血圧を上げる方法は?「低血圧」の意外な原因

2024年3月25日
全体に公開

「血圧を上げる方法を教えてください。」

こんなご質問をいただくことがよくあります。「血圧が低い」ことを懸念されてのご質問だと思いますが、本当に「血圧を上げる」必要はあるのでしょうか。また、そもそも血圧が低い原因はどこにあるのでしょうか。

今回の記事では、「低血圧」についてまとめていきたいと思います。

どのぐらいから「低血圧」と呼ぶのか?

高血圧を持つ人が非常に多い現代において、一般的に血圧は「低ければ低いほど良い」と言われています。血圧が上がれば上がるほど、心臓の病気や脳卒中など、様々な合併症のリスクが増加すると分かっているからです。なので、基本的にただ「血圧が低い」という方は、それは良いことなのだ!と自信を持っていただければと思います。

しかし、物事は何でもバランスで、いくら低い方が良いと言っても低すぎるのは問題になります。

一般的には、血圧が上の値(収縮期血圧)で90mmHg未満、下の値(拡張期血圧)で60mmHg未満のいずれかに該当し、かつなんらかの症状を伴う時に「低血圧」と判断されます。

この「症状を伴う」というところが大切で、逆に言えば、日常的に血圧が低い数値をとるものの、全く無症状という場合には、「低血圧」として対処する必要性は低くなります。むしろ、繰り返しになりますが、あなたの健康にとって、良いことかもしれません。

「低血圧」でまず初めに見直すべきことは?

特に症状を伴わない人では大切なことですが、一番初めに見直さなければいけないのは、血圧の測定方法や測定に用いている機器についてです。

まず、血圧測定は可能な限り上腕で行うのが適切です。手首で測るタイプのものがより安価で販売されているので好まれがちですが、測定部位が心臓からより遠くなり、手首の屈伸などによってセンサーが影響を受けてしまうことも知られています。このため、測定値が不正確になりやすく、各学会もその使用を推奨していません。手首で測定された結果は参考程度に止めておくのが良いと思います。

また、適切に上腕で計測していたとしても、マンシェット(血圧測定のために巻きつける部分)の幅が広すぎる、径が大きすぎるものを使用すると、血圧が誤って低く出てしまいます(1)。

さらに、測定の際、腕の高さが心臓より高い位置にあっても血圧は低く測定されます。例えば、横向きに寝ていて、上側の腕で測定するような場合です。血圧を測る腕は、心臓の高さとほぼ同じ位置にある必要があるのです。

このように、マンシェットの選び方や、測定時の腕の高さのいずれもが正確な血圧測定には重要となり、見慣れない数字を見た場合には、まずは数字を疑うという姿勢も大切です。

なお、適切なマンシェットの大きさや幅はそれぞれ腕の周の長さで決まっています。詳しくはお近くの薬局や医療機関にお問い合わせください。特に痩せ型の方では、一般のものではマンシェットが大きすぎるというケースも多く、大人でも子供用のものを使わないと低く出てしまうということがあります。数字がおかしいなと思ったら、まずは適切な血圧計を使うことができているか見直してみてください。

Gettyimagesより

低血圧だとどのような症状が出るのか?

慢性的な低血圧は無症状のことも多く、繰り返しになりますが、そのような場合には、検査や治療が不要のことがほとんどです。

症状としては、めまいや立ちくらみ、全身の疲労感、集中力の低下、吐き気といったものが考えられます。また、意識を失ってしまう、視界がぼやけるといった症状を出すこともあります。

このような症状があり、血圧が実際に低いという場合には病気から来ている可能性がありますので、医療機関での検査をお勧めします。

緊急性の高い低血圧の原因は?

低血圧の中でも、血圧が急激に低下してしまった場合は命に関わり危険です。ご質問のケースの場合には、比較的長く続いているもののようですのでこの限りではありませんが、例えば、数時間前まで正常だった血圧が急激に低下して意識を失ったなどという場合は、緊急での検査および治療を要する状態です。

このようなケースでは、胃や腸などからの大出血、全身に細菌の感染が広がる敗血症、心臓の機能が急激に低下する心不全、肺の血管に血のかたまりである血栓が詰まる肺血栓塞栓症、重度のアレルギーなどの原因が考えられます。いずれも入院を要する緊急性の高い病態です。

症状としては、意識を失う、混乱している、早く浅い呼吸をしている、脈が弱く早い、などが見られます。こういった症状は「ショック」と呼ばれる緊急事態を示唆するもので、命に危険が迫る状態です。

治療がすぐに必要な可能性が高く、すぐに救急車および医療機関と連絡をとる必要があります。

繰り返し起こる血圧低下の二大原因とは?

これまで紹介したような緊急事態を除いた低血圧の原因として、頻度の高いものには、迷走神経反射や起立性性血圧があります。

迷走神経反射は、典型的には身体的、精神的なストレスがかかった後、血圧が反射的に低下することで起こります。小学生が朝礼中に突如倒れてしまうというのをどこかで経験したことがあるかもしれませんが、まさにこれは迷走神経反射です。

校長先生のありがたいお話も子供にとってはストレスという場合もあるのです。このようなストレス負荷がかかりすぎると、その後急に反射的に血圧が下がって意識を失ってしまうことがあります。

お子さんや若い方のめまいや立ちくらみ、低血圧の原因の多くはこれです。また、排便後に同様の反射が起きることもあり、高齢の方では排便後に意識を失ったり、転倒してしまったりということも時々経験されます。

Gettyimagesより

一方、起立性低血圧は、横になっている時にはなんでもないものの、起き上がりの際や立ち上がりの際に血圧が急激に下がってしまい、めまいや立ちくらみを起こす状態を指します。

横になっている状態から起き上がると、重力の関係で、血液はより下半身に集まりやすくなり、相対的に上半身には血液が届きにくくなります。このため、血圧が下がりやすくなるのです。健康な人では、立ち上がった時に血圧を維持できるようにすぐに血管が反応して血圧を調整しますが、血管や神経になんらかの障害がある場合には、血管の反応が鈍くなり、このようなことが起こりやすくなります。特に頭は一番高いところにきますので、頭への血流を保てなくなることで、立ちくらみやめまいといった症状につながります。

この起立性低血圧は、加齢とともに起こりやすくなります(2)が、高血圧や糖尿病があると、血管や神経の障害が進むので、この現象が起きやすくなります(3)。また、長く寝ていた後に突然起き上がると起こりやすくなることも知られています。起き上がりの時にだけめまいや立ちくらみが出る、血圧が下がるという場合にはこの起立性低血圧かもしれません。

なお、巷でよく「貧血の症状がでた」と言われるのは、多くの場合、これら迷走神経反射や起立性低血圧であることがほとんどで、貧血が見つからないことも多く経験されます。

その他の原因は?

その他の原因として、食後低血圧というのもよく知られた血圧低下のメカニズムです。これは、食事をとった後に決まって血圧が下がるというものです。ご高齢の方で多く見られるものですが、食事をとると消化を助けるために、腸が活発に動き、全身の血液が腸に集まり始めます。すると、体のそのほかの部分で相対的に血液が減り、血圧維持のメカニズムの反応が遅れると、血圧が低下してしまうのです。

他にも、妊娠、ホルモンの異常、脱水、アルコール、薬剤などでも低血圧は起きえます。

妊娠で起こる血圧の低下は、子供を大切に育てていくための正常な体の反応であり、特に問題はありません。出産すると、血圧は元に戻ります。

あるいは脱水気味になるだけでも血圧は下がる可能性があります。下痢や発熱などの症状がある場合には、脱水になりやすくなりますし、夏場の運動のあとなども脱水になりやすくなります。胃腸炎や風邪をこじらした時に、水分補給、塩分補給が大切なのはこのためです。また、寝ている間は水を飲めませんので、朝起きた時というのも脱水気味になりやすい時間帯です。

長風呂やアルコールも血圧低下という意味で危険になる場合があります。長風呂なら発汗で、アルコールなら利尿で脱水になりやすいだけでなく、ともに血管を拡張し、それ自体で血圧を下げる作用があります。お風呂上がりなどにめまいを経験したことがある方もいらっしゃるかもしれません。お風呂から出たら、しっかり水分補給をしてください。

薬を複数内服中の方は、かかりつけ医と薬を見直すことも大切です。血圧の薬に限らず、前立腺の治療薬やうつ病の薬なども低血圧を起こすことが知られています(4)。

このように、症状への対処法を考える場合に、すぐに対処法を調べて近道しようとせず、ここまで述べてきたように「なぜその症状が起こっているのか?」「低血圧はどこから来ているのか?」と原因を丁寧に評価するプロセスが大切です。対処法は、その原因によって大きく異なるからです。

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参考文献

1         Mancia G, Fagard R, Narkiewicz K, et al. 2013 ESH/ESC guidelines for the management of arterial hypertension: The Task Force for the management of arterial hypertension of the European Society of Hypertension (ESH) and of the European Society of Cardiology (ESC). Eur Heart J 2013. DOI:10.1093/eurheartj/eht151.

2         Huang CC, Sandroni P, Sletten DM, Weigand SD, Low PA. Effect of age on adrenergic and vagal baroreflex sensitivity in normal subjects. Muscle and Nerve 2007. DOI:10.1002/mus.20853.

3         Fedorowski A, Melander O. Syndromes of orthostatic intolerance: A hidden danger. J. Intern. Med. 2013. DOI:10.1111/joim.12021.

4         Perlmuter LC, Sarda G, Casavant V, Mosnaim AD. A review of the etiology, asssociated comorbidities, and treatment of orthostatic hypotension. Am. J. Ther. 2013. DOI:10.1097/MJT.0b013e31828bfb7f.

初出/WEBマガジン「mi-mollet」(講談社)

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