「深海」探検:心に潜む謎めく夢の捉え方

2023年7月20日
全体に公開

東京−ロンドン間を行き来する夜間の飛行機の中で、毎回必ず聴いている楽曲の中に、Mr. Childrenの『深海』(1996)があります。リリースされた当時に思春期だった私の心のモヤモヤを想起させるには十分過ぎるダークな彩りを纏っているこの曲は、幻想的なイントロとともにその歌詞によって、心の奥深くにある何かを、(深海ではないのですが)遥か上空の暗闇で考えるのにうってつけの機会を与えてくれます。

私が身を置いている「精神分析」という領域では、子どもに心理療法を行うという支援にたどり着く前に、フロイトが大人の患者さん(心理学の分野では来談者という意味でクライエントと呼ぶことが多いです)を診ながら、精神分析の技法を開発、拡充していきました。彼は心の問題や疾患を抱える様々なクライエントを診ていたのですが、治療の手段として着目したのは「夢」でした。寝ている間に見るあの「夢」です。起きている間には表現できなかったり、伝えられなかったりして、心の奥底に押さえ込んだ想い(「抑圧」と言います)が、身体の症状になったり、「心のしんどさ」につながったりしているので、それを「夢」という表現を通じて解放してあげることで症状がなくなったり気持ちが楽になったりする、と彼は考えたんですね。心の中にある無意識は目に見えないので、よく「深いもの」「深海」「井戸」「潜っていく場所」などに喩えられるように思います。今回は、その深い場所、無意識の領域から作り出される「夢」についてお話ししていきます。

Unsplash:Sarah Leeが撮影

夢と無意識

皆さんはよく夢を見ますか?夢には不思議な魅力がありますよね。「何であんな夢を見たんだろう?」「あれってどんな意味だったのかな?」などと思うこともあるかもしれません。フロイト「夢は無意識への王道である」と言っています。つまり、無意識や心の奥で考えていることを知るために「夢」が役に立つと考えたわけです。ちなみに、現在の科学では、夢はレム睡眠の時に見ていて、夢を通じて記憶の整理をしているという考え方が通説のようです。彼は夢を「顕在内容」「潜在内容」に区別しました。前者はクライエントが覚えていて報告する夢であり、後者は、治療者(心理学の分野では、カウンセラーやセラピストと呼ぶことが多いです)との間で、クライエントがその「顕在内容」から連想する事柄やエピソードと照らし合わせながら確認を行う作業を通じて、明らかになる深層の内容を指しています。なので、巷で流行っているような、たとえば「夢で見るライオンは○○という意味を表している」といった、夢占いのようなものとは一線を画しており、一問一答式の理解はしません。

Unsplash:Jr Korpaが撮影

夢の作業

くわえてフロイトは、「夢」を見る際には「検閲」が働き、「妥協産物」として偽装されて表現されたものが「顕在内容」だと考えました。たとえば、本当に想っていることを「顕在内容」として表していいのかを確認するような「番人」「検閲」にあたる)が心の中にいることを想定してみましょう。現在は、まさに記憶の整理として捉えられている事象ですね。その「番人」が「ちょっと、この想いは生々しすぎるし、こころへの負担が大きいんじゃないか」「あまり社会的に受け入れられるような想いじゃないな」といった判断を下し、少しマイルドにするために「加工」するわけです。この「加工」された夢が「顕在内容」というわけですね。その「加工」のことをフロイト「夢の作業」と呼びました。

次回は、いくつかの夢の例を掘り下げてみたいと思います。夢のシンボルや意味には、個々人の個性や経験が反映されています。心の奥底に隠されたメッセージを読み解く探検に、皆さんもぜひお付き合いください。皆さんの心の深海では、どんな夢が作り出されていますか。

次の記事は以下のリンクです。ぜひ、引き続きお読みください。

引用楽曲

Mr.Children(1996) 深海. トイズファクトリー

参考文献

フロイト/高橋 義孝(訳)(1969)夢判断 上・下.新潮文庫

トップ画像:Unsplash:Zoltan Tasiが撮影

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