「印象の固定化」リスクとは〜サマンサタバサ不振の理由

2024年4月24日
全体に公開

こんにちは!ファッションスタイリストの神崎裕介です。あっという間にGWが近付いてきましたね。

僕のトピックスでは主に「印象」にまつわる話題を取り上げていますが、コンサルでもよく”印象が固定化することのリスク”についてお伝えしています。というのも、印象が固定されることでのマイナスの影響が無視できないからです。

大きく分けて、2つのリスクがあります。

まずひとつめは「設定する際のリスク」

人もブランドも、世の中にどんなイメージで認知してもらうかという設定を決めなければなりません。まずそこにリスクがある。

わかりやすく目立つから、すぐ売れるから、と派手なイメージを打ち出しがちですが、長い目で見たときどうなのかということも考える必要があります。強いイメージは固定化されやすく、マイナス面でも印象に残りやすい。

例えば「ジミーチュウ」というレザーグッズブランドがあります。スタッズが特徴的なバッグはどこかで見たことがあるはずです。

https://www.buyma.com/item/34062952/

本来はイギリス発祥の良質なレザーがウリのブランドでしたが、特に日本では派手でいかついイメージを許容した結果、ファン層とイメージが固定化され「普通の人は持ちにくい」雰囲気のブランドになってしまいました。(個人の見解です)

当初はインパクトもあって売れた部分もあったのですが、紆余曲折あり現在はCOACHを擁する企業”タペストリー”傘下となったものの、業績は芳しくなく売却が検討されている状態です。

『マイケル・コース』の北米における卸は以前として厳しい状態にあり、業績は芳しくない。『ヴェルサーチェ』と『ジミー チュウ』は、ラグジュアリー市場の減速の影響で売り上げが落ちている。

ジミーチュウもそれを懸念してか以前に比べるとイメージはグッと落ち着いてきていて、それは広告にも表れています。

2014年の広告はニコール・キッドマン。https://www.fashionsnap.com/article/2014-01-15/jimmychoo-nicolekidman-14ss/
2024年の広告。(G)I-DLE ミヨンを起用。https://k-stylenews.jp/article.ksn?articleNo=2232980

にも関わらず、「ちょっと派手な人が持ってるブランドだよね」というイメージはそうそう消せません。これは最初の設定を放置し続けた結果だろうと考えています。

人は全てのことを詳しく調べないしその後をフォローしません。一度「こんな人か」「こんなブランドだ」となんとなく記憶したら、よほど興味のあることでない限りずっとその印象のままなのです。

Getty Images

ゆえに、最初にどういう印象で登場するかというのはとても大事。この認知で大丈夫かな?という確認はしっかりすべきでしょう。

印象固定化リスクのもうひとつは「飽きられること」です

定番、といえば聞こえはいいですが、印象がずっと一緒であることはマンネリや新鮮さに欠けることにも繋がります。

例えば、SNSで当初反応が良かったはずの投稿内容を続けていくと「あれ、伸びないな?」と感じるようになったりします。これはまさにそれ。

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最初は注目してくれていたユーザーもすぐに見慣れてしまうので、あーあれねという感じでスルーしたりそれほど珍しがらなくなる。だから切り口を変えたりセンセーショナルなタイトルを付けたり工夫をせざるを得なくなるわけです。

昔から”美人は3日で飽きる”などと言われてきましたが(今のご時世では微妙な表現)、人間が飽きっぽいことは歴史が証明しています。それに付随して良くないのが、注目されなくなること。

Getty Images

「あそこは、あの人は変わってない」と思われるとわざわざ気にしなくなるし興味を持ってもらえなくなる。だから時々テコ入れしたりイメージを変えて話題になるようにする。お菓子の「きのこたけのこ戦争」を定期的に行うのも、定番商品を大きくリニューアルすることができないので改めて注目を集めるために行なっている側面が大きいと感じます。

 

今月に入って、業績の下方修正に加え社長交代のニュースなどマイナスなニュースが伝えられているバッグブランド「サマンサタバサ」についても、まさに上記の2点が足を引っ張っていると思うのです。

ここ数年ずっといいニュースが聞こえてきませんが、それこそ2000年代初頭にはまさに時代の寵児ともいうべき勢いがありました。ところがここ6年を見ても営業利益はほぼマイナスです。

https://www.samantha.co.jp/company/ir/financial/tbr/

そこから20余年、なぜこうなってしまったのでしょうか

それは、全盛期のイメージを変えることが出来なかったから。まさに印象固定化リスクの分かりやすい事例だと感じています。

サマンサ、といえばイメージされるのはこんな光景ではないでしょうか。

https://www.fashionsnap.com/article/2011-06-28/samantha-tvcm/

写真は2011年のものですが、おそらくほとんどの人はずっとこのイメージのまま止まっているはず。そもそも海外のブランドだと思っている人もいる様子ですが、2024年現在、実はその内容はかなり変わっています。

2019年、創業者である寺田和正氏が退任したのを契機に大胆なリブランディングを実行。20〜40代の働く大人向けのブランドとして「日本初の世界ブランド」を目指すとして、近年は5万円を超えるようなラインもリリースしています。

サイトを見ると、バッグのデザインもカラーも落ち着いた配色が多く、2011年当時のような派手さはかなり控えられている印象。

https://www.samantha.co.jp/shop/g/g000324101502620000/

イメージが止まっている方からすればかなりギャップがあると思いますが、この現状をどれだけの人が知っているでしょうか?そこが問題。

もちろんリブランディングの際には大きく広告を出したはずですが、あまりに長く、強く固定化された印象を拭い去ることは出来なかったわけです。

これはやはり、時代が変わっていく中でも成功体験から抜けられずブランドの印象を変えられなかったことが尾を引いています。サマンサ=平成初期のキラキラ系・ティーンのブランドという印象を続けすぎてトレンドから外れてしまった。と同時にコアなサマンサファンからすれば買う理由がなくなってしまった。

同じようなテイストならシンガポール発「チャールズ&キース」の方がトレンド感や値頃感もあり、コスパに優れています。

このラインではCOACHほどのバリューはなく、チャールズ&キースほどのコスパもない、という中途半端なポジションに収まってしまっているのが現況です。

同時期に人気だったファッションブランド「セシルマクビー」も全盛期の印象を変えることができず、リブランディングを行うなどしたものの2020年に全店閉鎖を余儀なくされています。(現在はライセンスブランドとして復活)

サマンサタバサも一旦閉めて仕切り直す、外部から著名なディレクターを迎え入れて大きく印象を変える等、思い切った決断が迫られている瀬戸際の状態であることは間違いありません。

印象は、本質+時代を意識する

人気を博したドラマ「不適切にもほどがある」を観てもわかるように、時代によって価値観や良しとされるものは刻々と変わっていきます。

一方で「昭和ブーム」が起きているように、平成ではダサいとされていたものが令和では新鮮という評価になって注目を集めたりもする。

大事なことは、本質的な価値は変えずに時代性をプラスして印象を作っていくことです。

例えば、レザーブランドとして人気の「ロエベ」

以前は質の良さには定評があるもののファンの年齢層は高く、”通好み”のブランドでした。ところが2013年、当時若干29歳だったJWアンダーソンをディレクターに迎え、一気に世代交代を図ります。

Getty Images 現在ではユニクロとのコラボなども

結果、良質なクオリティはそのままに斬新さを加えたクリエイションが評価されて若年層からの支持も急増。一気にトレンドの最前線に立ち、近年稀に見るリブランディングの成功例となっています。

おそらく、このタイミングを逃していたら「質は良いけど地味」というイメージが固定化され、下降曲線になっていたはずです。

十分なネームバリューと格を有するブランドであっても今後を先読みしてイメージの固定化を払拭する努力をしているわけで。我々が取り組まない理由などありません。

Getty Images 現在のロエベ

これまで述べてきたように、印象は一時のトレンドや目先の利益のために設定するのではなく、本質的な良さや個性を伝えることをまず意識すべきです。

質がウリのブランドなら安っぽく見えてはいけないし、誠実さがポイントな人なら軽薄な印象はNG。その上で飽きられないために適宜時代性を加えていく。

近年の雰囲気なら重く堅い印象よりも、軽くゆるい印象の方が支持されるはず。髪の毛で言えば茶色以外に染めることにも寛容な世の中になりました。自分に、ブランドに直接関係があるかどうかは別として、そういう時代の空気を読んで、どう印象作りに活かしていけるかがポイントです。

Getty Images

印象は、否が応でも変えるべきときがやってきます。それを感じ取れるかどうかです。人やブランドがブラッシュアップされていく過程では変わっていって当然。周囲の人やユーザーもそんな変化が起こるからこそ注目し、何も変化しないものには興味を失っていってしまいます。

何か手応えがない、しっくり来ない、評価に違和感があると感じたら、それはきっと印象を変えるタイミング。恐れずに、前向きに取り組んでみてください。

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神崎裕介

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表紙画像: Getty Images

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