英国、自動車販売におけるEV展開見通しを下方修正。なぜ?

2023年11月28日
全体に公開

世界の自動車市場でEV(電気自動車)先進国を目指すイギリスがブレーキを踏んだ。

イギリスは、ドローンやAIなどの目新しい技術を導入し、国をあげて展開を主導することで、世界にイノベーション大国としての存在感をアピールしてきた。EVの展開もその一つである。イギリスは過去に、脱ガソリン、脱ディーゼルともいうべき、電気自動車以外の新車販売を禁止する法案をまとめており、2030年に完全禁止するはずであった。しかし、つい先日、英国スナク首相が、このガソリン車およびディーゼル車の販売禁止を2030年から2035年まで5年間延期することを決定した。今回のEV展開予測の下方修正は、そんな矢先のニュースとなる。

財政当局OBRが発表した「経済・財政見通し」によれば、2023年におけるEVの販売予測は25%から18%に減少し、2027年の登録予測数は、当初の見通しであった67%から38%と、ほぼ半分にまで下方修正さる見通しとなった。この予測の減少の主な要因の一つは、低コストEVの不足である。過去数年間、好調であったEV新車販売数とそのシェア拡大は、主に高所得者によって牽引されてきた。しかし、彼らによる購買は一服したと考えられており、今後はこの販売速度が鈍化するとの見方が示されている。

出展: 2023年11月27日発表の英国財務大臣補佐官発表による「経済と財政の見通し」内のグラフデータをもとに、Tatsu Orii 加工・加筆

EVには、自宅での充電が可能な消費者にとっては、ガソリン車・ディーゼル車に比べると、ランニングコストが低いという利点がある。一方で、自宅外での充電や公共の充電インフラであるEVチャージャーの不足が、多くのドライバーにとってはまだ頭の痛い問題となっており。EVが一般的になるためには、この点に対する克服が重要である。

また、ガソリンとディーゼルの価格の低下も影響していると考えられる。イギリスにおけるガソリン価格の高騰は2022年半ば以降、今日まで回復が見られている。これにより、消費者は、EVへの移行に急を迫られてない状況ともいえるのだろう。

次なるEVの展開促進において主導的な政策は、2024年1月に発効するZero Emission Vehicle(ZEV)規制となる。これは、自動車メーカーが製造する車両のうち22%(バンは10%)がEVである必要があるという規制である。この規制がEVの採用を後押しすることが期待されているが、OBRはそれでも消費者によるEV購入数を当初の予定のシェア目標を達成することは難しいと予測している。

この見通しの下方修正は、EVの市場にはまだまだ障壁が多数存在しており、政策のタイミング、充電インフラの展開スピード、燃料コストの不確実性などが複雑に絡み合っていることを示している。しかし、これはイギリスだけではなく他の先進国も同様のチャレンジだろう。相州連合(EU)や日本もまた、2035年までにガソリン車の新車販売禁止を決定しているが、はてさて、EV先進国として覇権を制するのはどこの国になるだろうか。

トップ画像:DALL-E-3によるAI作成画像、筆者加工

参考1:Economic and fiscal outlook / November 2023

https://obr.uk/docs/dlm_uploads/E03004355_November-Economic-and-Fiscal-Outlook_Web-Accessible.pdf

参考2:Outlook for UK electric vehicle registrations cut

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