英国パブに「入国」?!:制度上の不備と排他性に関する覚書

2023年12月12日
全体に公開

イギリスにはパブ文化があり、私も渡英以降、多くのパブに行き、多種多様なビールを嗜みました。その中でも、近所にある格安パブチェーン店に足繁く通っているのですが、ある時、入り口で身分証の提示を求められました。今回は、この時のガードマンとのやり取りから考えたことを綴ってみます。英国留学や滞在の参考になればと思います。

英国での身分証明

英国への居住が許可されると、これまでは、BRP(Biometric residence permit)というカードが与えられて、これが有効な身分証明証になっていました。この時の私は、ビザの更新をしたばかりでした。そしてBRPカードは2024年12月をもって廃止になることが決まっています。代わりにShare cordが割り当てられるのですが、この番号を就労資格家を借りる際の証明などとして提示するようになります。私の場合は、滞在期間が2024年末より長いので、このカードは発行されず、Share cordが割り当てられました。

パブにパスポート?!

さて、パブに入店の際、身分証の提示を求められた話に戻りましょう。その際私は「最近ビザを更新して、もうBRPカードは発行されなくなって、Share cordがあるから、これで確認してください」と伝えるも、ボプサップのような風貌のガードマンは、「physical card(現物のカード)じゃないとダメだ」の一点張りです。みんなに確認してるから、と。「いや、でも、ここ、ほら、身分証明の際は、Share cordを伝えるようにって書いてありますよ」と言っても聞き入れてもらえません。さらに、「パスポートもあるだろう」と言ってきます。パスポート?!

筆者がChatGPTで作成

しかし、この時私は、英国の運転免許証を取得(2023年12月現在、英国滞在期間が5年以内であれば、試験を受けることなく、日本の運転免許証から英国のものに切り替えることができます)するために、パスポートを管轄の役所に送っていたので、それすらありません。身分を証明するものが学生証とShare cordしかない。今振り返っても、けっこう不安な状況です。「運転免許証の申請でパスポートが今は家にもない」ことを伝えると、ボプサップは急に態度を軟化させ、「2週間くらいで返ってくるのか?」と問うてきます。「いや、6週間くらいらしくて」ボブ:「そうか、今日はしょうがないな」と言って、最終的に入店させてもらえました。

ホッと一息ついたのも束の間、杖をついた白髪初老の英国紳士が、私たちのやり取りをよそに、その横をゆっくりと通過していくではありませんか。ボブサップは白髪に一瞥をくれるも、特に何かを尋ねることはせず、知らず顔です。「え?ボブ、みんなに確認してるって言ってたやん」と、急に憤りを感じる私。パスポートまで要求されたのに、白髪には何の確認しないのですか。まるで、彼がパブ国の国民で、私は、パブ国への入国審査を受けなければならない外国人のようで、急に被害感情が湧き上がってきたのでした。おそらく年齢によるものではないと思います。さすがに18歳以下には見えないと思いますので。

入店許可されたにも関わらず、目の前の風景が、急に見ず知らずの地に思えてきました。そんなことをガードマンに伝え、どう考えているのかを尋ねると、「それは問題だ」と言います。何か対応策は考えられているのかを問うも、「それは問題だ」しか返ってきません。まぁ、ガードマンに問うてもしょうがないよな、彼も、ルールに則って、現物カードを提示するように客に求めてるんだから。まだ、制度が追いついてないだけだと、席を見つけて、IPAというビールを煽ったのでした。

筆者がChatGPTで作成

Brexit以降の排他性

英国は国民投票を経て、私が渡英して数ヶ月が経った2020年1月にEUを脱退しました。投票数は僅差でしたが、英国国民は、EUから脱退する方向に舵を切ることを選んだのです。背景には、EUのルールに拘束されることからの解放を望む声が多かったこと、特に移民政策について地方の不満があり、それがこの結果に反映されたと捉えられているようです。ちなみに、多種多様な人種や民族が共生するロンドンでは、EU残留派が過半数でした。

さて、このEU離脱時点での私は、まだまだイギリスの事情にも明るくなく、どの程度大きな変化があるのかは全く分かっていませんでした。しかし、その後この国の制度や体制が分かってくるにつれ、「外国人として」この国で生活する上で、徐々に条件が厳しくなってきていることを痛感せざるを得ませんでした。私の場合は、留学生なので学費がhome studentと比べて2倍。またそれまで臨床研修は留学生でもお金をもらいながら実習先を与えられて実践できていたのですが、私がそれを始める数年前から、状況は一変。自分たちで実習先を開拓しないといけないのに加え、基本的にはボランティアで、無償で研修を受けるようにといった流れになっていました。これもBrexitの煽りを受けている可能性があります。ただ、それまでが留学生にも寛容過ぎた可能性はあります。一方で、ヘルスケア関連のスタッフが不足しているという現状があり、EU圏内の人々がそれまで担っていた側面もあります。

筆者がChatGPTで作成

一方、人種や民族に関連する排他性に関しては、幸か不幸か、ロンドンでそれを感じることはあまりありませんでした。英語の不自由さによる劣等感はたびたび感じますが。

制度の狭間で〜Brexitと日本の今後〜

今回の件は、身分証明制度の狭間で醸成された感情で、どこか一方的に勝手に迫害感を抱いてしまったような体験ではありましたが、制度(の隙間)によってもたらされる感情も多々あるのだと感じ、改めて、Brexitとは何だったのかを考えるきっかけを与えられたようにも思いました。身分証明に関しては、私の場合は、その後運転免許証で対応できるのですが、免許を持たずに滞在が許可されている人たちは、今後、バプに入店するために、住人であるにも関わらずパスポートを持ち歩かないといけないのでしょうか。出入国の際のように(ちなみに、日本国籍の人は英国にビザなしで6ヶ月滞在できるので、ビザなしの方たちは、パスポートが証明になるため、その提示を求められることが多いようです)。あるいは、Share cord制度が正式に普及し、よりオンライン化が進むのでしょうか(例えば、パブの出入り口にShare cordを入力する機械が設置される等)。

今後、さらに少子高齢化が進んでいくであろう日本が、政策の面でどのような方向に舵を切るのか、英国のBrexitから学べることもあるかもしれません。

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