンチン外務省9月5日付リリースはこちら:スペイン語)。

アルゼンチンの大統領選挙が2023年10月22日に行われ、メルコスール脱退を公約に掲げているミレイ候補が決選投票に進みました。もし決選投票で当選した場合、メルコスール内の上記枠組みにどう影響が出るかは注意したいところです。

(冒頭イメージ画像:UnsplashよりNathan Dumlao撮影)

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