水の消費量を減らすゲノム編集トマト
農作物の水の利用効率を改善することは、重要な課題です。
イスラエルのテルアビブ大学チームが、CRISPRテクノロジーを使用して、収量、品質、味に影響を与えることなく、水の消費量が少ないトマト(Solanum lycopersicum)を開発し、1月23日付けのProc Natl Acad Sci USA誌に報告しています。
Puli, M. R. et al. (2024) Null mutants of a tomato Rho of plants exhibit enhanced water use efficiency without a penalty to yield. Proc Natl Acad Sci U S A. 121:e2309006120.
https://www.pnas.org/doi/abs/10.1073/pnas.2309006120
植物は、蒸散によって葉から水を蒸発させます。同時に二酸化炭素が葉の中に取り込まれ、その葉の中で光合成を行います。 これら2つのプロセス、つまり蒸散と二酸化炭素の取り込みは、葉の表面にある気孔を通じて行われます。気孔は開閉することができ、植物が水分の状態を調節するメカニズムとして機能します。
干ばつ条件下では植物は気孔を閉じ、蒸散によって水を逃さないようにします。 しかし、気孔が閉じると植物による二酸化炭素の取り込みが減少してしまいます。その結果、光合成反応が低下するので、植物が成長しにくくなります。
干ばつ条件になると、トマトの場合、作物へのダメージは果実の数、重量、各果実に含まれる糖分の減少につながり、糖度が低い果物は味も栄養価も低くなってしまいます。
今回チームは、ROP9という遺伝子を標的としたCRISPR法を用いたゲノム編集によってトマトを改変しました。
Rho of Plants (ROP) は、植物に見られるRho small GTPaseのファミリーです。 シロイヌナズナは11個のROPを持ち、トマトは9個のROP遺伝子を持ちます。これまで、ROPが乾燥ストレス反応において重要な役割を果たしていることが示唆されてきましたが、ROPの不活化がなぜ気孔閉鎖につながるのかの詳細については不明です。
いずれにせよ、ROP9タンパク質は、気孔の開閉を興味深く切り替えるスイッチとして機能します。ROP9がないと、気孔が一時的に閉鎖されるのです。これは、蒸散で植物から失われる水分が最も高くなる正午ごろに起こります。逆に、蒸散が低い午前と午後では、対照植物とROP9のない植物の間で水分損失速度に差はありませんでした。つまり、ROP9がなくても、午前と午後には気孔が開くため、植物は十分な二酸化炭素を取り込むことができ、光合成が可能になるようです。
大規模な野外のトマト栽培実験でも、ROP9変異体は水の利用効率が向上し、果実の収穫量、品質を損なわないことが実証されました。
このことから、ROP9の変異により、水の消費量が少なくなるコショウ、ナス、小麦などの他の作物も、収量、品質、味に影響を与えずに作ることが可能かもしれません。
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