イギリスで急増するEVチャージステーション

2023年9月26日
全体に公開

イギリスの道路上に急速に増加している電気自動車(EV)の人気は、国内全体でEVチャージステーションの需要を急増させている。EVチャージステーションの検索サービスを提供するZap-mapによれば、2023年8月時点で、その数はイギリス国内で約50,000カ所を数えており、その増加率は対前年同月比で42%も上昇した。今回のトピックスでは、イギリスでのEVチャージングインフラの成長について詳しく探ってみたい。

背景にはULEZ

SKY NEWSより転載 (https://news.sky.com/story/vehicle-emission-zones-including-ulez-have-made-418m-across-england-since-2021-figures-show-12945825)

イギリスのみならず、ヨーロッパでは、電気自動車の普及率が爆発的に上昇している。この背景は様々あるが、殊にイギリスに関しては、政府主導によるところが大きい。イギリス政府は、エネルギー問題の観点から、持続可能な交通手段の促進を図るために、早い段階から多額の資金を充電インフラの整備に投じてきた。充電ステーションの設置をサポートする補助金プログラムや税制優遇策の政府の支援策が新たな充電ポイントの設置を刺激している。そして、その根底にある方策がULEZ (Ultra Low Emission Zone)である。イギリスの首都ロンドンでは、大気汚染の予防策の一環として、このULEZという規制地域が設けられており、これは、ロンドン中心部はもとより、ロンドン首都圏内の対象エリアを、排出ガスの基準に満たない車両が通行すると、その実態上所有者に対して、都度通行料金を求めるというものである。気になる通行料金だが、ULEZ内では、通行する度に1日12.50ポンド(約2000円)の料金を徴収される(ただし、エリア内に駐車され、24時間運転していない場合は免除)。この料金は今後も改定され、上昇することが見込まれる。この施策自体は、2019年に導入されたものだが、今年8月に、ロンドン全域にエリアが拡大された。

ちなみに、従来のロンドンには、コンジェスチョンチャージという、ロンドン市内の渋滞を緩和させるために施行されている通行料金の制度が別にある。この渋滞税は、クリスマスを除いて毎日午前7時から午後10時の間に適用されるもので、通行する度に、1日15ポンド(約2500円)を支払わなければならない。つまり、低排出基準に満たない車両の実態上所有者が、ロンドン市内を通行すると、コンジェスチョンチャージに加えてULEZ料金を払わなければならず、毎回27.5ポンド(約4500円)を払うことになるわけである。このULEZは、今後は、ロンドンだけでなく、バーミンガム、エディンバラ、マンチェスター、オックスフォードなど、国内の他の都市への実施も予定されている。ちなみに、どのように通行車両を管理しているのか、という疑問を持つ方もいるだろう。その点は、イギリスの国中に張り巡らされたCCTV(監視カメラ)が、それぞれの車両の通行をしっかり目を光らせているので、車両のナンバープレートを違法に改造しない限り、この通行料金の支払いを逃れる術はないと言える。

このULEZの方策が早期に発表されてから、電気自動車の普及がイギリスでは加速し、反面、ガソリン車やディーゼル車の需要が激減している。中古車市場でも、それは同様であり、いくら車両を安く購入できたとしても、指定の輩出ガス規制に適合していない車両は維持費が莫大にかかるため、敬遠されるようになった。

EVチャージステーション需要の爆発的増加

DOLL-EによるAI作成画像。筆者加工。

EVチャージステーションの急増の背景は、前述のとおり、ULEZの施行により、消費者の嗜好が電気自動車へ傾倒したことが大きい。これにより電気自動車への乗り換え率が上昇し、市場はより環境にやさしい車両を求めるようになった。そして、EVチャージステーションの需要が急増し始めた、という流れにあるわけだが、その数は、今後見込まれる需要の増加数を満たすにはまだまだ足りず、これら充電インフラの整備が急務とされている次第だ。そのため、イギリス国内では、これらのEVチャージステーションを手掛けるスタートアップも増加の一途を辿っており、イギリス国産ベンダーであるSource London, Believ, BP Pulseだけでなく、自動車産業を主産業とするドイツ系ベンダーのPod PointやHeyCharge、エネルギー最大手Shell傘下のフランスのUbitricityなど,多くのEVチャージングテクノロジープロバイダーが参入してきている。

充電ネットワークと新技術の普及

DOLL-EによるAI作成画像。筆者加工。

これらのさまざまなEVチャージステーションは、ガソリンスタンドや道路脇は勿論、ショッピングセンター、ホテル、ひいては、Zap-homeという個人宅の電源を一般開放するサービスなども普及し始めており、多くの場所で利用可能になってきている。また、テクノロジーの進歩により、EVチャージステーションに使われる充電速度も向上しており、そのユーザーエクスペリエンスも向上している。これらの多くのEV充電ステーションは、スマートフォンアプリを通じてリアルタイムの充電ステータスを提供し、ユーザーに便益をもたらしている。イギリスのみならず、ヨーロッパないし世界中で、これらEVを取り巻く市場の急速な成長は今後も継続すると考えられるだろう。しかしながら、現段階では、EV関連の充電インフラの整備は、そのペースに追いつききれていないと言える。さらに、EVをベースとした自動運転技術の実装も日を追うごとに実現しており、今後は、政府のみならず、国内外の自動車関連メーカーや、エネルギー企業など、さまざまなステークホルダーが、垣根を越えて協業していく必要性もでてくるだろう。その結果、EVチャージステーションを含めた充電インフラの拡充はこれまで以上に期待され、クリーンでエコフレンドリーな移動がますます一般的になる世の中が、もうそこまでやってきている。

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