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モバイル通信を実現するためには、アンテナが電波の信号を送受信していますが、その裏側でアナログ信号をデジタルに変換したり、認証やポリシーの適用などさまざまな処理をしています。
裏側で使われる各ベンダーの製品は相互接続性がないため、複数のベンダーの操作を覚えなければならない運用者の負荷になったり、新しいアプリの使用の障壁になったりすることがあります。OpenRANは、ざっくりいいますとその標準化を目指しています。
Fyuzは、Telecom Infra Projectという業界団体によって開催されている通信事業者向けのイベントです。2022年から開催されており、2023年10月に2回目が開催されました。主題は、OpenRANでした。5つの注目ポイントをまとめましたので、ご参考ください。
1. 2027年までに2,500サイトをOpenRAN化へ(Vodafone社)
2023年8月から主にヨーロッパで大規模なOpenRANの展開を進め、2027年末までに最低でも2500のサイトをOpenRANに移行する計画を発表しています。同時に、ルーマニアでのOrange社との基地局の共有にも着手しています。技術開発においては、複数ベンダーのアンテナを混在させた構成に挑戦したり、パフォーマンス最適化のための専用チップの開発について、Intel社と協力しています。
技術開発だけでなく、さまざまなベンダーの製品を組み合わせたテストも積極的に行っています。テストサイトは他の通信事業者やベンダーにも公開され、コミュニティの活性化を図っています。
ベンダーとの連携においては、Nokia社と共同でイタリアにおけるOpenRANを構築したことも報じられています。この基盤として、Dell社と共同でクラウドとオンプレを組み合わせた構成を採用したことも注目を集めました。
OpenRANの推進において、Vodafone社は「先進的なシリコンの実装」と「クラウド・ネイティブ」の重要性を強調していました。将来の計画については、「長期的にはプラグアンドプレイにこだわっていきたい」と述べ、ワンクリックでモバイル環境が実装されることでテスト時間の短縮や工事の迅速化などが期待できると述べています。
2. ベンダーの自由な組み合わせの新局面「OREX」の提供開始(NTT Docomo社)
NTT DOCOMO社は、他の通信会社向け提供可能なOpenRAN製品セット「OREX」を発表しました。この製品の特長は、ベンダー製品の自由な組み合わせを保証する点です。従来では、限られた選択肢の中から製品を選定するものでしたので、非常に画期的な取り組みです。
OREXのメリットは、周波数帯や地域のニーズに合わせて最適なソリューションを提供可能な点と、ベンダー統合を自社で行うことでコストを削減できる点にあります。
3. プライベート5Gに関する提携の展開(AWS社)
2023年8月にプライベート5Gサービスを立ち上げました。AWS社は、ハードウェアとソフトウェアを提供し、さらにマネージドサービスも提供します。AWS社は、テレコム市場を奪うつもりではなく、むしろイネーブラーとしての役割を果たすことを強調しています。
AWS社は、また、ドイツテレコム社やVMware社との提携を10月に発表し、多国籍企業ネットワークの制御と管理を提供しています。クラウドの経済性、サブスクリプションモデル、従量課金モデルの導入により、経済的な障壁を取り除き、企業が実験から本番稼働までのスピードを向上させることができると述べています。
プライベート5Gの実装では、多くの場合、急なビジネスニーズが存在します。これに迅速かつ経済的に対応できなければ、企業は他の選択肢を検討してしまう可能性があります。展開のシンプル化が重要であり、クラウドプラットフォームの活用が合理的です。また、クラウドの利用により、AIや機械学習の統合が容易になり、異なるドメイン間で一貫した管理や制御が実現しやすくなります。
4. 5Gスライシングサービス開始。注目されるAPIの公開(ドイツテレコム社)
ドイツテレコム社は、2023年10月からスライシングサービスを提供することを発表しました。このサービスは企業が独自のニーズに合わせてカスタマイズされた5Gネットワークの構築に利用できるもので、製造、医療、教育などのさまざまな分野での活用が期待されています。
スライシングは、特定の用途や事業に専用の帯域を割り当てる技術です。ドイツテレコム社はスライシングにおけるAPIを公開しています。APIを活用することで、スライスの作成・管理、ネットワークリソースの割り当て、セキュリティの設定が簡単になります。
APIに関しては、「Quality On Demand API」という特殊なAPIも提供されています。この APIを使用すると、アプリは、対象のネットワークに対して特定のサービス品質を要求できます。ネットワークの高負荷状態でも、安定した帯域幅でデータを転送することが可能となります。たとえば、遠隔操作による自動車の運転では、安全性を確保することができます。
5. 中立ホストを活用した新しいアプローチ(Meta社)
Meta社は、AT&T社やT‐Mobile社と提携して、建物内での5Gカバレッジを向上させる取り組みを進めています。これまでのモバイル通信では、建物内での信号強度が不足していましたが、新しいコンセプトでは、Meta社が中立ホストとして機能し、複数の通信事業者の信号を受け取り、それを中継することで建物内の信号強度を高めます。
このプロジェクトでは、CBRS(Citizens Broadband Radio Service)と呼ばれる免許不要の3.5GHz帯を利用し、LTEベースのネットワークを構築しています。これにより、建物内に外部のモバイルサービスを拡張し、ユーザーにとってより良い通信体験を実現しています。
新しい展開方式は、従来のモバイル通信と比較してコストを大幅に削減し、かつ迅速な設置を可能としています。
6. RAN Intelligence 高度な分析システムの開発状況
RAN Intelligence(以下、RIC)とは、無線システムの電波効率向上、コストの削減、エネルギーの節約などを目的とした高度な分析システムです。具体的には、信号強度、ノイズ、干渉などデータ化し、機械学習を用いて分析することで、アンテナの位置や利用する周波数帯を最適化します。RICとAPIで連携をするアプリの開発に今後期待がされています。
技術的な課題は、複雑な電波からデータを取りだすことです。AT&T社とNokia社は、ニアリアルタイムの分析に関する共同研究を行っています。また、2023年MWCでは、Microsoft社が複雑な電波に関するデータ抽出に成功しています。リアルタイムの分析は技術的な難易度がより高くなります。ここにおいては、リアルタイムの分析には、オープン性が担保されることが必須と講演では語られていました。
技術的な実装が進むことで、位置情報の認識やセキュリティへの適用、デジタルツインへの活用が期待されます。この領域では、大手よりもスタートアップの活動が活発化しており、組み込みアプリの黎明期を迎えています。
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