職場における女性の健康課題を解決する、大手日本企業の福利厚生事例と文化の醸成(FemtechX-13)
先日、日本の大手飲料メーカーで、フェムテックや更年期に関する講演を行なった。
事前の打ち合わせで「女性の健康課題を解決する取り組みを実施している日本企業の事例を紹介してほしい」と依頼があり、当日の講演で参加者からも「日本の他社事例が知れてよかった」と感想をいただいた。
筆者も、多くの大企業の新規事業担当者や人事担当者と話していると、実際の企業名を紹介することで、管理職や役員のような意思決定者には響くと感じる。
そこで今回は、日本企業の「職場における女性の健康課題を解決する事例」を紹介する。日本企業で女性の健康を考えるきっかけにしてほしい。
1.生理休暇制度の名称変更や、休暇範囲の拡大
日本の生理休暇取得率は0.9%となっており、「生理」という理由をなかなか会社に言いにくい背景がある。
そこで、Ladyの「L」や、Famaleの「F」などの頭文字から、女性特有の体調不良や不妊治療の利用に取得できる休暇の名称変更を行う日本企業が増加している。
①野村不動産ホールディングス:女性特有の体調不良時には、月1回の「エフ(F)休暇」
②Yahoo!グループ:従来の「生理休暇」を改め、女性特有の疾患や不妊治療の利用に拡大
③大和証券グループ:生理休暇の名称を「エル(L)休暇」と改め、更年期や不妊治療を理由に取得できるよう、対象範囲を拡大
Yahoo!グループでは、生理休暇の適用範囲を拡大したところ、2022年4月〜10月のアンケートでは、「F休」を取得したことがある割合が42%に増加している。
最近では、グローバルヘルス企業のオルガノンでも、生理休暇を「Her Day Leave(ハーデイ・リーブ」と名称変更し、取得要件を「生理」以外にPMSや更年期症状に広げている。ライフステージに応じた女性従業員の多様なニーズに応えている。
2.教育・啓発セミナー
日本女性は特に、生理痛や更年期は「病気ではない→病院に行くべきではない」という傾向があるため、生理や更年期の知識啓蒙が重要な課題である。
①丸紅:婦人科オンライン診療・相談できる「ルナルナ オフィス」を導入し、全社員を対象に女性ヘルスケアに関するセミナーを開催
②第一生命ホールディングス:女性更年期だけでなく、男性更年期についても専門家を招いてセミナーを開催
③パナソニック コネクト:男女の性差や身体、健康についてのヘルスリテラシー向上と、卵子凍結の有用性に関する理解の促進を目指すセミナーを開催
ヘルスリテラシーの高い人のほうが、生理や更年期症状などにおける仕事のパフォーマンスが高い傾向にある。ヘルスリテラシーを向上させる取り組みを行うことで、女性の身体に関する知識を身につけることが重要である。
3.チームトレーニング(管理職への教育)
経済産業省の調査では、女性従業員と管理職(男性・女性)の間に、女性が不調である原因の認識にギャップがある。
女性従業員の約5割が女性特有の健康課題などにより、職場で困った経験があると回答している。そのうちの多くが生理痛やPMS(月経前症候群)によるものである。
しかし、管理職では約4割が女性特有の健康課題への対処に困っていると回答しているが、最も多いのはメンタルヘルスとなっている。
①パーソルキャリア:生理とPMS(月経前症候群)をテーマに、管理職向けと女性従業員の2回に分けてセミナーを開催
②明治安田生命保険:管理職に対し、部下のキャリア支援やヘルスケアに関するコンテンツを提供
③ドコモ・ヘルスケア:男性管理職が「生理」を学ぶ、女性の健康課題とライフステージを正しく理解するセミナーを開催
4.金銭的補助や給与天引き
社員の選択肢を増やすための不妊治療の金銭的補助や、ピルや漢方などの処方薬の補助などがある。
ただし、欧米では卵子凍結の福利厚生について、ポジティブな意見も多い一方、「子どもを持つことを先延ばしにして、働き続けてほしい」というメッセージとして受け取る人もいるため、伝え方には注意が必要である。
①メルカリ:卵子凍結支援制度として、社員や社員の配偶者(パートナー含む)に対し、妊活サポートの一環として、200万円/を上限として補助
②サイバーエージェント:女性社員を対象に、卵子凍結に関する費用を、一人40万円を上限に補助
③大和証券グループ:医務室に婦人科専門医を配置し、オンライン婦人科診療が可能。料金は給与天引き
5.まとめ:正しい知識を身につけることと、企業文化の醸成が肝
上記で紹介した観点以外にも、女性の健康課題を解決する福利厚生制度のポイントとして、「柔軟や勤務時間」「メンタルヘルスのサポート」「プライバシーの保護」「昇進や昇格などキャリアへの影響」などがある。
また、制度はもちろん重要だが、制度導入後の「企業文化の醸成」が最も重要であり、「制度は立派、風土はなし」だと、建前上の制度導入にしかならない。
女性の健康課題は、非常にデリケートな部分でもあるため、数値を取りにくい課題がある。しかし、少しずつではあるが数値として結果を出している事例もある。
例えば、脱毛サロンを展開するミュゼプラチナムでは「女性活躍・健康経営プロジェクト」を実施し、プロジェクト実施前と比較し、月経痛有症者の仕事への支障が12.3%減少したという結果も出ている。
このように、数値として結果を出していけると、福利厚生を導入する企業の管理職・役員などの意思決定層にも響くと考えている。
7.お知らせ:9/27(水)17:15、無料オンラインイベント登壇
職場での女性の健康課題について考えるイベント「Dive In Festival Japan」に登壇します。無料オンラインとなっていますので、職場における生産性やダイバーシティに興味のある方は、ぜひご参加ください。
なぜ今、職場で女性の健康課題に取り組むべきなのか。人的資本経営の視点からも解説します。
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<参考>
・保存版 見落とされる3兆円市場、最先端スタートアップ10社を先取り
https://newspicks.com/news/8744689
・社員の更年期を会社が支える
https://woman.nikkei.com/atcl/feature/23/022000191/032400007/?i_cid=nbparia_sied_pkl_autom
トップ画像:UnsplashのRoméo A.が撮影した写真
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