世界に広がる「市民監視」技術

2023年12月11日
全体に公開

 こんにちは、Cobe Associe代表の田中です。

 前回は、ドローンを始めとした軍事技術を取り上げました。今回はもっと身近な、警察による偵察用ドローン活用などなどについて書きます。

広がる警察によるドローン活用

 ノースウエスタン大学の研究によると、現在米国の警察の1/4(約1,200組織)がドローンを活用したパトロールや事件対応を行っています。一部の警察では、911コールが入ったり、警官が無線で応援を要請したりするとまずはドローンをとばし、たいがいの場合はドローンのほうが警察官よりも先に到着します。そして付属の高解像度カメラで現場を撮影し、本部に映像を届け、記録するのです。

 この技術を推す人たちは、ドローンを用いることで現場観察の正確性が高まること(制服付属のボディカメラ等よりもブレが少なく高解像度)、現場の状況を正確に判断することで初期対応の精度が向上すること(対応要否や武装の必要など)をその理由に挙げます。一方で、警察官が上空から人々を監視することに対する拒否感を示す人たちも当然いて、2016年にボルチモア警察が秘密裏に1日10時間もドローンを飛ばして市民生活を記録したときには、米国自由人権協会が同署を提訴し、違憲判決が下りました。

DJIに変わって成長する米国系ドローンメーカー

 それでも、テクノロジーを警察に導入する取組は止まりません。産業用ドローンを開発するスタートアップの1社、Skydio社は、警察のパトロール目的での自社製品利用を推進しています。AIを活用することで、それほど訓練をしなくても警察官が操縦できる監視ドローンを320以上の期間に売り込むことに成功しました。同社には、大手VCのa16zやACCELが出資をしています。

 OpenAIのバタバタで一層知名度を高めたサム・アルトマンも出資する、同業のBRINCは、暗視カメラを搭載した監視用ドローンを提供しています。これまで市場の3/4を占めていた中国メーカー・DJIが、11月頭に成立した法案によって連邦政府のドローン調達先リストから外されたことで、ここぞとばかりにアクセルを踏んでいます。

 その他にも、充電のために着陸する必要のない自律型ソーラー飛行機を開発するSkydweller Aero社は既に米国国防総省と契約を締結し、「持続的な監視」をより現実的にする技術開発に取り組んでいます。その他、低軌道衛星を活用して地球上のあらゆる場所の画像を1時間に1枚撮影するBlackSky社や、不審な動きがないかカメラを自動監視する技術を持つAmbient AI社など、市民監視のための技術は着々と進展を続けています。

日本では...

 ドローン、日本でもこれまでは災害対策の文脈で導入が進んできましたが、ここにきて、警察官の安全確保の文脈などで初動捜査や要人警護での利用も検討され始めました。「捜査以外に警察官の巡回や災害時での使用も検討」とあるので、米国のように、監視目的での利用へと広がっていくこともあるかもしれません。

 また防犯カメラ関連で、NEDOプロジェクトにも採択された「防犯カメラにAIを実装して事件・事故を予防・抑止 五感AIカメラの実用化」が、万引き対策や災害防止の目的でアースアイズ社より実サービス化されています。検知率96%とはなかなか...!!

【万引き対策】不審行動検知(AIガードマンthe server)
【万引き対策】フルセルフレジの商品スキャンミス検知(セルフレジeye)
【販売支援】お声かけタイミングお知らせ(AI help you?)
【防災】火・煙の検知(ファイヤープリベンションAIシステム)

 先に紹介した海外企業は、いずれも軍とも繋がりの深い会社たち。戦場の広がりに合わせて得られた追加データが、私たち市民の周りで使われる技術の進展を支えているかと思うと、少し複雑な気持ちになります。技術は使いよう、ですね。

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