スタートアップ界で絶賛される静岡銀行が面白い

2023年6月29日
全体に公開

最近、スタートアップのCFOやベンチャーキャピタル(VC)が、「デットといえば、しずぎん」と口を揃えて絶賛しています。

静岡銀行のことです。

☕️coffee break

静銀は、静岡県に拠点を置く、しずおかフィナンシャルグループ傘下の地方銀行です。

県内には、スズキ、ヤマハ、ヤマハ発動機といったリーディングカンパニーが拠点を構えており、製造業の出荷額は全国3位を誇る地域です。飲料・たばこ・飼料、木材・木製品、パルプ・紙加工品など、幅広い分野で全国トップシェアを誇ります。

そんな豊かな産業環境を背景に、静銀は2021年6月に、イノベーション戦略の一環としてベンチャーデット(スタートアップ向けの融資)事業を立ち上げました。

そこには、3つの背景がありました。

①地方銀行自身が、未来を見据えて新たな領域を開拓する必要があったこと

②静岡県の経済を活性化を図る必要があったこと

③多くのスタートアップがデット調達で苦労していること

日本全体が人口減少や少子高齢化に直面していますが、地方では経済・産業の縮小にダイレクトにつながります。そのため既存の銀行事業の強みを生かし、新規事業を模索していました。

そうした中、日々接するスタートアップから、株式の希薄化がないデット(融資)での調達をエクイティ調達に組み合わせたいと思っているものの、なかなか上手くいかないという相談が増えていたそう。

デット調達は条件が厳しいからです。

例えば、

・黒字化していることが求められる

・資金使途が制限される

・アーリーステージでは難しい

など。

つまり、スタートアップの特徴である急成長を狙った積極的な投資と、デットは、そもそも相性が悪いわけです。

🍪もっとくわしく

静銀はベンチャーデットの商品を開発するにあたり、事業の成長投資を目的とした赤字も許容する資金、と位置づけました。

通常、銀行からのデット調達では、黒字化までのタイムラインと、明確な資金使途が求められます。

一方、スタートアップは中長期の成長を目指して、まだまだ赤字を掘って先行投資をしていきたい。

また、調達資金を広告宣伝費に充てていても、事業成長の過程で「人件費に充てたい」「オフィスが手狭になったから移転したい」など、資金の使い道はスピーディに変わっていきます。

そこで静銀は、経営者保証やコベナンツ(財務制限条項)などに柔軟に対応することで、スタートアップが調達資金を活用しやすくしたんです。

面白いのは、静銀が、次の資金調達・IPOへの確度を重視していること。

一般的な銀行融資では黒字化への道のりを重視しますが、静銀では、プロダクトのローンチや、PMF(プロダクトマーケットフィット)を見て融資判断をしています。

*PMF=提供しているプロダクトに強い需要があり、顧客満足度が高い状態

ただし、全てのスタートアップを対象にすると、リスクを許容しきれないため、LP出資しているVCなどから紹介を得た企業を候補先として融資判断しています。

厳選された有望なスタートアップだからこそ、将来的に株式への転換が可能な新株予約権とセットになった新株予約権付融資を活用することもあるなど、金利収入+キャピタルゲイン(株式売却益)も視野に入れています。

これらを柔軟に組み合わせて、その企業にあった融資スキームを提案するまでを素早くできる、ということが魅力になっているんですね。

・ベンチャーキャピタルの視点

ジャフコグループ パートナー/西日本支社長 高原 瑞紀 氏

「ベンチャーデットは、エクイティとデットの狭間を埋める資金調達の手段として、近年活用が増えてきている手法です。

その性質ゆえに、融資とは異なり、エクイティとデットの両方の観点で事業を理解する必要がありますが、静岡銀行様には、スタートアップビジネスに高い知見をお持ちのメンバーが多数在籍されていらっしゃいます」

・静岡銀行からデット調達したスタートアップの声

小売チェーン向けECプラットフォーム「Stailer」を提供する10Xの山田 聡 CFO

「従来の銀行の融資基準にとらわれず、本質的な事業や将来の財務計画の評価を重視されている印象で、意思決定の速さや融資スキームの柔軟性を含め、スタートアップにとって非常に相性の良い魅力的な銀行です。

10Xでは融資だけでなく、他の地方銀行のご紹介や、地元の顧客候補企業とのマッチングなど、幅広いご支援を頂いています」

🍪ちなみに

しずおかフィナンシャルグループ(静岡銀行)は、2023年4月に公表した第1次中期経営計画(2023-2027年度)で、このベンチャーデットをさらに強化していくと発表しています。

しずおかフィナンシャルグループ 第一次中期経営計画

2022年度:約30億円→2027年度:1000億円規模へと、5年で33倍以上まで拡大することを目指しているんです。

実現するにあたり、ソーシングルートであるVCファンドへのLP出資も、総額180億→350-400億円まで増額します。

ベンチャーデットだけでなく、IPO後には株式の売却益、さらには役職員の資産管理・運用まで、長期に渡る付き合いをすることで、2027年度には25-30億円の収益をあげることを計画しています。

地銀の新たな成功モデルとなるかという意味でも、注目したいですね。

サムネイル画像:Akahito Yamabe/Wikimedia Commons

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