紅麹菌と納豆菌はここが違う【入門・合成生物学】
本トピックの新しい企画として、報道などで話題になっているバイオ系の言葉を解説して、そこから合成生物学の簡単な知識も確認するアウトリーチ型の記事を開始したいと思います。
クイズです。以下の「菌」のうち、生物の分類でヒトと一番近いと思われる仲間を選んでください。
①パンやビールを作るときに使う酵母菌
②今話題の紅麹菌
③納豆を作るときの納豆菌
④ヨーグルトの乳酸菌
日本語には「菌」という言葉があります。この言葉は、肉眼では見えない微生物の総称として使われます。細菌、酵母菌など、様々な種類の菌が存在します。また、菌は、カビやキノコの俗称としても使われます(菌類・菌糸)。
英語ですと、前半のような微生物はMicroorganism、Microbeといった単語に相当すると思います。Microorganismには、納豆菌のような細菌も酵母菌もいます。
実は微生物(菌)には、生物界の3ドメイン(真核生物、細菌、アーキア)から、それぞれ異なるドメインの生物が含まれます。細菌(真正細菌)とアーキア(古細菌)は、原核生物です。なお、ヒトの細胞には核があり、ヒトは真核生物です。これは高校生物で学習することだと思いますが、こちらで確認してください。
正解は②紅麹菌です。
「核」を持っている真菌(菌類)である紅麹菌と酵母菌は真核生物(上の図で右側のイメージ)です。一方、核のない納豆菌は細菌(上の図で左側)です。ヨーグルトなどに使われいろいろな種類がある乳酸菌や遺伝子工学に使う大腸菌も細菌です。ヒトは真核生物ですので、ヒトと同じ仲間は、紅麹菌と酵母菌の2つということになります。真正細菌、真核生物、真菌など、日本語は少しややこしいです。
酵母菌と通常呼ばれますが、生物学では「酵母Yeast」と呼んでいます。酵母は、基本的には細胞一つで生きる単細胞の「真菌Fungi」です。赤麹菌は、多細胞からなる糸状の真菌です。多細胞であるという視点から言えば、ヒトと近いのは、紅麹菌ということになるかと思います。
日本語の「菌」という言葉を使うと、何でも菌になってしまい、このように混乱をおこしやすいので、本来は、酵母菌や紅麹菌ではなく、酵母、ベニコウジカビというのが生物として呼ぶ場合には好ましいです。味噌、醤油を作るのに使う麹菌は、真核細胞の真菌ニホンコウジカビとショウユコウジカビです。
酵母もコウジカビもヒトも真核生物ですから、細胞のなかに核膜のある核があって、(その昔、ある種の細菌が共生した結果できたという)ミトコンドリアも細胞内にあります。細菌(納豆菌)と真核生物では、細胞の作りや分子のメカニズムも大きく異っていて、ヒトに近いのは納豆菌の方でなく、紅麹菌ということは、薬の効き方などでも重要な意味を持っています。
【合成生物学で使われる酵母の仲間】
Saccharomyces cerevisiae 出芽酵母。バイオ系でもっともよく使われている酵母です。酵母といったら、ふつうはこれになります。パン酵母、清酒酵母、ビール酵母、ワイン酵母も、基本的にはこの亜種になります。
Schizosaccharomyces pombe 分裂酵母。バイオ系でしばしば使われている酵母です。タンパク質のアミノ酸配列の類似度が出芽酵母よりヒトに少し近いとされるモデル生物。
Yarrowia lipolytica アルカン資化酵母。バイオディーゼル燃料、機能性脂肪酸、タンパク質を生産。
Pichia pastoris メタノール資化酵母。遺伝子組み換え技術によるタンパク質生産に広く利用。
【合成生物学で使われる細菌の仲間】
Escherichia coli 大腸菌。研究の歴史が長く、多様なツールが利用できるため、遺伝子組み換え実験で最もよく用いられます。
Bacillus subtilis 枯草菌。遺伝子組み換え実験に利用可能であるが、大腸菌ではうまくいかないタンパク質発現などに利用されます。タンパク質を細胞外に分泌させたりできます。ちなみに、納豆菌は枯草菌の一種で、Bacillus subtilis var. nattoです。
Pseudomonas putida シュードモナス・プチダ。その特性から環境浄化に利用されることが多いです。
Vibrio natriegens 増殖スピードが速いことなどから、近年注目されています。
【合成生物学ポータル】 https://synbio.hatenablog.jp
【Twitter】 https://twitter.com/yamagatm3
更新の通知を受け取りましょう
投稿したコメント