ロボット兵士"のみ"の戦争がやってくる

2023年12月4日
全体に公開

 こんにちは、Cobe Associe代表の田中です。

 新卒でコンサル会社に入ることが決まり、入社半年前に段ボール一杯に課題図書がおくられてくる。考える技術核技術、論点思考、仮説思考などの業界スタンダード本や「社会人としてのマナー!」のような基礎本に加えて、「先輩社員たちのおすすめ本リスト」が入っていました。そこで紹介されていた本の一冊が『ロボット兵士の戦争』で、直感的に「正しい就職活動をしたな」と思ったことを思い出します。すぐに本屋に駆け込み、すべての課題図書(と佳境の修士研究)を脇にどけて、700ページ超を一気に読みました。

 ある軍用ロボットメーカーの科学者は、「ターミネーター」のような外観のシステムを作れるかどうか、米軍から問い合わせがあったと報告している。
 戦場は、いまやSFに追いつきつつある。すでに多くのロボットが兵士の任務を代行している。イラクやアフガニスタンの空では無人航空機が偵察し、監視し、時には攻撃まで行う。
 軍用ロボット技術は、今後どこへ向かい、人類にどんな影響をもたらすのか。軍、産業、政治、それぞれの思惑が複雑に絡み合う現状と、新しい戦争が作り出す難問の数々を、安全保障問題の専門家が初めて明らかにする。『戦争請負会社』の著者による、衝撃の21世紀戦争論!!
Amazon 書籍紹介より

 この本が出てから約15年。ウクライナやイスラエル/パレスチナはもちろん、小規模な紛争地帯でも、戦場はよりいっそうSF化しています。2019年に出た「無人の兵団――AI、ロボット、自律型兵器と未来の戦争」で紹介されるテクノロジーたち(イスラエルの完全自律型無人機・ハーピー/IAI Harpy、米国の無人実験艇・シーハンター/SEA HUNTER、韓国のロボット哨兵・SGR‐A1など)をしるだけでも充分に「今後の戦争がロボット兵士"のみ"で行われるようになるかもしれない」と感じさせてくれたが、2023年いま現在すすむ軍事技術開発の最前線はそれ以上のものがあります。

  先月、評価額27億ドルで2億ドルを調達した米国のスタートアップ・Shield AIは軍事用自律飛行機を開発しています。この会社の主力製品はAIパイロット・ソフトウェアのHivemindで、ドローンや航空機が自律的に動くことをサポートします。同時に、V-Bat Teamsと呼ばれる制御機能を開発し、1人で4機以上のドローンを操作するシステムも開発しています。

 この領域に投資を続けている大国は米国だけではありません。渦中のイスラエルやロシアに加えて、中国も相当積極的に軍事領域でのAI活用を進めています。実際に、前回資金調達を行った一昨年にShield AI Co-Founder、Brandon Tsengは、中国に対して後れをとる米国の軍事技術開発への危機感をこのように語っています。

China’s military is Netflix; the U.S. military is Blockbuster.
China is Amazon; the U.S. is Barnes & Noble.
China is Tesla; the U.S. is General Motors.

中国の軍隊はネットフリックスであるが、一方で米軍はブロックバスター。
中国はアマゾンであるが、米国はバーンズ&ノーブル。
中国はテスラであるが、米国はゼネラルモーターズである。

 今年9月にロイターは"In U.S.-China AI contest, the race is on to deploy killer robots"(米中間のAIコンテストで殺人ロボットの配備競争が始まる)と題する特別レポートを配信しました。そこで語られる、AIが戦場にもたらす革命(及び中国がこの領域で先行することの米国にとっての危険性)は、10年後の戦場がいまのそれとは全く異なるものであろうことを予想させる内容でした。

おそらく自律型兵器よりも革命的なのは、人工衛星、レーダー、ソナーネットワーク、シグナルインテリジェンス、オンライントラフィックから収集される膨大な量のデータを吸収・分析することで、AIシステムが軍司令官に情報を提供し、戦闘方法を決定する手助けをする可能性だろう。技術者によれば、これらの情報は膨大な量に膨れ上がっており、人間の分析者では消化しきれないという。このデータを解析するように訓練されたAIシステムは、指揮官に戦場をより良く、より速く理解させ、軍事作戦に様々な選択肢を提供することができる。
Reuters, 機械翻訳

 いまはまだ、開戦と終戦の判断は人間に残されています。が、向こう十数年で、まるで株や為替のトレーディングのように、軍事的意志決定のすべてがAIとロボットによってなされるようになるのかもしれません。そのとき、私たちには何が出来るんでしょうか。

 最後に。劉慈欣が書いた短編「栄光と夢」では、戦争の代わりにオリンピックが利用される世界が描かれています。たとえあらゆる兵器がなくなったとしても、テクノロジーの進化が止まったとしても、人間集団の暴力性は生き続けるんだろうと絶望します。それでも、戦争の未来を考える上で、とても良い短編です。↑でご紹介した書籍とあわせて、どうぞお求めください。

●栄光と夢(光荣与梦想)2003年3月7日脱稿 《科幻世界》2003年8月号
 延期された東京オリンピックが無観客で開催された2021年に本篇が初めて邦訳されるというのも妙に因縁めいているが、これは〝もうひとつのオリンピック〟を描く風刺SF。作中のシーア共和国は、原文では西共和国(西亜共和国)だから、日本語に訳せば「西アジア共和国」だが、それだとかえって混乱を招きそうなので、発音のほうをとって「シーア共和国」とした。 イラク戦争(第二次湾岸戦争)が勃発したのは、著者が本篇を脱稿した直後の3月20日。その三日前、サッダーム・フセイン大統領に対し、国外退去しなければ全面攻撃するとの最後通牒をつきつけていたジョージ・W・ブッシュ米国大統領は、この日、予告どおり、英国軍などとともに、〝イラクの自由作戦〟と名づけた侵攻作戦を開始した。開戦理由のひとつとしてイラクの大量破壊兵器保有を挙げたが、戦争後もそうした兵器は見つからず、この情報は捏造だったとされている。本邦初訳。

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