経済成長するASEANを走破、日本の国際協力の意義とは vol.1

2023年11月29日
全体に公開

メコン地域を含むASEANの国々の成長の勢いはとどまるところをしらない。すでにASEAN全体の輸出額は、日本の輸出額の2倍を超えている。また、ASEAN全体の経済規模は、数年以内に日本を超え、さらに勢いを保って成長していくことが見込まれている。

日本とASEANの関係は以前とは大きく変わってきていることを改めて認識すべきだろう。経済力のある日本が、まだまだ発展途上のアジアの国を支援しているという従来型の見方をしていては現状を見損ねる。

東南アジアのインドシナ半島南部を東西に横断する「南部経済回廊*」。今回、ベトナムのホーチミンから、タイのバンコクまでの約900km(東京~広島間に相当)を、車で走破してみた。成長著しい勢いのあるASEANで、日本がプレゼンスを発揮できて、評価を得られる貢献・役割はどこにあるのか。自分たちの目と耳と足で体感し、日本からの国際協力の課題を探ることが目的だ。

※ミャンマーからタイ、カンボジアを経てベトナム南部の港街ブンタオまでの、およそ1,200km。約20年にわたり、日本がインフラ開発等を支援。

1日目:メコン地域の海の玄関口 カイメップ港(ベトナム)

メコン南東部の海の玄関口であるカイメップ港。ここが、南部経済回廊の東のスタート地点となる。

巨大なコンテナ船と、そびえ立つクレーンの数々。小さな塊に見えるコンテナ貨物の1つ1つの流れが、この地域の経済の動きとなっている。

カイメップ港は、日本のODAで協力して整備した港だ。開港して数年間は、当初想定していたように利用量が伸びず、日本側関係者の間で大いに心配していた。どうしたらもっと利用されるのか、すぐにできる対策はないかなど、ベトナム政府側に対して、急かすように相談をもちかけ、対応を求めていた。

それが今や、カイメップ港のコンテナ取扱量は、東京港のそれを上回るほどだ。今にしてみれば、ベトナム側は、「何をそんなに日本は焦っているか。そのうちいくらでも使われるようになるだろうに。ベトナム経済の成長可能性を信じていないのか」とでも思われていたかもしれない。

港のヤードに山積みにされたコンテナ、桟橋に着岸している巨大なコンテナ船、ひっきりなしに出入りするトラックを目の当たりにしながら、年率6~7%の経済成長を10年続けるとは、こういうことなのかと思った。

「目の前の現象にとらわれすぎずに、中長期的な視点が大事。特に、インフラ整備の効果が出るには、時間がかかる」とはわかっていながらも、なかなかそれを想像して実際に行動することは難しい。

2日目:ホーチミンから、ベトナム・カンボジア国境へ

翌朝、ホーチミン市内を出発し、カンボジアとの国境の町モクバイを目指して西に向かう。

月曜朝の通勤・通学時間と重なり、雨が降っていたこともあって、予想以上の大渋滞。多くの車とそれをはるかに上回る数のバイクが入り乱れ、大きなうねりとなって流れていく。

ベトナムの人口は既に1億人を超え、2050年頃まで人口増加が続くとも言われる。バイクにまたがった彼らこそが、いずれは中間所得層、高所得層となって、ベトナムの消費と経済を支える原動力として、さらに国の成長・発展を促していく存在となっていくのだろう。

それにしても、ホーチミン市内から抜け出るのに、とにかく時間がかかる。わずかな距離の移動なのだが、1時間を要した。この渋滞を考えると、陸路輸送にもボトルネックがあることがよく分かる。大きな血管の中に、深刻な血栓(血のつまり)をいきなり発見したような感覚だ。ホーチミン市内を車では通らない“バイパス手術”が必要だろう。

ベトナム・カンボジア国境

ようやくホーチミン市内を抜けた後は、国道もしっかりと舗装されており、比較的スムーズに走行を続けられた。約60kmの道のりだったが、ホーチミンから2時間ちょっとでカンボジアとの国道付近に到着。

ベトナム側の国境の町(モクバイ)は、見たところさほど大きな町ではないようだが、入国後のカンボジア側の町(バベット)は、ベトナム側とは対照的に、大いににぎわっていた。カジノが認められていることもあるのだろうが、ベトナムからの物流に対するカンボジア側での期待と貢献の大きさが、逆のそれとは異なることを示唆している。

この国境を通過する荷物(コンテナ)は、カンボジアへの輸入(ベトナムからカンボジアへ)の方が、輸出(カンボジアからベトナムへ)よりも金額にして100倍多いと聞いた。ベトナム側から入ってくるものの量、価値が圧倒的に多く、逆は小さい。これが、それぞれの国境沿いの町のさかえ方にも現れているようだ。

またベトナムからの出国に要する手続きは、こちらが心配になるほど、簡単であっけなかった。手荷物のスーツケースを検査機械に一応通したが、誰も検査モニターをチェックしている様子はない。

一方でトラックは多くが待機させられており、行列ができ始めていた。トラック貨物のチェックはしっかりやっているということなのか、徒歩通行者の荷物チェックにはあまり関心がないようだ。

カンボジアの当局にしてみれば、ベトナムから入ってくる多くの貨物については、関税収入をしっかり徴収しなければならないので厳しくチェックを行うインセンティブが働くが、人の流入の方に関してはさほど厳しくチェックを行う強い動機がないということかもしれない。

逆にベトナム側の国境管理では、移民対策や密輸防止対策が主な役割。カンボジア側からベトナムに入る場合は、このようにスムーズにはいかなかったかもしれない。

第1回目まとめ(ベトナム~カンボジア)

こうして、最初の訪問国ベトナムから、無事に国境を越えて、カンボジアへと出国した。筆者は以前(2011年~2014年)、ベトナムのハノイに駐在していたことがある。その10年前と比べて、人口も経済規模も大きくなっているからなのか、あるいは多分に感覚的なことなのかもしれないが、とにかく、以前よりも強い“活気”を感じた。

まだ始まったばかりではあるが、ベトナムの、そしてメコン地域の確かな“変化”を肌で感じるところから、今回のミッションは幕を開けることとなった。

なお現地で撮影した動画はYouTubeでも公開しています。ぜひご覧ください。
【メコン地域】南部経済回廊を走ってみた - YouTube

注)本記事は筆者の個人的見解を示すものであり、JICAの公式見解を反映しているものではありません。

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