国境を越えて学ぶラーニングデザイン

2023年11月13日
全体に公開

みなさん、こんにちは!

みなさんは、日本の少子高齢化の課題に取り組む上で何が大切だと思いますか?

内閣府が公表している「令和4年版高齢社会白書」(外部リンク/PDF)によると、2025年には国民の約3人に1人が65歳以上になると予測されています。また、総務省が公表した資料「我が国のこどもの数」(外部リンク/PDF)によると2023年4月1日時点での日本の総人口に占める子ども(15歳未満)の割合は11.5パーセントと、49年連続で低下しています。

誰もが人生の最期に「私は自分の人生を全うした」と感じられる豊かな社会が日本で実現できたら素敵ですよね。そのような社会を少子高齢化が進む日本でも実現するためには、国や企業は労働力の減少、医療・介護制度等の課題解決に向けたさまざまな取り組みが求められています。

しかし日本の少子高齢化の課題は、実は日本だけの問題ではありません。他国と協力することで、解決に導くことが可能なのです。その上で、国境を越えた学びのプロセスをデザインすることが欠かせないと私は考えています。私たち株式会社レアでも、北欧社会をヒントに共創型人材を育成する上で、国境を越えた学びを提供する場を設けています。

先日、ドイツのベルリンで開催された「日独ヤング・リーダーズ・フォーラム」に日本代表の一人として参加し「豊かな高齢社会のデザイン」をテーマに議論を深めました。クロスボーダーで異なる背景を持つ方々と議論を重ね、意見形成することは大変でしたが、国境を越えた学びの機会を持てたことは有意義でした。今回のトピックスでは、日独ヤング・リーダーズ・フォーラムと国境を越えて学ぶラーニングデザインについて、私の体験談をもとにご紹介します。

国境を越えたラーニングデザインの現場から

日独ヤング・リーダーズ・フォーラムは、次世代を担うヤング・リーダーズ(若手指導層)の関心を日独関係に惹きつけ、日独協力への参画を促すことを目的に、2006年に発足されたフォーラムです。両国から招待されたヤング・リーダーズたちが、政治・社会関連のトピックスについて共に議論し、協力活動を通じて相互理解を深め、お互いの多様性を活かしながら日独間の今後の協力を強化し活性化させることがこのフォーラムの目的です。

フォーラムの企画実施を担当するベルリン日独センターは非営利財団で、日独両国外務省・ベルリン州政府の支援を受けて運営されている。

2023年のプログラムには日本から7名、ドイツから7名ずつ選ばれたヤング・リーダーズが参加しました。10日間のプログラムでは、豊かな高齢社会のデザインをテーマに取り組み、多様な経験を共にしながら学びを深めるプログラムになっています。

フォーラム中はレクチャーや議論に留まりません。街歩きや先進事例に取り組む機関に訪れ、現場の人々との対話によって洞察を深めます。さらにグループワークを通して、日本とドイツの両国にとって重要な学びをまとめながら、相互理解を深めていきます。

筆者が作成した日独ヤング・リーダーズ・フォーラムの流れをまとめたもの

国境を越えて学ぶ意義とは

ところで、みなさんはわざわざ国境を越えて学ぶ意義とは、どんなところにあると思いますか?私はこれまで高校から社会人にかけて、カナダ、アメリカ、デンマーク、イギリス、南アフリカで学んだ経験を通して、主に以下の3つの意義があると感じています。

①   異文化理解と自己理解を深めることができる

②   既存の枠組みに囚われない新しい発想が生まれやすくなる

③   複雑な課題についても、課題の本質を探究する意識が芽生える

普段の暮らし方や働き方から、日本では常識だと考えていたことも、海外では全く異なる捉えられ方をされていることはありますよね。それによって自分の中のバイアスに気づき、新しい発想が生まれてくることもあります。複雑な課題であっても新しい発想をもって捉え直し探究する意識にも繋がりやすくなります。

今回私が日独センターのフォーラムをきっかけに一番印象に残った学びは、ドイツの歴史教育についてです。特に、町歩きや対話を通して、ドイツの歴史教育が教育システムを越えて社会全体のシステムに浸透していることに驚きました。

ドイツのベルリンでは町中に、ナチス時代の反省が至る所で示されています。例えば駅前の大きな看板に”決して忘れてはならない恐怖の地”として強制収容所のあった場所の名前が書かれていたり、路上の四角い真鍮板にかつてそこに居住していたユダヤ人の氏名などの情報が書かれているなど、町を歩く人が過去のドイツ人の行いを思い返す痕跡がたくさんあるのです。学校教育の中でも、歴史以外の科目でナチス時代ついて触れるなど、失敗を繰り返さないための教育が行われています。

(写真左)ベルリンのヴィッテンベルクプラッツ駅にある看板「決して忘れてはならない恐怖の地」には、強制収容所のあった場所が書かれている(写真右)1992年にケルン在住の彫刻家グンター・デムニッヒ氏により始まった「Stolpersteine(つまずきの石)」と呼ばれるプロジェクト。ハンブルクを中心に急速に発展し、ドイツ国内だけでなく多くのヨーロッパ諸国に広がり、世代を超えた意義を持つプロジェクトへと成長している。

私個人の経験ですが、日本ではどちらかというと戦争の被爆国として、被害者としての記憶を持つ人の方が、加害者としての記憶を持つ人よりも多いように感じています。普段からよほど意識的に勉強したり想像しない限り、加害者としての歴史を自ら語ることは難しいのではないでしょうか。

歴史教育そのものも、学校の中に閉じられたものではなく、町全体にその機会がデザインされていたとしたら、過去の反省について市民全体で思い返し、理想の未来について声を発する機会がもっと生まれるのではないでしょうか。

これはあくまで一例ですが、国境を越えて学ぶことで、こうして自分のバイアスに気づくことができ、より豊かな未来を創るための意識に繋がっていくと考えています。海外渡航が難しい状況にいる方には、社会人や大学生が国境を越えて学べる方法の一つとして、MOOCs(ムークス)というプラットフォームをおすすめしたいです。

以前から注目されているMOOCs(Massive Open Online Courses)は、世界中の名門大学や大企業を中心に、オンライン学習講座を提供している教育プラットフォームです。私自身もドイツから帰国後、MOOCsの1つであり、普及の先駆けともなった「edX(エデックス)」でスイスのチューリッヒ工科大学の授業を無料で受講しており、オンラインでも気軽に学べる機会を活用しています。

次回は、上記に挙げた日独ヤングリーダーズプログラムで私たちが議論をする上で大切にしてきた軸、すなわち「わたし」から始まる未来型学習について掘り下げたいと思います。

最後に、冒頭の問い(みなさんは、日本の少子高齢化の課題に取り組む上で何が大切だと思いますか?)についてもぜひコメントいただけると嬉しいです!

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