EVの充電規格競争!テスラのNACSがアメリカで標準規格になった理由を分かりやすく
12月20日更新
ドイツの自動車大手、フォルクスワーゲングループもプレスリリースを行い、フォルクスワーゲン、アウディ、ポルシェがアメリカで2025年からNACSを計画していることを発表しました!現在ではステランティスが唯一、採用を表明していない自動車グループとなっています。
フォルクスワーゲンは2025年から順次アダプターを搭載とのことで、残念ながら2024年はCCS(コンボ)充電となるでしょう。ちょうど2025年に発売されるID.7はまだCCS搭載とのことですが、今後の展開に注目しましょう。
トピックスオーナーの前田謙一郎です!
今年もたくさんの話題があった電気自動車マーケットですが、世界的に見ても大きなマイルストーンの一つはテスラの充電規格NACSが北米で実質の標準規格になったことではないでしょうか。
NACSとはNorth American Charging Standard(北米充電基準)といい、テスラが開発した充電コネクターとそのポートのことです。イーロンは2022年11月にその仕様を公開し、各団体や他メーカーへ採用を呼びかけ、規格を統一しユーザーの利便性を高めようとしていました。
他自動車メーカーからはテスラが勝手に自分達の充電規格をそれまでのテスラスーパーチャージャーからNorth American Charging Standard(北米充電規格)なんて呼び始めることに当初クレームをつけていました。
しかしながら、2023年5月にFordのCEOジム・ファーリー(Jim Farley)がNACSの採用をアナウンスすることで、GMが続いて採用、現在では8割近いメーカーが北米で販売する車にNACSを順次採用するということを発表しています。
ちなみに少し遅れながら、7月には日産やホンダなど日本勢も採用を表明し、10月にはトヨタとレクサスも採用を決定しました。未だ、採用していない大手はVWグループ(ポルシェ、フォルクスワーゲン、アウディなど)とステランティス(ジープ、アルファロメオ、プジョーなど)だけになりました。
✅既にNACSを採用表明したメーカー
Ford, GM, Rivian, Lucid, Mercedes Benz, BMW, Jaguar, Volvo, Nissan, Toyota, Honda, Kia, Hyundai, Subaru etc..
❌NACSを表明していないメーカー
Volkswagen Group (VW, Audi, Porsche)
Stellantis (Jeep, Fiat, Alfa Romeo, Peugeot etc…)
この標準規格を取る、またはプラットフォーマーになるということはビジネスでは非常に有利になることを歴史が示しています。
規格競争を制するということ
規格競争に勝つ事は自社製品がプラットフォームを取ることになり非常に重要です。勝ったメーカーは業界基準となり利益を上げることができますし、私たちユーザーとしてもメーカーごとに違うデバイス等を買う必要がなくなるので利便性が上がります。
今後、テスラは他メーカーがNACSを使うことで多くの技術使用料やロイヤリティー収入が見込めると同時に、車両運行やバッテリーデータを大量に入手できることにもなります。他メーカーは充電料金の決済システムについてもテスラ経由となってしまいます。
かつては1970年代から1980年代初頭にかけて、家庭用ビデオテープの規格戦争が起こりました。VHS(JVC)とBetamax(ソニー)が競い合い、VHSが最終的に広く普及しました。
最近ではデジカメなどに使われるメモリーカードの例があります。今ではSDカードが主流になりましたが、それまではソニーのメモリースティックやxDピクチャーカードなども存在していましたが消滅しました。
電気自動車についても同様に、世界ではNACSの他に、日本発のチャデモ、ヨーロッパと北米で使われているCCS、中国のGB/Tなどが挙げられれます。テスラは変換アダプターでチャデモやCCSに対応できますが、CCSやチャデモ仕様の車はNACSを使えなかったりという状況でした。
EVに乗らない人にとっては、充電の種類や料金はとてもややこしいです。例えるとスマホの充電にアップルのライトニングやUSB-C、その他にマイクロUSBなどがあり、携帯によって充電器を変えないといけなことに似ています。
なぜNACSが規格競争に勝ったのか?
実際にテスラだけで使用できたNACSが他メーカーに採用された理由はそのテクノロジーと利便性があるためです。実際に私もアメリカに行った際にはNACSとCCSの両方を使っていましたので、採用される理由には納得がいきます。
優れたデザインと機能:テスラのコネクタはCCSコネクタよりも小さく、ケーブルも細くて軽量。誰でも簡単に充電差し込みができて、充電ケーブルの取り回しも良く、ただ繋ぐだけです。(これは世界共通で日本のテスラでも同じ)
これは本当に重要で、日本のチャデモ充電器はCCSよりさらに重量級、私のような大柄な男性でも両手で力を入れて持ち上げ、なんとか車に差し込むのですが、重すぎてボディーに金属でできた充電コネクターをぶつけるなど、、使い勝手は本当に大切です。
プラグアンドプレイ:NACSはただ繋ぐだけで、充電が開始され保存されたクレジットカードで支払い完了。CCSやチャデモのようにカードやアプリによる認証などありません。
私も過去に台風や大雨の際に高速道路のチャデモで充電せざるを得ない状況がありましたが、認証がうまくいかず、ずぶ濡れになり、大変な思いをしたことが何度かあります。
充電器数の多さと信頼性:CCSもネットワークは広く、充電施設数はNACSを上まわっているのですが、充電器のポスト数ではNACSの方が多く、公共施設も多いためアクセスがしやすい。さらに、アメリカでよくあるが、充電器にたどり着いても故障してる、もしくは使えないというもの。
アメリカの大手EVメディア、electrekのある期間の調査によるとCCSは72%は正常に作動するが、残り約30%の割合で充電器が動かなかったり、ケーブルが短かったりして、充電できなかったとのこと。それに対してNACSでの不具合は4%でトラブルは少ないという結果があります。
いずれにせよ、このような新しいテクノロジーは私たちの利便性を大きく向上します。何年後かに、この充電規格競争は大学などマーケティングの良い研究題材として取り上げられるだろうと思います。
FordやGMの合理的な決定に多くのメーカーが続いた
今回、多くのメーカーがNACSの採用を行うことになったトリガーはフォードのアナウンスからでした。とても印象的であったのはフォードCEOのジム・ファーリーが実際に自社のEVピックアップトラック F-150 Lightningで長距離運転しているときに充電不安があり、ユーザーの充電体験を改善しないといけないとx.com上で話し、NACSの採用を決めたことです。
また、GMのCEOメアリー・バーラ(Mary Barra)も6月9日にx.comのスペースでイーロンと「将来のEV充電」という公開トークを行い、GMユーザーのためにNACSを採用すると話をしました。
ちなみに、この時の両者のトークはとてもこちない感じで短い時間でしたが笑、通常、何重にも校正されたプレスリリースでしか声明を出さない自動車メーカーのトップが多い中、このようにx.comのスペースでフリーに公開トークを行うことはとても新しいスタイルで好感が持てました。
NACSを採用することは、見方によってはテスラ規格の軍門に降るように取られるかもしれませんが、両者とも実際のユーザーの利便性を考え、それをすぐに実行に移すのはとてもアメリカらしい合理的な判断だと思います。
今後の充電規格の展開は
このように、アメリカではメーカー同士の競争や提携で技術革新のスピードが早く、EVユーザーの体験は年を追うごとによくなっているのを感じます。また、他メーカーが北米でNACSに対応するということは、開発工数の観点から同様にヨーロッパや日本へのNACS展開も同じようにあり得ます。
多くの自動車メーカーが車自体のEV化に苦労し、バッテリー開発にも新たに投資しなければいけないと躍起になっている中、先行者メリットのあるテスラは充電規格でそのプラットフォーマーになってしまった。テスラがこの充電プラットフォームを取ることによって、その充電やバッテリーマネジメントのアドバンテージを加速するのは間違い無いでしょう。
今後も世界のEVマーケットの動向には目が離せません。さらに、充電規格の後、次にデファクトスタンダードになるであろう分野もあります。それについては今後の機会に纏めてみたいと思います!
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