日立改革の10箇条

2022年3月30日
全体に公開
Newspicks記事のキャプションから拝借

プロピッカーの村上誠典です。東原さんらしい(前社長中西さんもそうでしたが)はっきりとした物言いで、リアリティのある素晴らしいインタビュー。私も長年ご一緒した日立を知る立場として、そうそうとうなづく内容でした。

https://newspicks.com/news/6853840?ref=index&block=subEyecatch

日立の改革はこの記事にもある通り、08年の金融危機に端を発した09年の大規模最終赤字が契機です。ただ、その前の何年もの間「日立は万年PBR企業」としてダメな日本の象徴のような会社でした。その後、苦しい立場になったとはいえ、総合民生電機の中では、三洋電機、パナソニック、ソニー、シャープ、三菱電機、の方が半導体やテレビ事業、ゲーム事業など市場の注目を集める事業があった分、マシでした。

日立の改革は08-09年がスタートライン。この記事の通りだと思います

日立改革の10箇条

以下が、日立のこれまでの13年余りの改革で大事だと思う10箇条です。

1)子会社から出戻り人事(川村)

2)トップの交代(川村⇨中西⇨東原)

3)投資家重視のIR姿勢の徹底

4)経営指標の明確化

5)ガバナンスの強化(外国人社外取締役の登用)

6)コスト削減・効率化の徹底

7)既存事業の稼ぐ力アップ

8)バランスシート&キャッシュフロー最適化

9)聖域なき事業売却

10)中途半端ではなくグローバルNo.1を狙う大胆な大型M&A実施

それぞれについて少し補足していきたいと思います。

大胆な経営判断を実行できた背景

そもそも金融危機以前で、市場のハードウェアからソフトウェアへの急速な転換等により日立製作所のポートフォリオの質が急速に悪化していました。そして、今後は日本中心ではなく世界でグローバル競合と真っ向から戦える実力をつけて、世界で稼ぐ必要性を痛感していました。

だからこそ、最初から目標設定が「世界で稼ぐ」「世界で勝つ」でした。明確な目標設定があったからこそ、以下のようなアクションにつながったのだと思います。それだけ「世界」でXXするということの難しさを痛感していたと思います。

世界で勝つことの難しさを知るからこそ、それに見合う人材登用も、財務体力も、勝つためのM&Aという武器も、そしてトップを狙える戦略の必要性も理解していました。中途半端は誰も幸せにしない。その厳しい現状認識があったからこそ、そこから距離のある高い目標設定を目指すことの必要性が納得できたのだと思います。

個人的には、グローバル企業が先行して多くの打ち手を打っており、かつ自らよりも優れた経営をしている「ベンチマーク企業」が数多く存在したことも大きいと思います。GEやSiemems、Schneider、ABB、数多くのグローバル企業が日立の事業領域には存在します。

まず、徹底的に彼らの戦略を学び、それは単にプロダクトや営業ではなく、経営戦略そのものを学び、最低限同レベルの「経営」をできる状態にしなければ勝てるわけがない、ここがスタートラインだったように思います。

戦略の初手は「人事」から

まず以下の2つを実行しました。川村さんはこれまでの日立人事の原則からすると、本体経営を卒業し、その後子会社トップを務めて、退任するという、引退への花道にすでにいた半OBでした。多くのメディア記事でも語られている通りなので省略しますが、実績と求心力の高い半OBを本体の経営トップに据えるというのは、厳しい状況を乗り切るための厳しい判断をするために必要というのが当時の判断です。

1)子会社から出戻り人事(川村)

2)トップの交代(川村⇨中西⇨東原)

それ以降の歴代トップは、グローバルで戦える経営力と営業力を有したトップということでしょう。出身の事業ラインのその実績を重視して、社長候補を決めてきた日本の伝統企業とは異なるトップの選任基準です。社長がこれまでの功績で決まる最後の昇進人事ではなく、この難しい難局を任せるための「適任人事」を行ったことが大きいと思います。

株主重視の経営カルチャーへの転換

3)投資家重視のIR姿勢の徹底

そして投資家重視のIR姿勢の徹底的な浸透です。これには09年の大型グローバルオファリングの経験、そしてその後の事業部ごとのトップが登壇するIR DAY等の活動を通じて、その基盤が醸成されました。

社長が「従業員のトップ」ではなく「株主から使命された責任者」であるという位置付けを明確にし、35万人の従業員の声だけではなく、世界で勝つことを期待している株主との対話を通じて、より良い経営をよりスピーディに行える。日立のカルチャーで最も変化したのは、この株主重視の姿勢だったように思います。

経営の羅針盤の明確化

良い経営判断をし続けるには、必ず経営判断の軸が必要になります。どういう方向性で、どういう判断をするのか。その際に、定量的な判断基準を持つことは必須です。そうでなければ、極めて曖昧な判断に終始してしまいますし、対外的な説明もできないですし、それであれば内部にも説得力ある説明はできなくなってしまいます。

経営判断の質を高めるためだけではなく、実行力を高める意味でも「経営の羅針盤」を明確にしておくことが重要でした。

4)経営指標の明確化

5)ガバナンスの強化(外国人社外取締役の登用)

そのために、今日の日立が開示している調整後EBITやROICなど、あらたな経営指標を明確に、ポートフォリオ経営を徹底する姿勢を09年以降、投資家に対して示し続けてきました。

そしてその経営指標に基づいた経営を監督する存在として、取締役会を中心としたガバナンスの強化も実施しました。これは経営指標を適切にモニタリングすることで、監督機能と実効性の両面を高めるために不可欠な打ち手となります。

やれることから徹底的にやる:既存事業の磨き込み

日立も大胆なポートフォリオ経営やM&Aを一気に実行したわけではありません。よく言われるスティーブ・ジョブスのApple復活の初手が徹底的な効率化だったように、日立も徹底的な効率化等の「やれることをやる」を実行しました。

6)コスト削減・効率化の徹底

7)既存事業の稼ぐ力アップ

8)バランスシート&キャッシュフロー最適化

グループ横断でコスト削減と効率化を徹底しました。09年以降数年間は決算発表のたびにしつこいぐらい、横断の効率化の施策について投資家向けに説明がなされていました。この時点の日立の打ち手は決して派手なものではありません。

ただ、明確に稼ぐ力をつけていく姿を見せながら、中期の目標に向かって着実に進んでいくことで投資家の信任を勝ち取っていきました。

どんな大胆な打ち手も、既存事業の基盤が脆弱であれば、実行は難しいのです。こんなことをしたら会社画本当に潰れてしまう。この事業を売ってしまって、どうやって生き延びていくのか、どうやって成長していくのか。その疑問に応えきれなくなってしまうからです。

この疑問に答えるためには、既存事業の基盤を盤石にしておくことが安心感につながります。そして、持続的な事業活動を支える、バランスシートとキャッシュフローを持って、経営&投資戦略を作り上げることで、どこに投資し、どこで稼ぐのか。そしてある程度失敗しても十分に事業継続がし続けられる。そして、どうなれば大きな打ち手が打てるようになるのか。こんな議論ができるようになってきたのです。

準備が整えばより大胆に、よりスピーディーに

このような「準備」を周到に行った結果、というか今も行い続けていると思いますが、そういう経営の羅針盤と経営の基盤があって、初めて大胆な打ち手が決断できますし、そのうち手の意味が出てくるのです。

9)聖域なき事業売却

10)中途半端ではなくグローバルNo.1を狙う大胆な大型M&A実施

派手なM&Aばかりが注目されがちですが、そのためには本質的な経営力の向上が不可欠である。それを忘れてはいけない、そんな気持ちで筆を取りました。

面白い、参考になったと思ったら、いいね、フォロー、コメント、SNSでの拡散などよろしくお願いいたします。

応援ありがとうございます!
いいねして著者を応援してみませんか



このトピックスについて
坂本 大典さん、他12226人がフォローしています