GS新卒経験が自分に残してくれたこと

2023年4月12日
全体に公開

今回は、トピックスのオーナーとの間でリレー投稿として「新たな扉の前に立つチャレン ジャーへ」というお題で皆さんでバトンタッチしていく企画のご案内を頂きました。

前回はフィルウイックハムさんが記事を書いてくださいました。今回の自分のトピックスでは、僕が社会人になった当時に感じていたことと、今それを振り返ってみて感じることについて書き、なにか新社会人の皆さんが新しい生活で悩んだ時に心の拠り所になるようなトピックスにしたいと思います。

なぜ再生医療研究をしていた理系の自分がゴールドマンサックスに入ったのか

正直、大学生活の後半になるまでゴールドマンサックス(以下、GS)という名前すら知りませんでした。たまたま親友だった研究室の留学生が、GSのテクノロジー部門に入ったことで、この会社はいったい何?ということで関心を持ち、日頃の僕の人生観などを話していたその親友から「鈴木はGSの投資銀行部門(IBD)は向いてると思う」と言われたことが、自分の就職先を真面目に考えはじめたきっかけでした。

実際投資銀行のビジネスを調べていくと、僕が将来に亘りやりたかったことの礎ができる場所であると認識するようになり、GSを第一志望にしました。(詳しくは、当時以下のツイートにある僕が就職活動の時に書いた志望動機をご覧ください。当時のままの志望動機の原本です。)

純ドメ育ちなので、入試英語以外の使える英語は当時は全然できなかったですし、自動翻訳どころかスマホすらなかったので、辞書を使いながら頑張って翻訳したものを外国育ちの友達に見てもらいなんとか作りました。

就職氷河期とは言われていましたが運良くゴールドマンに内定をもらうことができました。ゴールドマンで取り組んできた実務のいくつかは、以下のトピックスでご紹介していますので、よければご覧ください。

今回は春特別企画ということで、新入社員になった方々向けへのメッセージを書いて欲しいというご依頼でしたので、僕がGSに入った時に感じていたことを回想したいと思います。

入社前から「投資銀行残酷日記」みたいなタイトル(うる覚えですが)の本を友達に渡され読みましたが、とにかくキツイ職場だから体調には気をつけて、と言われていました。家も会社のすぐそばにしないと睡眠時間を確保できないよ、と言われて会社から徒歩圏内にしました。

いざ入ってみると、やはり想像以上でした。僕が新入社員だった2000年初頭は、今のようにワースライフバランスだとかハラスメント対策みたいな概念や社会通念はありませんでした。金曜の夜に、「月曜の朝までにこれやっといて」、みたいな指示が来るのは日常茶飯事です。一般的な勤務時間は9時〜17/18時、と巷で言われますが、当時のゴールドマンは朝9時〜翌朝27-29時くらいの勤務が毎日の職場でした。

全員男のダイバーシティゼロだった大学の研究室の仲間とは、男子校のノリで今でも仲良しなんですが、毎年初夏に毎年恒例の研究室の皆とのバーベキューの約束があり、とても楽しみにしていました。

しかし、その1週間前にとある新聞の紙面を賑わせている企業再生案件のチームにぶち込まれ、連日朝の明るくなる時間まで仕事が続く日々に変わりました。

今でこそ当たり前に感じますが、土日のバーベキューくらいはいけるだろう、と思っていたら金曜の夜中に会議、そしてそのまま土日もオフィスで作業しないと到底終わらない仕事を割り振られ、ドタキャンをすることになりました。

社会人になったばかりで連日徹夜だったところに、そうした経験が重なり精神的に辛いと人生で初めて感じた瞬間でした。仕事選びを間違えたかなぁ、とも思ったりもしました。

そんな日々が続くとちょっと心が疲れてしまって、仕事辞めたいかも、なんて気持ちにもなってしまいました。そこで、大学時代の先輩で日経証券にいる先輩にふと電話をして、今の自分の心境を話してみました。目的があって電話したわけではなく、ふと頭に思い浮かんだので電話したんですね。すると、先輩から

「仕事なんてやめたかったらいつでも辞めれるんだから、社会人一年生の間だけはがむしゃらに頑張ってみなよ。一年生が終わってもまだ辞めたかったら、辞めて転職したら良いから」

と言われました。あと一年だけ頑張ればいいか、と思えば気持ちが楽になり、辛い徹夜生活もなんとか耐えれるようになりました。先輩の言葉に救われました。これまでの僕の人生では、先輩や上司のさりげない一言が、自分の心を救ってくれ、僕の人生に大きなサポートとなり良い影響を与えてくれた言葉がいくつかあります。部下、後輩にそういう言葉を伝えられる上司になりたいものです。

しかし人生は面白いもので、そうして限界の110%〜120%くらいで壊れるギリギリのところで頑張っていると自分の限界値がちょっとずつ上がるんですね。それによってそれまで辛かったことが、まあなんとかなるだろうという心の余裕が出てきました。

さらに最初は単なる作業員でしたが、自分なりに案件や交渉の本質を考えて仕事ができるくらいに余裕が出てくると、仕事自体が面白いと感じるようになってきました。そして一年経ったら、あともう一年だけ、さらにもう一年・・・と気づけばちゃんと積み上げやれるようになっていました。

その結果、上記のトピックスでご紹介したようなユニバーサルスタジオジャパンの再建案件や、JALの財務支援の案件の経験へと繋がっていき、それらは今も僕の社会人としての基盤になっています。

加えて、やはりゴールドマンには尊敬できる凄い人がたくさんいて、人間的にも魅力のある人がたくさんいました。そうした人たちと一緒に仕事ができ、いまでも多くの方々と公私ともに繋がらせてもらえているということは、自分の大変貴重な財産になっています。(今週もGS時代の友人と食事をしてめちゃくちゃ楽しい時間になりました。)

GSでの社会人経験を振り返って今感じること

体力は35歳を過ぎると急激に落ちてきて、踏ん張りが効かなくなります。45歳にもなると夜9時には眠くなります。今のVC仕事でファンドレイズの佳境の時は毎日深夜1〜2時まで投資家様のDD対応、QAを作っては回答をするという日々が数ヶ月続いたことがありますが、かなり体力的にはきつかったです。ただ、ゴールドマンの経験があるので、純粋に体力の問題であって精神的にはノーダメージでした。

若い体力があるうちに、自分の限界を少し超えるくらいまで自分を追い込んで仕事をする事はぜひやったほうがいいと思います。「若いうちの苦労は買ってでもしろ。」です。

僕の体験なんか、まだまだ序の口でしかない圧倒的な極限状態に人を追い込む米海軍の特殊部隊Sea, Air and Land (NAVY SEALs) の事例があります。分厚めですが、読んでみてとても勉強になった本「世界標準の経営理論」 (これもおすすめの書籍です)に纏まっていたので引用します。

『軍事で一番やってはならないことは、「小さな失敗を初期時点で見過ごす」ことだ。初期時点では小さな失敗でも、それを見逃していると、やがて積み重なって大きな失敗(例えば戦闘での大敗北)につながるからである。逆に言えば、戦地においてNAVY SEALsの隊員は、全員がまさに「その瞬間の周囲の環境・状況すべてに意識を傾け、それに気づき、仮にそれが小さな失敗でもありのままに受け入れ、乗り越え続けること」が必要なのだ。マインドフルネスは、軍事にも求められるのだ。NAVY SEALs候補生たちは、カリフォルニア州コロナドにある訓練施設で、Basic Underwater Demolition/SEALと呼ばれる30週間のプログラムを受講する。その最大のハイライトは、Hell Week(地獄の週間)と呼ばれる1週間で、通常は最終日までに75%が脱落する。
この地獄の1週間で、SEALsではすべての隊員候補生たちを極限状況に追い込み、圧倒的に不確実性の高い、とにかく「絶対に失敗する状況」を繰り返し、繰り返し、何度も経験させるのである。 結果として、「この1週間を経験した隊員たちは、どのような不確実性が高い状況でも周囲の状況をありのままに受け入れられ、失敗も受け入れて、むしろ失敗の中で前進する(彼らの言葉では、thriving in failuresという)メンタルを身につけることができる」というのが分析結果である。戦闘という極限状況下で必要な、「周囲のあらゆる環境を、バイアスなく、ありのままに受け入れる」マインドフルネスが高まるのだ。そのために必要なのは、軍事の場合は、極限状況に人を追い込むことなのだ。
ビジネスで言えば、これはいわゆる「修羅場経験」をどれだけその人が潜ってきたか、に近いといえるからだ。 マインドフルネスと言うと、どうしても禅・瞑想などのイメージがあって「心を穏やかにするといった印象」を持ちがちだ。もちろんそういうマインドフルネスも重要だろう。他方で、現実の過酷なビジネスで時に求められるのは、不確実性の高い環境下で、認知バイアスなく周囲の環境をとらえ、小さな失敗にも意識を払い、それを乗り越えていくという意味でのマインドフルネスでもあるだろう。
NAVY SEALsで鍛えられるのは、その究極だ(実際、米国では軍隊出身者はビジネス界でもエリートとして重用されることが多い)。 日本語で言えば、これを表す言葉は「達観」ではないだろうか。多くの優れた経営者にも、確かにどこか達観している方は多い。そしてそういった方々は大抵、とてつもない修羅場経験を何度も潜っている。 逆にそういう人材の不足に悩むのが、いまの日本の大企業である。最近は多くの大企業の人事担当者が「経営幹部候補者たちの修羅場経験が不足している」ことを課題にあげる』
  「世界標準の経営理論」 :入山章栄  著

あと、良い仕事をするためにも、先輩や上司にはくどいくらいに報告、連絡、相談、いわゆる「ホウレンソウ」をすることも大切です。

早いうちに仕事を任されるようになる若手の人とは、ホウレンソウをしっかりしてこの人に任せておけばいざと言う時もすぐに連絡くれるから大丈夫だ、と上司が思うからです。逆にホウレンソウがしっかりできない人は、上司からするといつ爆発するか分かれない怖い爆弾のような存在になってしまうので、大切な仕事は任せることはできません。

ホウレンソウの緻密さやタイムリーさは、とても重要です。

まだ4月でワクワクの気持ちかと思いますが、多かれ少なかれ、5〜6月になると辛いと感じる時は誰にでもやってきます。そんな時は上記を思い出して頂き、まずは一年だけでも良いので頑張ってみよう、と自分の限界に挑戦してみてください。それはきっと皆さんの人生の貴重な財産になるはずです。

究極的には仕事はお金のためではなく、大義の実現のためです。転職も今や当たり前の時代なので、まずは最初の職場でしっかりと腰を据えて全力で努力を重ね、自分の社会人としての基礎を作り、皆さんご自身の大義実現につなげていっていただけたらと思います。知識やノウハウもそうですが、人間として、社会人としての常識や良識を備えるという観点でも大変重要な時期です。(自己主張ばかりを繰り返し、自己の利益ばかりを考えて毎日を過ごすような人は、良識のない社会人に育ってしまいます。そういう人は、組織の中では腫れ物の存在になってしまい、誰からも求められないヤバい人になってしまいます。)

僕自身も日本の経済を更に発展することに寄与するような新しい産業を作り、日本を再び世界に誇れる国にできるよう微力ながらがんばっていきたいと思います。

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