EVの新たな主戦場!世界の自動車メーカーが狙う2万5000ドルのコンパクトEV

2023年12月29日
全体に公開

トピックオーナーの前田謙一郎です。

2023年は世界のEV市場でたくさんのニュースがあった年だと思います。サイバートラックのデリバリー開始、北米でのNACS採用、BYDの日本進出と中国企業の躍進など、世界のEVシフトがますます加速してきました。

同時に、ガソリン車の価格は全世界で平均5%から10%も上がったと言われていますが、2024年は電気自動車の価格が下がっていくことが予測されています。そのトレンドを牽引しているのが中国EVメーカーです。

昨日のニュースで、BYDがコンパクトで安価なEVを多く生産することで、今年の終わりにはテスラを抜きEV世界販売台数第一位になるというニュースがありました。

もちろん、テスラは上位プレミアムセグメントにしか車を投入しておらず、量産メーカーのBYDと台数で比較するのはあまり意味を成しませんが、BYDがマーケットサイズが大きいコンパクトEVセグメントを中心に成長していることは確かです。

世界が注目する2万5000ドルのEV

今年の後半になって話題になっているのが、この2万5000ドルのEV。これらは次のEV主戦場になるであろう、世界の自動車メーカーが開発にしのぎを削る低価格でコンパクトなEVの事です。そのプライスポイントは2万5000ドルもしくは2万5000ユーロと言われており、日本円の価格だと300〜400万円台で買うことのできるモデルとなります。

現在、USでのモデル3価格は3万8990ドルですので、モデル3より一回りコンパクトでかつ、価格的にも1万ドル(約140万)低い設定になるモデルです。

テスラは今年の5月に行われたShareholder Meetingにおいて通称「Model 2」のシルエットをチラ見せし、期待感を煽りました。イーロンはModel 2という呼称は否定していますが、Model 3の下のセグメントということであればわかりやすいネーミングでもあります。

画像:Tesla Shareholder Meeting 

つい先日も、イーロンがリバース・エンジニアリングの大御所サンディー・マンローとの対談でこのコンパクトEVについて触れており、x.com界隈ではこのセグメントの車の話題が盛り上がってきました。

インタビューでコンパクトEVについてもイーロンは言及 画像:x.com @live_munro

インタビューの中でイーロンはModel 2について「誰も見たことのないような生産ラインで、そのテクノロジーは地球上にある他のどんな自動車の工場よりも進んでいる」と示唆しています。

このセグメントではギガキャスティングのような手法で製造コストを削減し、低価格かつ利益が出るEVを作れるかが重要であり、テスラはこの準備を着々と進めている自信の表れと言ったところでしょう。

世界中の自動車メーカーがこの市場を狙っている

もちろん、多くのメーカーがこのセグメントの車の販売を予定しており、それぞれ見ていくことでセグメントの注目度が分かると思います。

遡ること、この3月にはドイツの大手フォルクスワーゲンがID.2 allというモデルのコンセプトを発表しました。開発中のID.2はヨーロッパでの長年のベストセラーであったゴルフのインテリア空間と一つ小さいサイズのポロのエクステリアサイズになると言われているモデルです。1回の充電で最大450km、価格も2万5000ユーロを下回るとされています。

フォルクスワーゲンは2023年3月にはID.2 allという小型EVのコンセプトを発表した 画像:Getty Images 

言わずと知れた、ゴルフはヨーロッパで長らくベストセラーのモデルでありました。歴史的な街並みと小さい道が多いヨーロッパではフォルクスワーゲンのゴルフやポロ、プジョー208のような小型車の人気が高く、日本車で言うとトヨタカローラのようなサイズの車です。

ガソリン車としてはフランスのプジョーにもプジョー208という車があったり、アウディのA3など長らく激戦区のセグメントです。

フォルクスワーゲン・ゴルフとトヨタ・カローラ 画像: www.volkswagen-newsroom.com / https://newsroom.toyota.eu/the-new-corolla/

11月にはフランス大手のルノーが、小型ハッチバックEVの「5(サンク)」を2024年2月に行われるジュネーブモーターショー2024で初公開すると発表しています。

バッテリー容量は52kWh、1回の充電で最大400km(WLTP)の航続距離があり、ここでもベース価格は2万5000ユーロ(約400万円)に設定。EVながらこのコンパクトセグメントのハイブリッド車の価格に匹敵するとルノー自体が発表していることからも、この価格を重要と考えていることがわかります。下記のティーザーを見る限りとてもレトロポップな感じが好感が持てます。

コンパクトEVでは中国メーカーがリード

上記のように、これまでは欧州勢が信頼性の高い車でこの伝統的セグメントをリードしていましたが、その様相が変わりつつあります。なぜならこれまでガソリン車では競合ではなかった中国メーカーが強力に進化を遂げ、特に価格面についてアドバンテージを持つEVを大量生産し、輸出も拡大しているためです。

現在、中国で一番売れている完全なEVモデルのトップはテスラのModel Yですが、2番手はBYDのYuan Plus、そして3位もBYDのDolphinというモデルです。Yuan plusについては2023年の9月時点で18,700 USDから22,500USDと圧倒的な安さを誇っています。

BYDのYuan Plus 画像:https://www.byd.com/en/news-list

以下はAutovista24がまとめた2023年1月から10月までのモデル別販売台数です。BYDのSongとQinについてはPHEVとBEVの両方があるため、トータルでは1位・2位となっていますが、純粋なBEVではBYDのYuan PlusやDolphin、GAC(広州汽車)のAionなどが売れ筋となっています。

https://autovista24.autovistagroup.com/

中国国内の弾みをそのままに、BYDはヨーロッパやオーストラリアなどに輸出を増やしてきています。欧州では販売されるEVに占める中国シェアはすでに8%に上昇しており、2025年には15%に達すると予想されています。

そのような状況に危機感を覚えたのはヨーロッパの自動車メーカーだけではなく、EUも同様で、「国家補助金の恩恵を受けた中国から輸入されるEVに対する関税導入の是非について調査を開始した」ことは記憶に新しいでしょう。

韓国Hyundai(ヒョンデ)やアメリカのGMも続く

中国や欧州メーカー以外も同じ動きをしています。今夏には世界第3位の自動車メーカーヒョンデもコンパクトなアイオニックのモデル(通称アイオニック2)を開発中というニュースがありました。

ヒョンデがこれまでに発売したEVシリーズ、アイオニック5とアイオニック6の両方は世界では高い評価を受けています。ヒョンデ・ヨーロッパは前述のフォルクスワーゲンID2.allに対抗するモデルを開発中と公式に話しており、ターゲットプライスは2万ユーロ(約2万2000ドル)として2万5000ドルを下回る設定です。

このコンパクトEVはより規模の経済が効く、第2世代EVプラットフォームIMA(Integrated Modular Architecture)を採用予定で、2030年向けてアイオニックのみならず、傘下のKiaやプレミアムラインのGenesisのモデルにも展開予定。日本に昨年から参入したヒョンデですが、今後のEV展開には期待できそうです。

Carscoopsが予測したヒョンデのコンパクトEV。こんなにカッコよければ売れること間違いない。画像:https://www.carscoops.com/2023/12/hyundai-wants-to-crack-europes-ev-code-with-22000-ioniq-2/

ちなみに、アメリカのGMは傘下のブランド、シボレーから30,000ドルを下回るEquinox EVという小型SUV電気自動車の発売を来年控えています。

GMのメアリー・バーラCEOは10月の決算説明会で、来年半ば時点で累計40万台としていたEV生産目標を見直すことを発表しています。傘下の自動運転タクシーを運営するクルーズも営業停止になったりと踏んだり蹴ったりの2023年でしたが、今後はどれだけ巻き返しできるでしょうか。

GMから発売されるChevrolet Equinox EV 画像:https://media.chevrolet.com/media

2024年はさらにEVマーケットが面白くなる!

多くの世界市場で、ガソリン車の新車販売ができなくなる2030年はもうすぐ。2030年に向けて、2024年はさらにEVの価格が下がり、コンパクトEV市場に新車が出てくることで、よりマスマーケットへEVが普及してくる年になるでしょう。

日本のEV普及率は引き続き遅々としていますが、密かに日産の軽自動車EVのサクラは売れ始めている。郊外ではやはりこの取り回しの良いサイズと価格には需要があることを示しています。BYDは日本でも販売を開始し、テスラのスーパーチャージャーは国内100拠点に達しました。日本でも今後どのようにEV市場が成長していくか、楽しみな兆しがたくさん出てきました。

それではまた、2024年の記事でお会いしましょう!良いお年をお迎えください。

<2024年セミナー登壇情報> 詳細はこちらから

トピックスオーナー:前田謙一郎
マーケティングコンサルタント&自動車業界アドバイザリー。テスラ・ポルシェなどの外資系自動車メーカーで執行役員等を経験後、2023年Undertones Consultingを設立。

☞その他、メディア出演、講演、インタビュー記事

応援ありがとうございます!
いいねして著者を応援してみませんか



このトピックスについて
樋口 真章さん、他493人がフォローしています