EC向けB2BサービスでNO.1の「Klaviyo」がIPOへ
SaaS業界でも2021年のSamsara、HashiCorp以来となる、IPOがいよいよ行われます。
マーケティング自動化サービスを展開する、米「Klaviyo(クラビヨ)」がニューヨーク証券取引所への上場に向けて、8月25日に目論見書(Form S-1)を提出しました。
9月中にもティッカーシンボル「KVYO」で上場する見込みです。
日本ではKlaviyoの知名度はあまり高くないかもしれませんが、EC業界向けのB2BサービスではNO.1企業です。
☕️coffee break
Klaviyoは、2012年にApplied Predictive Technologies(2015年にマスターカードが買収したビジネス分析ソフトウェア企業)でリードエンジニアとプリンシパルを務めていた2人によって、設立されました。
当時、大手小売企業のデータ分析の支援をしていたところ、多くの企業ではあらゆるところにデータが分散していることで、データを活用したユーザー体験やマーケティングのパーソナライズができていないことに気づきました。
そこでファーストパーティーデータ(自社で入手した顧客データ)の収集・統合・管理のデータベースを開発したことが始まりです。
そのデータ基盤をもとに、eメールやSMSメッセージをパーソナライズできるアプリケーションを開発するなど、顧客データを活用したオールインワンのマーケティングツールへと拡大してきました。
しかも創業から5年間はアンドリュー・ビアレッキCEO(Applied Predictive Technologiesのリードエンジニア出身)が自ら1行1行コードを書いていたというから驚きです。
eメールマーケティング市場では、MailChimp(2021年にIntuitが買収)、Adobe、Salesforceまで大手企業を中心に数多くのプレイヤーが存在します。
そんな中で、Klaviyoは早期からEC事業を展開する中小企業・スタートアップに特化してきたことが、成功につながったわけです。
Klaviyoの収益成長推移
2022年の業績は以下のようになっています。
- 収益:前年比+62%の4億7274万ドル(約691億円)
- 営業損失:前年から2420万ドル改善→5503万ドル(約80億円)
そして、2023年上半期には高い成長を遂げながら、黒字化を実現しました。
- 収益:前年同期比+54%の3億2067万ドル(約468億円)
- 営業利益:前年同期は営業損失2529万円→791万ドル(約11億円)
- ARR(年間経常収益):前年比+57%の5億8500万ドル(約855億円)
しかも驚くべきことは、創業以来4億5,480万ドルの資金調達をしてきたものの、2023年6月30日までに事業運営に投じた金額はわずか1500万ドルであること。
資本効率が非常に高く、4億3,980万ドルは手元に現金として保有しているとのこと。
こうした経営が評価され、2021年5月の資金調達時には95億ドル(約1.3兆円)もの評価額がつきました。
ただし、現在は市場が適正化され、類似企業のHubSpotは売上の約13.5倍、Brazeは売上の約9.4倍の企業価値しかついていません。
それを踏まえると、Klaviyoの企業価値は95億ドル(約1.3兆円)→50億ドル(約7300億円)ちょっとにまで、企業価値が下がる可能性が高いでしょう。
🍪もっとくわしく
このKlaviyoの高成長につながっているのは、EC構築プラットフォーム「Shopify(ショッピファイ)」の存在です。
Shopifyを活用しているEC事業者であれば、アプリストアでKlaviyoアプリをインストールするだけで、すぐにKlaviyoのマーケティング自動化ツールを利用することができます。
そのため、2022年のARR(年間経常収益)のうち、実に77.5%がShopifyプラットフォームを利用する顧客によるものなんです。
これはKlaviyoが2019年から約3年間Shopifyユーザーをほぼ独占的に獲得することができたからです。
2019年に競合のMailchimpがShopifyとデータの利用をめぐって、いざこざが発生し、ShopifyのアプリストアからMaichimpのアプリが削除されて、利用できなくなりました。
2021年に再びShopify上でMailchimpも利用できるようになったものの、この頃にはEC事業者にとってKlaviyoの方が不可欠なツールになっていたわけです。
そして、2022年にはさらに連携を強化すべく、ShopifyがKlaviyoに1億ドルを投資。現在では株式11.2%を保有する主要株主となっています。
🍫ちなみに
昨年末時点では顧客の95%以上がEC事業者となっています。
コロナ禍ではECブームだったことで事業者もKlaviyoの導入に積極的でした。
しかし、ブームが落ち着いた上、ソフトバンク・ビジョン・ファンド投資先の「Attentive」が台頭してきたことなどから、競争が激化しています。
そのため、直近1年半の成長を牽引した大部分は新規顧客ではなく、既存顧客の単価上昇や料金改定によるものでした。
そこで、直近はECだけでなく、教育・イベント・レストラン・旅行など、幅広くの業界や中堅企業や大手企業も顧客にすべく、戦略転換し始めています。
ここで鍵となるのが、AI/機械学習です。
データ基盤の上に構築されたアプリケーション(メール・SMSのパーソナライズ通知)にデータサイエンス・予測分析機能を組み込んで垂直統合ソリューションへと進化させました。
Klaviyoプラットフォーム
これにより、消費者の注文データをもとに次回注文日を予測して、最適なタイミングでメールやプッシュ通知を送ったり、顧客の解約リスクの算出ができるようになったわけです。
Shopifyユーザーに特化した一本足打法での経営をしてきたKlaviyoがさらなる成長に向けて、新たな業界や顧客層をどのように獲得していくのかには要注目です。
サムネイル画像:Klaviyo Form S-1
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