和食UNESCO記念特集:あなたの知らない食の無形文化遺産を探そう

2023年11月12日
全体に公開

東日本大震災から2年後の2013年12月4日、「和食;日本人の伝統的な食文化」が国際連合教育科学文化機関(UNESCO)の世界無形文化遺産として韓国のキムチとキムジャン文化とともに認定されたのはまだ皆さんの記憶に新しいと思います。独特の食文化が世界から注目されてから今年で10年を迎え、日本国内も文化庁と農水省の啓発活動が活発になってきました。和食は世界に誇るべき食事モデルでもあるので、このトピックスでも今回から年末まで和食にまつわる話をいくつか取り上げたいと思います。

食に関する無形文化遺産と聞くと、和食、地中海ダイエット、フランス美食、メキシコ料理、トルコ料理の5つを思い浮かべる人が多いと思います。実は2013年以降も多くの食に関する登録が実施されています。この記事では、あまり知られていない食の無形文化遺産についてすべて見ていきます。

UNESCO無形文化遺産ってなんでしょう? ホームページをのぞいてみるととても興味深いです。UNESCOの無形文化遺産は、人類の非物質的な文化的遺産を保護するための取り組みです。これには5つの分野が含まれるとのことです。

1.口承による伝統及び表現

2.芸能、社会的慣習

3.儀式及び祭礼行事

4.自然及び万物に関する知識及び慣習

5.伝統工芸技術

そして、選考基準には6つの独特な価値や歴史的意義、社会的・文化的重要性が含まれているようです。

1.人類の創造的才能

2.共同体の伝統

3.民族・共同体の体現

4.技巧の卓越性

5.文化の独特な証明

6.消滅の危険性

私は大学では薬学、医学を学んで仕事では栄養学、食品化学を学びました。そのため、食の役割でイメージするのが、まずは食の体と心の健康でした。しかし。最近、文化人類学や食哲学の本を読んでいるうちに、人類の食の果たす役割においてこの”健康“というキーワードごく一部に過ぎないことを知ることができました。

私たちは食について評価する際「栄養的に優れているか」「味が優れているか」というところに注目しがちです。しかし、食はそれ以外にもいくつもの機能や要素を持っています。文化人類学者のポール・フィールドハウス先生が著書「食と栄養の文化人類学」(中央法規出版)によると、食には20の役割があるとのことです。

「食と栄養の文化人類学」(中央法規出版)より転載

これらを5つの主要な役割に分けてみましょう。最初の2つは、すべての動物に共通した「栄養」と「機能性」、そして「味」にかかわるものです。これらは食の基本的な役割であり、❶体健康と➋心の健康に直接関わります。

残る3つ人類だけに特徴です。まず、❸社会的役割です。食は人間関係の媒体として機能し、家族やコミュニティの絆を深める手段となります。次に、❹文化の役割として、各地の郷土料理や行事・儀式における食事は、その地域の自然、歴史、宗教を反映した文化の一部があげられます。最後に、❺教育の役割があります。食卓は子どもたちが食に関する知識やマナーを学ぶ場となり、文化の継承に貢献します。

このように食に関わる、社会的慣習、伝統、行事、儀式、それらを支える知識や技術。これらを保護し伝えることで、その食が守り育まれてきた社会や文化そのものを保護し、次の世代へと伝えていく。これが「食の無形文化遺産」が求める事項のようです。

食のUNESCO無形文化遺産登録を調べてみる

UNESCOの無形文化遺産登録には、全世界にわたる676地域から140要素が対応しています。その中で、食を主体とする登録は約37件見られます。昨年までのデータによると、食を中心とした無形文化遺産の登録は47ヵ国に及んでいます。そして、そのうち7件が2ヵ国以上の複数の国からの共同申請となっています。

私たちに身近なお茶(緑茶やチャイ)、コーヒー(トルココーヒーやアラビカコーヒー)、キムチ(なんと韓国と北朝鮮がそれぞれ申請)、ワイン(世界最古のワイン生産グルジア)、ビール(ビール王国のベルギー)、ザクロやナツメなどまで登録されていて、少し驚きです。グローバルな広がりを視覚的に捉えるために、世界地図上でこれらの分布をまとめてみました。

食が主にかかわるUNESCO無形文化遺産の登録された国を緑色で示した。2022年までに、48か国で登録されている。筆者作成。

それでは、少し長くなりますが、2010年以降の食関係のUNESCO無形文化遺産登録を、ホームページをからピックアップしてまとめてみました。予想通り、全てが食の社会的文脈を重用した記載となっていることがわかります。健康文脈は表層ではみることができず、申請書までたどり着かないと見えてきませんでした。

食のユネスコ無形文化遺産登録(2010) 2件

1.フランス:フランス人の美食

生活の重要な瞬間を祝う社会的慣習で、共感、味覚の喜び、自然のバランスを重視しています。この習慣には、選び抜かれた料理とワインのペアリング、テーブルセッティング、特定の食事行動が含まれ、少なくとも4つの連続したコースがあります。ガストロノームと呼ばれる個人が伝統を保持し、世代間で伝えています。

2.メキシコ:伝統的なメキシコ料理 - 先祖代々受け継がれてきたコミュニティ文化、ミチョアカンのパラダイム

農業、儀式、技術、マナーを含む包括的な文化モデルで、トウモロコシ、豆、唐辛子を基にした食材、ユニークな農法と調理プロセス、地元成分を使用。日常食と儀式用食事を含むこの料理は、メキシコのアイデンティティと社会的絆を強化し、ミチョアカンでは持続可能な開発の手段とされています。

UNESCO無形文化遺産の第一号はフランス人の美食でした。  UnsplashのCarla Martinesiが撮影

食のユネスコ無形文化遺産(2011) 1件

1.トルコ:儀式的なケシュケクの伝統

いわゆる麦がゆの文化で、結婚式や宗教行事で用意されるトルコの伝統料理。男女が協力して小麦と肉を巨大な釜で調理し、儀式や音楽伴奏で祝う。調理には一晩かかり、料理にまつわる多くの儀式や伝統が含まれる。近隣の町や村が参加し、料理は熟練した料理人から弟子へ伝えられている。

食のユネスコ無形文化遺産(2013) 5件

1.キプロス、クロアチア、スペイン、ギリシャ、イタリア、モロッコ、ポルトガル(7ヵ国):地中海ダイエット

地中海沿岸の文化的アイデンティティに根ざした食習慣。作物や漁業から食事の共有まで、一連のスキルと伝統を含む。食事は社会的な交流とコミュニティのアイデンティティの象徴であり、女性はその知識の伝承者です。市場はこのライフスタイルの交流と継承の重要な場所として機能します。

2.トルコ:トルココーヒーの文化と伝統

 いわゆるコーヒーハウスの食文化です。細かく挽いたコーヒー豆を使用し、泡立ててゆっくり淹れるトルココーヒーは、コーヒーハウスでの社交や会話、おもてなしのシンボルです。家族や非公式の場で技術や儀式が伝えられ、空のカップで運勢占いも行われます。トルコの文化遺産の一部であり、文学や歌、重要な社会行事に欠かせません。

3.グルジア:古代グルジアの伝統的なクヴェヴリのワイン造り方法

  世界最古の歴史を誇るワイン造りです。クヴェヴリ(卵型の陶器)を使用し、ブドウの圧搾物を数ヶ月間地下で発酵させて造るグルジアの伝統的なワイン造り。この技術は家族や地域コミュニティを通じて伝承され、日常生活や様々な儀式で中心的な役割を果たし、グルジアの文化的アイデンティティと密接に結びついています。

4.日本:和食、日本人の伝統的な食文化、特に新年のお祝いのために

 和食は、天然資源の持続可能な利用と自然尊重の精神に基づく食品の生産、加工、調理の一連のスキルと伝統です。新年のお祝いには特別な食事や料理の準備があり、家族やコミュニティで共有されます。これらの慣習は、地元の食材を活用し、家庭で料理の知識と技術を受け継ぎます。地域グループや教育者も、和食の知識とスキルの伝承に貢献しています。

5.韓国:キムジャン、韓国でキムチを作り、共有する

キムチは韓国料理の本質的な部分で、キムジャンは家族の協力を強化し、自然との調和を思い起こさせる文化的行事です。毎年のサイクルに従い、魚介類の調達や赤唐辛子の準備が行われ、晩秋にはコミュニティが一斉にキムチを作って分け合います。この慣習では技術やアイデアが共有され、地域ごとの特有の方法と成分は世代を超えて伝承されます。

2013年は食のUNESCO無形文化遺産登録は5件あった。 Unsplashのbady abbasが撮影

食のユネスコ無形文化遺産(2014) 1件

1.アルメニア:ラヴァシュ、アルメニアの文化表現としての伝統的なパンの準備、意味、外観

 アルメニアの伝統的な薄いパンで、特殊なオーブンで焼かれます。ラヴァッシュ作りは女性が中心で、技術と経験が要求され、地元の食材を巻いて食べることが多いです。結婚式では儀式的な役割を果たし、コミュニティ内での伝承と絆の強化にも寄与しています。

食のユネスコ無形文化遺産(2015) 4件

1.サウジアラビア、アラブ首長国連邦、オマーン、カタール(4ヶ国):寛大さの象徴であるアラビアコーヒー

  アラビアコーヒーを提供することは、アラブ社会におけるおもてなしの重要な側面であり、寛大さの儀式行為と見なされています。豆の選択から手作りで行われ、特に重要なゲストに最初に提供されます。この習慣は家庭内で伝承され、コミュニティの様々な層によって行われ、楽しまれています。

2.北朝鮮:朝鮮民主主義人民共和国におけるキムチ作りの伝統

 キムチは、さまざまな野菜や野生の食用野菜をスパイス、果物、肉、魚、発酵魚介類で味付けし、乳酸発酵させた野菜料理です。地域や家庭によって異なるレシピがありますが、全国的に共通しています。主に家族や地域コミュニティ間で伝承され、大量のキムチを作るキムジャンは、協力と社会的結束を促進します。

3.ベルギー:ベルギーのビール文化

 ビールを造り、味わうことは、ベルギー全土のさまざまなコミュニティの生きた遺産の一部です。ベルギーでは約1,500種類のビールが生産され、日常生活や祝事に欠かせない文化です。地域やトラピストのコミュニティによる特定のビールの製造があり、料理やチーズ作りにも使用されます。持続可能性への取り組みとして、環境に優しい包装や水使用量の削減が進められています。ビールに関する知識と技術は家庭、醸造所の講習会、専門大学コース、アマチュアブルワー向けのプログラムを通じて伝承されます。

4.ナミビア:オシトゥティ・ショマゴンゴ、マルラ・フルーツ・フェスティバル

 オシトゥティ・ショマゴンゴは、3月から4月にかけて2〜3日間続くお祭りで、ナミビア北部の8つのアワンボ・コミュニティが、マルラの実から作られた飲み物であるオマゴンゴを消費することで団結します。男性は木製の器具を、女性はジュースを抽出・発酵させる器具を作り、家族やコミュニティは伝統知識を共有します。祭りではオマゴンゴと伝統的な料理が提供され、歌やダンス、歴史の朗読を通じて社交が行われます。

キムチづくりは、韓国と北朝鮮からそれぞれ申請されている。キムチだけで3件のUNESCO無形文化遺産登録がなされている。  UnsplashのPortuguese Gravityが撮影

食のユネスコ無形文化遺産(2016) 4件

1.ハイチ:ジョウモウスープ

 ジョウモウスープは、野菜、オオバコ、肉、パスタ、スパイスで作られた伝統的なハイチのカボチャのスープです。ハイチ独立の象徴であり、コミュニティ間の結束を強化する役割を果たしています。独立前は奴隷所有者用でしたが、独立後は自由と尊厳の表現に変わりました。毎年正月の独立記念日に特別に調理され、コミュニティが協力して材料調達から調理までを行います。

2.アゼルバイジャン、イラン、カザフスタン、キルギズ、トルコ(5ヵ国): フラットブレッド作りと共有文化:ラヴァシュ、カティルマ、ジュプカ、ユフカ

 これらの国のコミュニティで実践されるフラットブレッド作りの文化は、結婚式や葬式などの特別な機会にも行われ、文化的なルーツと共同体意識を強化します。パン作りには3人以上が関与し、異なる役割を担います。

3.タジキスタン:タジキスタンの伝統的な食事とその社会的・文化的背景であるオシ・パラブ

 オシパラブ(ピラフ)は、タジキスタンのコミュニティの伝統的な料理で、文化遺産の一部として認識されています。「食事の王様」とも呼ばれ、野菜、米、肉、スパイスを使ったレシピに基づいていますが、最大200種類の料理が存在します。「No Osh, no knowtyance」などのことわざがこの重要性を反映しています。料理の技術は家庭内や職人から弟子へ伝えられ、見習いがオシ・パラブをマスターすると独立の象徴としてスキマーを受け取ります。

4.ウズベキスタン:パロフの文化と伝統

 パロフはウズベキスタンの伝統的な料理で、特別な機会や日常の食事に供されます。米、肉、野菜、香辛料を使います。ゲストがホストの家を離れる前に供される習慣があります。料理は社会的なつながりを強め、コミュニティの文化的アイデンティティの形成に貢献します。調理技術は公式・非公式に年長者から若い世代へ受け継がれます。

食のユネスコ無形文化遺産(2017) 3件

1.マラウイ:ンシマ、マラウイの料理の伝統

  ンシマはマラウイの伝統的なトウモロコシ粉のお粥です。これは特定の知識を必要とする複雑な調理プロセスを経て作られ、食事のマナーや共同体の絆を強める役割を果たします。トウモロコシの栽培から調理までが生活様式と結びついており、知識は非公式に大人から子供へ伝えられます。ンシマはマラウイの多くのレストランでも提供され、フェスティバルや教材でその文化が継承されています。

2.イタリア:ナポリの芸術「ピッツァイウオーロ」

 ナポリ発祥の「ピッツァイウオーロ」の芸術は、生地作りと薪オーブンでのベーキングを含む料理実践です。ピッツァイウオリは社会的交流を促進し、ナポリの文化を象徴します。技術は専門アカデミーや家庭、そして「ボッテガ」(工房)でマスターから見習いへ伝えられ、ナポリのピッツァイウオリ協会がその継続をサポートしています。

3.アゼルバイジャン:ドルマは伝統を作り、共有し、文化的アイデンティティのマーカー

 ゼルバイジャンのドルマ伝統は、さまざまな具を葉や果物、野菜で包んだ料理の準備技術と知識を含みます。この料理は家族やコミュニティで共有され、文化的アイデンティティの象徴です。アゼルバイジャン全土で認識され、世代を超えて継承され、主に女性によって伝えられます。正式な継承は職業訓練学校で行われ、フェスティバルや出版物を通じて伝統が保持されています。

ピザ、パン、お茶、ワイン、ビールなどなど、私たちの身の回りの食べ物にかからる伝統もUNESCO無形文化遺産に登録されている。   Unsplashのlasse bergqvistが撮影

食のユネスコ無形文化遺産(2020) 4件

1.パラグアイ:パラグアイのPohã Ñana、Guaraníの先祖代々の飲み物の文化におけるTerereの実践と伝統的な知識

  Pohã Ñanaでは、テレレというグアラニー族の伝統的な冷たい飲み物が広く普及しています。テレレは、水差しや魔法瓶で作り、ポハンニャーナというハーブと冷水を混ぜたもので、特製のストローを使用して飲みます。この飲み物は16世紀からパラグアイで親しまれ、その準備方法やハーブの治癒特性は家族間で伝承されています。テレレの習慣は社会的結束を促進し、グアラニー族の豊かな文化遺産に新しい世代をつなげています。

2.アルジェリア、モーリタニア、モロッコ、チュニジア(4ヶ国):クスクスの生産と消費に関する知識、ノウハウ、実践

 クスクスの生産と消費に関わる知識と実践には、種を育て、粉砕し、セモリナ粉を手で転がし、蒸してから調理する一連の儀式的なプロセスが含まれます。この料理には地域や季節に応じてさまざまな具材が用いられ、伝統的な調理器具が活用されます。クスクス作りのノウハウは主に非公式な学習により伝えられ、食事の共有や社会的絆の強化に重要な役割を果たしています。

3.マルタ:Il-Ftira、マルタの平らなサワードウブレッドの料理芸術と文化

 マルタのイルフティラは、厚い地殻と軽い内部を持つ平らなサワードウブレッドで、地中海の具材を挟んで食べます。この独特なパンは、手作業で形作られ、マルタ文化と異文化の交流の歴史を反映しています。フティラの作り方は家庭やソーシャルメディアを通じて伝えられ、マルタの共通のアイデンティティを形成し、コミュニティを結びつけています。

4.アゼルバイジャン:ナール・バイラミ、伝統的なザクロの祭りと文化

  毎年10月と11月に開催されるザクロのお祭りです。ザクロ文化は農業や工芸に深く根ざし、長い伝統を持つ社会的・文化的象徴です。この祭りは、コミュニティと訪問者の間で活発な交流を促し、地元の自然と文化を強調します。

食のユネスコ無形文化遺産(2021) 3件

1.ケニア:ケニアにおける伝統食の普及と伝統食の保護のサクセスストーリー

 ケニアで、伝統的な食文化を脅かす歴史的要因と現代的圧力に対抗するため、850のイニシアチブが開始されました。これには、在来野菜の目録作成、食品の使用と関連知識の文書化、伝統的な食道のプロモーションが含まれます。ユネスコは教育プログラムを通じて意識を高め、これらの取り組みは地域機関の活動につながり、他国でも類似のプロジェクトが開始されました。

2.セネガル:Ceebu Jën、セネガルの料理芸術

 Ceebu jënはセネガル、サンルイ島の漁村発祥の料理で、魚のステーキと季節の野菜を使います。レシピと調理技術は母から娘へ伝えられ、食文化はセネガル人のアイデンティティに深く根ざしています。食事には特定の文化的慣習が伴い、通常は手で食べられます。

3.イタリア:イタリアのトリュフ狩猟と抽出、伝統的な知識と実践

 イタリアのトリュフ狩りと抽出は何世紀もの間、口頭で伝えられてきた伝統的な知識と実践です。トリュフハンターは特別なスペードと訓練された犬を使用し、自然を尊重しながらトリュフを抽出します。この狩猟には、自然生態系と犬との関係に関する広範な知識が含まれ、地元の文化的アイデンティティとコミュニティ内の連帯感を反映しています。

世界三大珍味の中でトリュフだけがUNESCO無形文化遺産に登録されている。  UnsplashのAndrea Caironeが撮影

食のユネスコ無形文化遺産(2022) 10件

1.中国:中国における伝統的な茶加工技術とそれに伴う社会的慣習

 中国の伝統的な茶加工技術とそれに伴う社会的慣習は、茶園管理、手作業による茶葉加工、茶の共有に関する広範な知識とスキルを包含しています。これらの技術は中国の日常生活に深く根ざし、社交や儀式の重要な部分を形成しています。知識と技術は家族や見習いを通じて伝えられ、お茶の生産者や芸術家を含む多くの担い手がいます。

2.サウジアラビア:ハウラニコーヒー豆の栽培に関する知識と実践 

サウジアラビアのカウラニコーヒー豆栽培は、種をメッシュバッグに植え、日陰で300~<>か月保管後、段々畑で育成されます。数年で実る豆は手作業で収穫・乾燥され、石臼で豆を外殻から分離します。この伝統は、コミュニティの社会的結束とアイデンティティを強化し、農家間で知識と技術が共有されます。

3.トルコ、アジェルバイジャン(2ヵ国):アイデンティティ、おもてなし、社会的交流の象徴であるチャイ(お茶)の文化

 トルコとアゼルバイジャンの茶文化は、おもてなしと社会的交流の象徴です。主に紅茶を消費し、伝統的な釜で淹れ、様々なカップで提供されます。時には地元のスパイスやハーブが加えられ、文化的アイデンティティを反映しています。茶農家、収穫者、茶室の主人などが文化を支えています。

4.ヨルダン:ヨルダンのアル・マンサフ、お祝いの宴会とその社会的・文化的意味

 アル・マンサフは、アイデンティティと社会的結束のシンボルで、羊肉とヨーグルトソースを使った料理です。料理過程は社交的なイベントであり、家族や友人が集まり、伝統に従って右手で食べます。女性は調理技術と習慣を次世代に伝承し、料理学校や大学もその保存に貢献しています。

5.アラブ首長国連邦、バーレーン、エジプト、イラク、ヨルダン、クエート、モーリタニア、モロッコ、オマーン、パレスチナ、カタール、サウジアラビア、スーダン、チュニジア、イエメン(15ヵ国):ナツメヤシ、知識、技術、伝統、慣習

 ナツメヤシの知識、技術、伝統、慣習ナツメヤシは砂漠や乾燥地帯の常緑樹で、灌漑適地のオアシスで育ちます。アラブ地域ではナツメヤシが文化遺産として何世代にもわたって受け継がれており、地域社会の栄養源や伝統工芸に重要な役割を果たしています。ナツメヤシの栽培は地域経済にも貢献しています。

6.チュニジア:ハリッサ、知識、スキル、料理と社会的慣行

 唐辛子ペーストで作られた調味料であるハリッサは、チュニジア社会の家庭料理と日常の料理と食の伝統の不可欠な部分です。唐辛子を天日干しした後み粉砕し、塩、ニンニク、コリアンダーで味付けされます。ハリッサは、その後の使用のためにガラスや陶器に保管されます。唐辛子の栽培に関する知識と技術は、農家のコミュニティ内や農学学校や研究所を通じて受け継がれています。

7.キューバ:ライトラムマスターの知識

 1862年にサンティアゴデクーバで誕生したキューバのライトラムは、ライトラムマスターの伝統的、科学的、感覚的知識を通じて製造されます。彼らはエコカルチャーを重視し、老朽化したセラーを保護しながら、各樽の特性や混合物を知る専門知識を持ちます。この知識は世代間で伝承され、ラム酒文化の保護と責任ある消費を推進します。

8.北朝鮮:平壌レンミョンカスタム

 平壌レンミョン(蕎麦を主原料とする冷麺)は、北朝鮮の社会的・文化的慣習的な料理です。真鍮のボウルに盛られた麺は、肉、キムチ、野菜、果物でトッピングされ、特別なイベントや祝祭で振る舞われます。この料理は長寿や幸福を象徴し、家庭内での技術や知識の伝承が重視されています。レストランやイベントを通じて広く普及しています。

9.イラン、アフガニスタン(2ヵ国):ヤルダー/チェラ

 イランとアフガニスタンの伝統祭典ヤルダー/チェラは、イランとアファニスタンで秋の最後の夜に行われる伝統的な祭典です。家族は長老の家に集まり、ランプ、水、赤い果物(ザクロ、スイカなど)を飾ったテーブルを囲み、スープ、お菓子、ドライフルーツ、ナッツを楽しみます。詩の朗読、ゲーム、音楽、贈り物の交換などの活動が行われ、文化的アイデンティティ、自然、女性の尊重などを祝います。このイベントは家庭、メディア、教育機関などを通じて伝承されています。

10.ウクライナ:ウクライナのボルシチ料理の文化

 ウクライナのボルシチ料理文化は、2022年7月1日にユネスコに登録されました。ボルシチはビートルートやテンサイを使った伝統スープで、多様なレシピと調理法があります。通常、女性が調理しますが、男性も日常的に作ります。ボルシチは家族間で受け継がれ、子供たちも準備に参加します。この料理はウクライナ文化の象徴で、様々な地域の伝統やアイデンティティを反映しています。しかし、武力紛争や周辺環境の破壊により、ボルシチの伝統が脅かされています。それでも、ウクライナのコミュニティは困難にもかかわらずこの文化を守り続けています。

ウクライナの郷土料理ボルシチは2022年に緊急承認された。  UnsplashのRasmus Gundorff Sæderupが撮影

食のユネスコ無形文化遺産(2023) 検討リスト3件

1.レバノン:レバノンの象徴的な料理の実践であるAl-Man'ouché

 アル・マヌーシェは、レバノン全土で作られるタイムのフラットブレッドで、朝食やランチタイムの前菜として人気です。チーズ、肉、ほうれん草を詰めたムアジャナと一緒に食べられることもあります。レバノンのディアスポラによって世界中に広まり、マシュレクと湾岸のアラブ諸国でも広く作られています。レバノンの象徴としてのアル・マヌーシェは、小さなパン屋で特に重視されます。

2.ペルー:ペルーの伝統料理の表現であるセビーチェの準備と消費に関連する実践と意味

 ペルー全土で愛されるセビーチェは、特に太平洋岸の都市や町で人気です。沿岸地域、アンデス地域、アマゾン地域ごとに独自の特徴を持ち、文化的アイデンティティの強化、多様性の認識、持続可能な資源利用、栄養価の認識などの価値を持っています。

3.アラブ首長国連邦、サウジアラビア、オマーン(3ヵ国):ハリーズ料理:ノウハウ、スキル、実践  

 ハリーズは湾岸アラブ諸国で人気のある伝統料理で、世代を超えて愛されています。オマーンでは全県で普及しており、小麦などの必須原料の生産が盛んです。サウジアラビアでは特にアル・アサー県やホフーフ、ムバラズなどで人気があり、最高品質の穀物を使用します。UAEでは全土で普及し、特に北部首長国、アル・ダフラ、アル・アインの地域で広く食べられており、伝統的な食事としての地位を保っています。

2024年度の検討予定リスト

なお、2024年リストに掲載されているものには下記があります。

1.ブラジル:ミナスジェライス州で職人のミナスチーズを作る伝統的な方法

2.キューバ、ドミニカ共和国、ハイチ、ホンジュラス、ベネズエラ:キャッサバパンの精緻化と消費に関する伝統的な知識と実践

3.日本:日本の麹菌を使った酒造りの伝統的な知識と技術

4.マレーシアの朝食文化:多民族社会での食事体験

5.韓国:大韓民国におけるジャン作りに関する知識、信念、実践

6.タイ:トムユム・クン

7.オマーン、カタール、サウジアラビア、ヨルダン:アラビアコーヒー、寛大さの象徴

8.スペイン:アストゥリアスのサイダー文化

UnsplashのAlyson McPheeが撮影  

食のUNESCO無形文化遺産が私たちに教えてくれること

以上、食にかかわる世界の無形文化遺産登録を見てきました。

コロナ渦を経て食の領域に関する登録に向けた動きが広がっています。現在、食文化の乱れによる不健康な食事の蔓延、そして肥満問題に代表される健康悪化への懸念が広がっています。

太平洋諸国の国々では食糧自給率の激減と食の乱れによる肥満が急増しています。そして多くの専門家は、安易に、海外からの輸入に頼ることになれた国民がもはや、農業そのもの、そして料理のリテラシー・技術そのものを軽視し、もはや自立して食を営んでいた時代に戻れなくなる危険性を指摘しています。ヒトはどうしても、楽なもの、便利なものに飛びつく習性がありますが、これは強靭性(レジリエンス)の低下の大きな要因の一つです。これを書いている私自身も、裏庭で自分が食べるに十分な作物を育てる農業的知識も技術も持っていませんし、取れた作物を使って毎日料理をする、なんてことはほぼ不可能です。

私たちの身の回りにある殆どすべてのものは、人ひとりでは作ることのできないものばかりです。それらは最近200年内の科学技術の発展の恩恵にあずかった巨大な資本による工場の高度な技術により生産されてものです、

一方、UNESCO無形文化遺産に登録された食にかかわる文化の知識、技術は数千年の人類の歴史の中で、人が人として幸せに生きていくためにはるかに長い時をかけて培われたものだと言えます。そこには、大きな工場は必要ありません。人が中心となる世界で、これらの伝統的価値を守っていくこ重要性を改めて感じます。

次回からは和食の価値を自然科学、社会科学、哲学の観点から考察します。次回をお楽しみに。

食のUNESCO無形文化遺産は私たちの食の知恵が消えてしまわないように維持してくれる貴重な取り組みです。

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