躍進するBYDとテスラ、両ブランドの2024年の動向と世界のEV市場を考える

2024年1月10日
全体に公開

トピックスオーナーの前田謙一郎です。2024年もよろしくお願いします。

さて、年明けから世界のEV販売においてBYDがテスラを追い抜き、EVの王座に着いた!というようなニュースが多く記事にされ、BYDとテスラの2強構図が取り上げられるようになりました。

実際、BYDの2023年Q4という期間のBEV販売台数は全世界で52万台に達し、テスラ48万台を追い抜いた事実からBYDが世界一になったと報道されています。実際に以下のStatistaのグラフにあるように両者の販売台数を比べるとBYDの成長が著しいことがわかります。

BYDは2023年Q4期間においてテスラの販売台数を抜いた 画像:https://www.statista.com/chart/31496/global-battery-electric-vehicle-deliveries-sales-tesla-byd/

ただ、2023年通年で見るとテスラは約181万台のEVを世界で納車し、一方BYDのBEVモデルは160万台の販売ということで、引き続き世界のEV販売一位はテスラでした。

テスラは売れ筋のモデルYを筆頭に全て高価格帯に商品を投入しており、一方BYDの主流は小型の安価モデル群で、各セグメント規模も違うので、一概に販売台数でそれらブランドの優劣をつけることはできません。

しかしながら、これら台数比較も「世界のEV市場が盛り上がってきた」という文脈においては非常に好ましい流れだと思います。

というのも、テスラとBYDが鎬を削り、地球全体でEVシェアが上がり、世の中が持続可能なエネルギー社会へシフトしてくことはイーロンやBYDが目指している所であり、化石燃料に依存する自動車業界がより持続可能な未来へ近づいていることに他ならないからです。

前置きが長くなりましたが、今回は両ブラントの2023年の軌跡と2024年の展開について纏めてみようと思います。

2023年世界で最もEVを販売したテスラ

BYDの猛烈な成長が取り上げられた2023年ですが、通年で見るとテスラは2023年に過去最高のデリバリーと生産台数を達成しました。以下のCar Industry Analysisのアニメーションは両ブランド台数イメージが掴みやすく、とてもわかりやすい図です。

BYDは2022年の3月にガソリン車の製造・販売は終了していますが、売上の半分をPHEV(プラグインハイブリッド)で賄っており、その利益と台数は強力なバックボーンでもあります。

テスラの具体的な実績内訳を見ると、モデル3とモデルYが販売を支えており、約181万台のデリバリーは前年度対比で38%増となり、生産についても35%増の185万台に達しました。

2023年のテスラ実績、Model 3とYが稼ぎ頭 画像:tesla.com

アメリカ国内市場でテスラのシェアは4.2%に増加

テスラは地域ごとの納車台数は公表していませんが、アメリカのケリー・ブルー・ブック(Kelley Blue Book)の最新の推定台数によると、2023年、テスラは米国内での納車を25%増加させ、65万台に達したと公表しています。

180万台の内の65万台ですから、約36%をアメリカで納車し残りの64%はヨーロッパやアジアでの販売となります。

アメリカ市場で言うと2023年、GMは約75000台のEVを販売、フォードも約72000台のEVを販売しているので、EVの販売台数でいえばテスラのアメリカ市場でのシェアは圧倒的といえるでしょう。

さらに、米国の2023年の自動車販売台数は1558万台、そのうちの65万台ですので4.2%のマーケットシェアをテスラは獲得したことになります。以下、x.comで@GuysDealershipが調査会社のCOX Automotiveのデータを元に検証しています。

上記、納車台数の拡大のみならず、EVの充電方式についても2023年はテスラのNACSが北米でのデファクトスタンダード規格となり、テスラは充電においてもプラットフォーマーとなりました。

昨年12月には4年越しサイバートラックのデリバリーを開始、人型ロボットのオプティマスの進化、上海ギガファクトリーの拡張とメキシコ工場建設など、テスラには多くのポジティブなニュースがあった2023年だったのです。

2024年のテスラも話題が満載

2万5000ドルのコンパクトEVが登場?

画像:Tesla Shareholder Meeting 

以前、このトピックスでまとめたように、テスラは2万5000ドルのモデル(通称モデル2、Gen3プラットフォーム、ロボタクシーなど)を開発中です。実際にこのモデルが市場に出てくるとBYDが主力とする価格ラインにモデルを投入することでさらに販売台数は上がっていくことでしょう。

実際にイーロンはこのモデル2の生産ラインは地球上どこにもない最新で革新的な生産ラインになると述べています。2023年に話題になった、テスラのギガキャスティングアンボックスド・プロセスを採用することで、このコンパクトEVをこれまでにない低コストで生産する準備をしているためです。

当初、メキシコ工場で生産開始と言われていましたが、現在はテキサスのギガファクトリー、一部では上海のギガファクトリーでテスト生産が行われているとされています。現在多くのレガシーメーカーが新しく生産し始めたEVで全く利益が出ていない状況で、このモデル2が利益を確保しながら市場に出てくることは、テスラのEV市場でのポジションをさらに強固なものにします。

また、テスラが開発を進めるFSD(Full Self Driving 完全自律運転機能)もV12の最終的なアップデートが待たれています。新しいアーキテクチャーを採用し、さらに進化していると言われ、将来的にはこのFSD機能を他EVメーカーなどにライセンスすることでテスラの更なるプラットフォーマー化が期待されています。

アメリカ市場においては、サイバートラックの生産ランプアップが待ち望まれていますし、リフレッシュしたモデル3のデリバリー開始も話題のトピックです。オプティマスも生産が開始される可能性があり、2024年もテスラの動向は大注目となるでしょう。

2023年BYDは中国市場で大躍進を遂げた!

一方、メディアの取り上げ方も好意的なBYDですが、2023年に総販売台数で約300万台に達成し、そのなかで純粋なバッテリーEV(BEV)は160万台、それ以外の140万台はPHEVのモデルという成長著しい結果になりました。

以下、中国全体のEV販売メーカー別のグラフを見てもBYDの強さはダントツで2位のSAIC-GM以下を大きく引き離しています。

画像:https://technode.com/

BYDの売れ筋EVモデルはYuan Plus、Dolphinというモデルたち。Yuan plusとは日本ではAtto 3というモデルで国内でも販売開始されましたので、知っている方も多いのではないでしょうか。

Yuan Plusについては昨年時点で中国国内において18,700 USDから22,500USDと圧倒なコストパフォーマンスで販売されており、他メーカーの追随を許していません。

BYDの売れ筋 ATTO3とDOLPHIN 画像元:https://www.byd.com/jp/car/atto3

以下はAutovista24がまとめた2023年10月までのモデル別販売台数です。テスラのモデルYが中国メーカーの中で奮闘していますが、BYDはSongとQinがPHEVとBEVの両方をラインナップしていたり、前述のYuan PlusやDolphinなど多くのモデル展開で台数を稼いでいます。

https://autovista24.autovistagroup.com/

BYDに死角はないのか?今後、世界での拡販に注目

テスラと違いBYDの主な販売市場はいまだ中国であり、2023年の販売台数の中で輸出に占める台数がわずか242,765台という結果になっていることは注視しなければなりません。

BYDの発表では輸出台数は334.2%増の242,765台となり、世界70か国以上、6大陸にわたって展開されたとしていますが、輸出の割合は1%以下という状況で今後どのように中国以外で拡販できるかが、EV王座への本当の道のりになるでしょう。

BYDはアメリカで販売を開始していませんが、バイデン政権は昨年12月にはEVも含む一部の中国製品に関税を引き上げることを検討しているとメディアが報じており、中国製のEVには警戒感が強まっています。

バイデン政権も中国製品の関税引き上げを検討中 画像:Getty Images 

ご存じの通り、安価なEVに対しての警戒感はヨーロッパも同様でEUも「国家補助金の恩恵を受けた中国から輸入されるEVに対する関税導入の是非について調査を開始した」ことは記憶に新しいでしょう。

それでも、欧州では販売されるEVに占める中国シェアはすでに8%に上昇しており、2025年には15%に達すると予想されており、今後BYDがどのように輸出を拡大していくか注目されます。

BYDもこの辺りをよく理解しており、先月、ハンガリー南東部の都市セゲドに欧州初のEV組立工場を建設すると発表し、現地生産も加速していく予定です。プロジェクトはハンガリー経済史上で最大規模の投資の1つになるようで、現地での雇用促進など大きな期待を持たれています。欧州生産でそのコスト競争力を維持できるかもキーになってきます。

欧州の更なる拡販につながるか 画像:https://www.byd.com/eu

アメリカとヨーロッパでは歴史のある自国の自動車産業とカーカルチャーがあり、アメリカの自動車メディアやインフルエンサーも中国ブランドの車に人気が出ることは難しいと予測していますが、今後の展開が楽しみです。

一方、アジアや南米にもBYDは進出を加速しており、タイなどの東南アジアでは販売を伸ばしている。伝統的にトヨタなどの日系メーカーが強いマーケットでありますが、実際に昨年、私がバンコクに行った際にもBYDの車やビルボード広告を多く見かけ、BYDのアグレッシブな海外進出を目の当たりにしました。

現地では安価なEVモデルが受け入れられているので、BYDの拡販の道はアジアや中南米にあるのかもしれません。

バンコクの高速でよく見かけたBYDのビルボード 画像:筆者撮影

以上のように、2023年顕著になったBYDの躍進ですが、EVの台頭という側面以上に政治的背景も絡み始める世界的な関心になりつつあり、BYDが今後どう世界で販売を加速していくかこのトピックスでも継続してまとめていきたいと思います。

2024年も世界のEVマーケットが熱い!

マクロ経済状況や、EV市場の成長に対するネガティブなナラティブがありながらも、以上のように世界のEVマーケットは新興メーカーを中心に大変な盛り上がりと成長を見せました。BYDが予想以上の躍進を遂げたことで、テスラとの競争もヒートアップしてきました。フォルクスワーゲンなどのレガシーメーカーもキャッチアップを試みています。これら市場の健全な競争は新しいテクノロジーを生み出し、技術革新を進めます。

これまで20年以上自動車業界で働いてきましたが、ここ2年くらいでEVが世界で市民権を得、AIの登場などあり、ますます市場での変化やダイナミクスが早まった気がします。個人的にはぜひ我ら日本メーカーにもこの進化をリードしていけるようになって欲しい。

そんなことも踏まえながら、2024年も「世界の自動車メーカーで起きていること」を発信していきたいと思っています。ぜひお付き合いください。

<2024年セミナー登壇情報> 詳細はこちらから

トピックスオーナー:前田謙一郎マーケティングコンサルタント&自動車業界アドバイザリー。テスラ・ポルシェなどの外資系自動車メーカーで執行役員等を経験後、2023年Undertones Consultingを設立。

☞その他、メディア出演、講演、インタビュー記事

応援ありがとうございます!
いいねして著者を応援してみませんか



このトピックスについて
樋口 真章さん、他448人がフォローしています