英国発Umamiの未来

2024年4月8日
全体に公開

2024年3月15日、英国の芸術地区バービカンで、トップ学術誌「ネイチャー」を擁するSpringer-Nature社の「Nature Conference」が、減塩をテーマにした政策フォーラムを開催しました。このフォーラムは、かつて世界の政策でベストプラクティスとして称賛されたイギリスの減塩推進の成功と失敗の経験を振り返り、今なお世界が直面している過剰な塩分摂取の課題にどう対峙すべきかを、実際に英国政策に関わってきた専門家たちが集い、現状のレビューと今後のアクションについて議論する場でした。

私もこのフォーラムに日本から参加しましたが、パネルディスカッションの内容を聞いていると、思わず苦笑いをする場面がありました。このフォーラムは、味の素株式会社の協賛のもと開催されました。Springer-Nature社は、企画内容がスポンサーの影響を排除する「編集部の独立性ポリシー」のもと厳格に運営されています。興味深いことに、このフォーラムでは、パネリストからは今後の減塩ソリューションとして、うま味(umami)と塩化カリウム(KCl)の使用が提案されました。

「うま味」の眼鏡を通して世界を見る癖がついてしまった私にとって、この政策フォーラムで最も興味がそそられたのは、シェフイベントの、「ナトリウムフリーうま味(グルタミン酸のカリウム塩)」でした。この「うま味とカリウムの組み合わせ」が、今回の記事の主役です。

ネイチャーフォーラムが開催されたThe BREWERY                              筆者撮影

私にとっての今回のフォーラムの主役は、うま味と塩化カリウムです。圧巻のシェフイベントにはいる前段に、ナトリウムフリーうま味に至るこの重要な2つの減塩手段がパネリストから提案されました。

うま味の減塩政策のインパクト

東京財団政策研究所の主管研究員である渋谷健司氏(前キングスカレッジポピュレーションヘルスセンター長)は、減塩食のおいしさを補うことが知られているうま味の公衆保健上の可能性について言及しました。渋谷氏は、日本、アメリカイギリスの国民健康・栄養調査データをもとに、各国の主要な塩分摂取源を同定し、これらの塩分摂取源のナトリウムをうま味で置き換えた結果を示しました。うま味を国レベルで積極的に活用することで、これらの3ヵ国の塩分摂取量は10~20%削減が可能だということです。

中国で検証されつつある「塩化カリウム」

長年にわたり、塩化カリウム(KCl)は、塩化ナトリウム(いわゆる食塩)の代替品としての可能性が検討されてきました。しかし、WHOが昨年春に発表した減塩代替品使用のガイドラインでは、一般の人々に対してその使用を推奨するのではなく、限定的な使用に留めると結論付けました。

その理由は、エビデンスの不足にあります。フォーラムでは、オーストラリアのGeorge InstituteのPolicy and Advocacy AdviserであるClaudia氏が、中国での塩化カリウムの大規模介入試験の結果を引用し、塩化カリウムの塩化ナトリウムへの代替としての有効性をWHOは即座に認めるべきだと強く主張しました。これは非常に印象的でした。

このように、フォーラムの前半では、減塩代替品の使用としてうま味と塩化カリウムを利用できることがエビデンスをもとにパネルより示されたのです。

壇上で議論する渋谷氏(東京財団政策研究所)と、アマンダ氏(セントメアリー大学)。渋谷氏によれば、うま味を政策レベルで活用することでさらに国レベルで10~20%の減塩が可能であるという。

前半のセッションにつづいて、うま味と塩化カリウムのもっとも合理的な組み合わせであるグルタミン酸のカリウム塩(ナトリウムフリーうま味)を使用した減塩料理の体験が始まりました。

行動経済学では、私たちの選択は、ファースト(システム1)とスロー(システム2)の2つのシステムを通じて行われるとされています。以前の記事でも紹介した通り、このシステム1は直感的で、システム2は論理的な判断を経由します。このフォーラムでは、科学的な討論による減塩をシステム2で捉え、実際に減塩食を体験してシステム1で確認するという試みのようです。

ナトリウムフリーUmamiのコンセプトの誕生

うま味成分であるグルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸の味は“酸っぱい味で、注意深く味わうとほのかなうま味が感じられる”といわれています。そして物理化学特性は、中性の水には溶けにくく、アルカリ性になると溶けてくる特徴を持っています。つまり、リトマス試験紙が赤色に変わる環境下では、これらの成分が溶けてきます。グルタミン酸を一度アルカリ性の水に溶かしてから水分を蒸発させると、グルタミン酸の塩として結晶が得られます。すぐに溶けて料理に使いやすいグルタミン酸塩、即ちうま味調味料の誕生です。

アルカリ環境とは、例えば、酸性雨の影響を受けた場合に青色の花を咲かせるアジサイのように、土壌がアルカリ性に傾く状態を指します。地球上でアルカリ水を作り出す主な成分は、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)などのアルカリ金属の水酸化物です。

ナトリウムは、地球上で最も安価で大量に入手可能なアルカリ金属であるため、池田博士はグルタミン酸のナトリウム塩を、誰もが手に入れやすく、持続的に供給可能な、コストパフォーマンスに優れたうま味物質として大量生産の製造法の特許事例として選んだと思われます。

ナトリウムフリーうま味とは、その名の通り、ナトリウムを含まないうま味成分のことを指します。これには、ナトリウムの代わりにカリウム、カルシウム、マグネシウムなどをグルタミン酸のパートナーとして選んだうま味調味料のことです。例えば、グルタミン酸のナトリウム塩であるMSGは、1グラム当たり123ミリグラムのナトリウムを含みますが、ナトリウムフリーうま味ではこの数値はゼロになります。

現代の食生活では、これらのミネラルの摂取が健康増進の観点から推奨され、MSGのナトリウムをこれらの塩に置き換えた調味料はより健康的な調味料として再定義することが可能です。しかし、皆さんは何故これらがもっと普及していないのか疑問に思うかもしれません。その理由の一つは、ナトリウム以外の塩は苦味がどうしても残るため、使いこなすには一定の料理知識が必要となるからです。

一方で、シェフは、「料理の美味しさは、苦味をどう操るかにかかっている」と言います。最近のコクに関する研究では、苦味を持つ塩化カルシウムや塩化マグネシウムが、特定の食材や料理においてコクを加える効果があることがわかっています。また、焼肉や焼き鳥、さらにはご飯のおこげのように、微妙な苦味が好まれる場合もあります。苦味は、特定の状況や料理で美味しさを引き出す要素となりますが、その使用は経験にもとづく繊細なバランス感覚を要求します。

甘味、酸味、塩味、うま味といった基本的な味に加え、苦味もまた料理に深みを加える要素として重要なようですが、なぜか一般的に市販されている調味料の中で、苦味を売りにした専用調味料は皆無です(にがりなどの一部例外はあります)。このように、ナトリウムフリーうま味調味料は、カリウムの苦み特性上、どちらかというとプロの料理人向けの調味料と言えます。

また、もう一つの塩味代替品である塩化カリウム(KCl)も同様の課題を抱えています。科学的には、苦味を抑制する方法がいくつか開発されていますが、苦味を完全に消去する技術はまだ存在しません。味覚科学はこの点において、まだ完全な解決策を見つけ出していないのが現状です。

地球と生物の進化は海と陸、そして動物と植物というナトリウムとカリウムの2つのパラレルワールドを生み出した。 UnsplashのMike Swigunskiが撮影  

カリウム:自然のうま味のカウンターパートのミネラル

しかし、自然界におけるうま味の最適なミネラルカウンターパートはカリウムのようです。

林シェフは、日本料理の核心である出汁の歴史から、減塩ソリューションとしての可能性まで、伝統と科学を融合させた形で、参加者に対して丁寧なパワーポイントスライドを用いて紹介しました。そのスライドの中で、文部科学省提供の日本の食品成分表を引用して、乾燥昆布や鰹節、乾燥シイタケなど、典型的なうま味出汁素材では、圧倒的にカリウムが多いことを示しました。

肉や野菜など、一般的な出汁素材に含まれるミネラルも、カリウムが多いことがわかっています。動物性食品ではナトリウム比率が若干高めですが、植物性食材ではほとんどナトリウムフリーで、ミネラルとしてはカリウムが大部分を占めるようです。ただし、昆布など海産の植物は海水の塩分が残るため、ナトリウムも含まれているようです。これらのデータはすべて、日本だけでなく世界中でうま味を引き出す出汁に使われる食材は、ナトリウムよりカリウムが多いことを示していました。

「野菜をもっと食べましょう」というキャンペーンが50年以上続いている理由の一つは、健康維持・増進に必要なビタミン類、カリウム、そして食物繊維の摂取向上にあります。最近では、環境や健康を意識した豆類やナッツ類の摂取も推奨されています。植物を中心とした食生活への回帰運動の一環と言えるかもしれません。しかし、日本人の平均的なカリウム摂取量は約2.4グラムで、これは男性3グラム/日、女性2.6グラム/日とされる栄養摂取基準2020の推奨量に達していないのが現状です。

今回の講演で、出汁がカリウム摂取量にささやかでも貢献していることを知り、新たな驚きを覚えました。つまり、ミネラル源として考えると、出汁はカリウムの供給源なのです。このように、自然界でグルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸などのうま味成分と相性が良いのは、本来はカリウムだったのです。

うま味素材の多くはグルタミン酸や核酸とカリウムを含む。    UnsplashのAnna Pelzerが撮影

林シェフは、京都料理アカデミーの名誉理事長で、料亭「菊乃井」の村田シェフのお弟子さんです。彼は現在は日本料理アカデミー欧州副理事長として活躍されており、特に「出汁」の扱いに関しては世界的に認められた第一人者です。

デモンストレーションは、日本食文化の伝統である昆布と鰹節を使用した「あわせ出汁」の取り方で幕を開けました。この出汁を引く過程すべてで、良質な出汁素材の選択、調理の全工程における温度や時間、タイミングにサイエンスで記述可能な理屈があるとのことでした。出汁を引くところみているだけで、その料理人の技量がわかるそうです。しかし、実際には日本料理を創作する上で、「出汁を引く」行為に相当な手間がさかれ、これがシェフにとって大きな負担となっていると言います。

林シェフの料理デモンストレーションは日本の昆布とカツオから出汁を引くことで始まる。    筆者撮影

今回の料理体験のテーマは、「野菜の炊き合わせ野菜ソースとともに」というもので、グルタミン酸カリウム、ドライトマト、ドライモリーユで作ったプラントベースの出汁を使用していました。茄子、シャンピニオンマッシュルーム、シュガースナップ、カボチャ、トマトを使用した料理は、ロンドンの人々がより美味しく食べられるように、カリフラワーを蒸してペーストにし、プラントベースの出汁と葛でとろみを付けた野菜ソースで楽しむものでした。

また、前回の記事で紹介した感覚ナッジの技法も活かされていたのがわかります。欧米の食文化においては野菜をソースをつけることで味が良くなるという常識的な感覚を利用して、プラントベースの出汁ジュレをかけて乾燥を防ぎつつ、見た目の艶を出し、視覚的な美味しさを演出していました。

さらに、食欲を刺激するために、黒、白、赤黄、青緑の五色を取り入れたデザインが採用されました。これらの色は、物を引き締める作用の黒、清潔感を与える白、食欲を増進させる赤と黄色、清涼感を与える青と緑という役割を持っており、視覚による美味しさの錯覚を引き出すために効果的に使用されました。

林シェフが提供した、出汁とナトリウムフリーUmamiを使った「野菜の炊き合わせ野菜ソースとともに」    林シェフ提供

試食タイムの終わりごろには、会場はこのフォーラムで最も活気づき、興奮のピークを迎えたことが感じられました。その中で、林シェフから印象的な発言がありました。

脂肪や塩を使わずとも、ほぼゼロカロリー、ゼロナトリウムで本来のうま味の力を感じ取ることができたはずです。今回、試食では天然の出汁ではなく、科学によって生み出された最先端の“だし”であるナトリウムフリーうま味(グルタミン酸のカリウム塩)を使用しました。天然の出汁は貴重な自然資源を直接利用するため、環境とコストの観点から地球と消費者に負荷がかかります。しかし、ナトリウムフリーうま味は発酵工業によって生産可能であり、環境とコストに優しい究極の“模倣的な出汁”と言えるでしょう。

私は日本料理の伝統を重んじるシェフですが、人と地球の健康を意識し、伝統を守りながらイノベーションを図る必要があるとも考えています。私は、そのような環境に優しく、しかも健康とおいしさに妥協しないシェフを目指し、今後も英国を拠点に世界へ発信していきたいと思います。
林シェフの料理デモンストレーションでの発言より

この発言に対し、会場からは盛大な拍手が沸き起こりました。

そして、今回の協賛企業である味の素株式会社から提供されたカリウム塩のナトリウムフリーうま味調味料をなめてみた瞬間、こう叫んだそうです。「この粉を使えば、簡便に均一な出汁を短時間で準備ができ、アフォーダブルに大量調理が必要な場合にはとても有益だ。」

グルタミン酸カリウム塩は、これは昆布のうま味そのものだ!
林シェフのデモンストレーションで発言
うま味調味料以外でも、ハーブ類、酢などの調味料は使い方次第で減塩をに役立つものが多い。  UnsplashのCalum Lewisが撮影

林シェフは今回のデモンストレーションで、参加者に対して、減塩が味覚を損なうことなく実現可能であるという直感的な理解を提供しました。私も、うま味と塩化カリウムの組み合わせが、味の質を維持しつつ、塩分摂取量を減らすことができる強力な方法であることを直感的に理解することができました。

日本料理で一番大切なものは水すなわち出汁です。うま味の効いてカロリーごほぼ無い出汁でほとんどの食材を調理します。うま味には減塩作用もある事と水分量が多い料理という事も全体のカロリーを抑える(減塩)にもつながると考えます。

料亭などでは出来るだけ自然の最高級品を素材を駆使して、時間をかけて出汁を引き調理しますが、一般的にはそれが叶いません。時間を短縮し尚且つ健康な食事を作る為に、塩をうま味に置き換えることは大切なミッションです。現代の食事体系は、外食や既製品の食に溢れ、人々がその味に慣れているのも、塩分過多になる原因と考えます。お母さんが作る食事は、家族の為に栄養のパランスを考え、出来るだけ濃い味付けをせず健康にとの思いで作ります。これが忘れてはいけないポイントだと再認識しました。
減塩フォーラム後の林シェフのコメント

うま味のジレンマ

ロンドンでの体験は、私の頭の中でうま味に関する一つのジレンマが浮かび上がります。林シェフが指摘したように、うま味成分は天然素材(昆布や鰹節、トマトや白菜、キノコ類など)に含まれていますが、これらの食材のうま味含有量と価格はしばしば相関しています。つまり、一般的に高級な食材ほどうま味が強いのです。

うま味は低塩食のおいしさを補う、野菜の苦味を抑えるなど、減塩と味の質の両方を向上させ、美味しい減塩食を提供できます。この点については、渋谷先生が言及したように、うま味を上手く活用することで、国レベルでさらに10~20%の減塩を達成することが政策上可能だという指摘は私たちに新たな希望を与えてくれるはずです。

世界で最も安価なうま味はグルタミン酸ナトリウム(MSG)です。しかも、MSGは、うま味の力でナトリウムを含んでいながら、さまざまな料理の総ナトリウム含量をおいしさを保ったまま、約30%程度削減できることが多くの研究で明らかとなっています。そして、現在、うま味調味料工業はその製造フローから使用に至るまで、グルタミン酸のナトリウム塩(MSG)に最適化されています。これにより、世界130か国以上で低価格で販売されています。今からでもその気になれば、数十億人がMSGを活用した減塩を実践することが可能です。

しかし、日本からのパネリストである渋谷氏は、うま味の減塩推進には政策の力が重要だと指摘します。そして、MSGに対する誤った誤解に基づく風評が、この有益な手段の普及の制限になり得ることを指摘します。MSGの安全性は公的機関が安全性を担保していますが、その事実が人々の安心を獲得するには時間がかかるだろうと言います。

この状況は、SDGsの目標に対しても、そしてそれを超えた未来に対しても、MSGに関する風評が原因で生じるデメリットは非常に大きいと感じています。これは健康と環境の両面において大きな損失であり、うま味調味料の潜在的な価値を十分に活用するためには、これらの課題の克服が必要です。

総合司会を務めたスーブラ氏(Nature Portfolio)  ロンドンを舞台に英国の減塩政策をふりかえることで、今後のあるべき姿と解決策が議論された。      筆者撮影

最後に、フォーラムの議論の焦点

最後に、今回のフォーラムの議論の焦点を振り返ります。うま味のメガネを外して、このフォーラムで取り上げられた他のトピックについて報告します。このフォーラムのサマリーは、6月にネイチャー誌に掲載される予定です。Nature Conferenceのエディターたちの解釈は、その記事を読んでいただくことをお勧めします。

英国の過去の経験は、産官学が連携して減塩に取り組むことで、売上の損失を伴うことなく食品中の塩分量を減らすことが可能であること示しました。しかし、その後、英国の減塩努力は停滞します。CASHを継ぐ組織であるAction on Saltで長年働いているクイーンズ大学のAmanda氏は次のように述べています。

政府主導の減塩政策は2011年までは成果を上げ、業界との協力のもと効果的に実施され、英国国民の塩分摂取量と平均血圧を確実に下げました。しかし、その後、政府のコミットメントが減塩(循環器疾患対策)から減糖(肥満対策)へと移行し、英国の減塩ムーブメントは明らかに停滞しています。

このフォーラムでは、最終的に6人のパネリストによって減塩推進のためのレコメンデーションが共有されました。

1. Claudia氏(ジョージインスティチュート):
・ 政府と業界の連携の重要性、消費者意識の向上、証拠に基づく進歩の3点が重要である。
・ 持続可能な食生活改善には政府の関与が不可欠であり、教育を通じた減塩推進や証拠に基づく政策の推進が重要だ。
・ 非伝染性疾患対策としての減塩の重要性を再認識するべきだ。

2. 渋谷氏(東京財団政策研究所):
・ 政治の影響力と、うま味や塩化カリウムなどの、塩の代替品や減塩への投資によるイノベーションが必要だ。
・ うま味については、消費者受容を変えていく新たなアプローチが必要である。それには政策の力が必須だ。
・ 社会が変化を受け入れることで実際の変化が起こる。

3. アマンダ(クイーンズメアリー大学):
・ 学界、政府、産業界、消費者間のオープンな協力と公正な競争が重要だ。
・ 塩分削減に向けて、全関係者が同じルールで作業する必要性、透明性とデータアクセスの容易さを促すシステムが必要となる。
・ そのためにも、全てのステークホルダーが等しく議論に参加できる円卓会議を開催し、具体的なアクションプランを作成することが第一歩だ。
前半パネルからのレコメンデーション
4. ケイト(Food & Drink):
・ 具体的かつ実現可能な減塩目標設定と、全関係者が話し合う場が必要だ。
・ 企業規模に応じた減塩目標設定と、小規模企業への支援のためのイノベーション奨励システムを構築するべきで、そのためには、政府補助金の仕組みが重要だ。

5. ジャック(ノッチンガム大学):
・ 望ましい未来のビジョンの持ち方、二極化への対処、効果的なコミュニケーションの3点が重要だ。
・ 英国食品分野の持続可能性、肥満とナトリウム問題への対策、社会全体での問題解決に向けた共感できるビジョンの構築を早期に行うべきだ。

6. ソニア(アクションオンソルト):
・ 自主プログラムが機能しない場合、法的・強制的措置や金融庁による目標設定への回帰を行うのが妥当だ。
・ 減塩のさらなる社会実装に向け、効率的な政策実施と監視の仕組みづくりを行うべきだ。
後半パネルからのレコメンデーション

これら6人のレコメンデーションは、減塩に関する現状とその課題への対応策を浮き彫りにし、さまざまな視点から持続可能な食生活への道が提示されているように思います。政府、業界、学術界、消費者が協力し、透明性と公平な競争を促進することの重要性が強調さ、具体的な目標設定、支援システムの構築、そして公開討論の場を設けることで、全体としての認識と行動の変化を促すことが求められています。

駐英日本大使館の小宮参事官によるクロージングリマーク  小宮氏は日本の減塩と食育の取り組みで世界に貢献していきたという。    筆者撮影

ふたたび、Umamiへ

再び、うま味にもどります。以前の記事で触れたように、うま味の父とされる池田菊苗は、うま味調味料であるグルタミン酸ナトリウム(通称ソーダ)を発明しました。この発明は、味覚特性と保存性の優位性により、うま味の本体であるアミノ酸、グルタミン酸のカウンターパートとしてナトリウム塩を選んだものです。とても興味深いことに、グルタミン酸ナトリウムの製造方法の特許出願を読み直すと、ナトリウム以外の塩も特定の状況下では栄養改善に資する調味料となりえることが記載されています。このことは、115年前のうま味戦略において、既にナトリウム以外との組み合わせの可能性が考慮されていたことを意味します。

ナトリウム塩だけでなくグルタミン酸塩は、すべて同様の味を呈するものであって、カルシウム塩、カリウム塩のようなものは、その味特に純粋でなければ、栄養の目的上、特殊の金属塩を供給する必要ある場合には、その金属のグルタミン酸を調味料として使用するのがよいこともある。
池田菊苗のグルタミン酸ソーダの製造法特許より

皆さんもお気付きかもしれませんが、今回話題になったグルタミン酸のカリウム塩は、塩分とり過ぎでカリウム不足の現代の食生活においては、健康の観点から理想的な選択肢となる可能性を秘めていると言えます。しかし、現実には2つの課題が存在します。

一つ目は、どうしても価格が高くなること、二つ目は、使用にある程度の料理スキルが必要とされることです。それは、現時点でグルタミン酸のカリウム塩の提供はB2B(企業間取引)に限られていることからも想像できます。近い将来、これらの課題が克服され、健康社会において、私たちが第2のうま味調味料を手にすることができるかどうかは、消費者のニーズの後押しにかかっているような気もします。強い消費者のニーズは、イノベーションを促進する原動力となるのです。

右から藤原氏(ネイチャーJapan)、林氏(レストラン露結オーナー)、スーブラ氏(Nature Portfolio)藤原氏とスーブラ氏は今回のカンファレンスの運営を支えた。 

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