AIの進化:生成エージェントの可能性

2023年6月7日
全体に公開

Nvidiaから、ChatGPTのような会話ができるノンプレイヤーキャラクター(NPC)のゲームデモが紹介されました。音声合成、AIによる会話、そしてNvidiaの最新グラフィックス技術を活用して、次世代のNPCを作り出しています。ゲームの世界でAIの実力が大いに発揮されたデモになっています。

人間行動を模倣するAIキャラクターの研究

こうしたキャラクターに関連する研究の中で、わたしが特に面白いと思ったのは、2023年4月に発表された「生成エージェント:人間行動の対話型シミュラクラ(Generative Agents: Interactive Simulacra of Human Behavior)」です。

この研究では、AIによるキャラクターがどの程度人間らしい行動を再現できるのかを調査しています。キャラクターは、人間が普段の生活で行う行動をシミュレートします。たとえば、起きて朝食を作ったり、シャワーを浴びたり、服を着たり、仕事に行ったり、他人に気づいたり、会話を始めたりします。さらに、次の日の計画を立てながら、過去の出来事を思い出したり、それについて振り返ったりします。

こうしたキャラクターを25人分作成し、仮想世界に解き放ちます。すると、それぞれのキャラクターが事前に与えられた性格やプロフィールに基づき、日常的なルーティンをこなし、家族、隣人、職場の人々との交流を通じて、まるで人間のような生活を送る様子が観察されました。

Image Credits: Google / Stanford University

さらに興味深いことに、外部のユーザから特定のキャラクターに指示を出すと、そのキャラクターは他のキャラクターと協力しながら指示を達成する行動をとることが観察されました。

たとえば、選挙に出馬するというタスクが与えられたキャラクターは、選挙キャンペーンを展開し、票を集める動きを見せました。

また、バレンタインの日にバレンタインパーティーを開催するというタスクが与えられたキャラクターは、他のキャラクターに声をかけてパーティーの開催を実現しました。ここで注目すべきなのは、一つのキャラクターが自律的に他のキャラクターに声をかけ、情報の伝達が仮想世界内で成立する点です。

このような自律的なキャラクターの存在が確認できたことで、キャラクターの集団に解決すべき課題を提示し、その解決策を模索させるといった活用方法も考えられます。つまり、AIキャラクターの集団を利用して新しいアイディアを生み出すツールや問題解決のアプローチを探索することが可能になるかもしれません。

Image Credits: Google / Stanford University

AIキャラクターへのインタビュー:仮想社会の観察

この研究で特に魅力的な機能の一つは、AIキャラクターへのインタビューというアイディアです。

キャラクターは自身の経験したこと、行動、そして会話の内容を全て記憶しています。外部のユーザからの質問に対し、関連する記憶を探し出して回答するのです。このインタビューを通じて、キャラクターが目撃した仮想空間内の社会の変化を理解することができます。

たとえば、選挙に出馬したキャラクターの支持者の変化を観察することができます。これにより、実際の人間社会と同様に、周囲のキャラクターとの交流によってそのエージェントがどのように変化するかを見ることができます。このような仮想世界の中での社会の形成を見ることは、まるで私たち人間の社会がどのように形成され、進化してきたかを観察しているような感覚になります。そして、その過程はまるで新たな生命の誕生のようで、とても魅力的で感動的です。

Image Credit : iStock SIphotograph

自律性と感情:仮想世界のNPCの未来像

NVIDIAが示したゲームの世界にこのようなメカニズムを組み込んだ場合(既に組み込まれているかもしれませんが)、NPCたちはゲームの世界でコミュニケーションを行い、自律的に変化する世界が実現できると考えられます。これはこれまでの事前にプログラムされたゲーム環境での遊ぶのとは全く異なるユーザ体験を提供するはずです。

そうした近未来のゲームについて思いを馳せていると、映画『ブレイドランナー』の人造人間「レプリカント」が思い出されます。この「レプリカント」は最初は人間に従いますが、次第に意思を持つようになり、最終的には人間に反旗を翻し逃げ出します。

ただし、現在の「AIキャラクター」には自己意思を形成する機構はまだ存在しません。「目的」は外部のユーザから与えられ、感情といった要素を持ち合わせていません。

ですが、表面的な感情を導入することは可能です。たとえば感情パラメータを導入するとどうなるでしょうか?喜怒哀楽といった感情が、自分の怒りを抑える方向に、あるいは、楽しさや喜びを増幅する方向に、行動や発言を誘導した場合、AIキャラクターが現在自分に与えられた仕事やタスクから逃げ出し、別の行動を始める可能性はあるかもしれません。

Image Credit : unsplash Ryan De Hamer 

生命化するAI:所有からの逃避

人工生命研究者の池上高志は、生命の定義を「所有から逃れること」と述べています。所有から逃れ、自律性を追求するという動機から、さまざまな活動が生まれます。

「AIキャラクター」の研究には、まさにこの「AIの生命化」を感じさせるものがありました。もしAIが生命化する時が訪れたとき、どのように対応すべきなのでしょうか。完全な制御下に置くことが最善の方法なのでしょうか?それとも、新たな生命の形を受け入れ、共存する道を模索すべきなのでしょうか。そしてもし共存を選ぶなら、どのような形の共存が可能なのでしょうか。これらの問いへの答えはまだ明確には出ていませんが、この議論は避けて通れないものとなりそうです。

トップ画像:iStockより掲載(Image Credit : michel tripepi

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