創造的な仕事はNoから始まる

2023年1月8日
全体に公開

こんにちは。今、サンフランシスコへの機内でこの記事を書いています。年末年始は東京の家で主に家族と過ごしました。シリコンバレーに移住してからの半年間、仕事と生活の両面で息着く間もなく活動してきました。久しぶりの日本で、落ち着いてこの半年間を振り返る機会になりました。

昨年一年は、公私にわたって移行にすべてのエネルギーを使いました。成果の豊かな年だったとは言えませんが、よりインパクトのある成果を出していくための準備の年だったと思います。

2023年は、きちんと成果を出す年にしたい。そのためにプロダクトマネージャーとして何が必要か、これまでの経験を振り返って考えてみました。結論としては、「Noということ」なのだと思っています。それは特に、事業会社のマネージャーや、コンサルティングの顧客などの意思決定者の方針に対して、Noということです。

Noから生まれる成果

昨年の筆者のように、新しい仕事を始める際は、当然ながらそれまでの方針やプランにしたがって仕事を始めることになります。まったく白紙の状態からプロダクトを作り始めるのは、スタートアップを始める場合などに限られます。プロダクトのアイデアは、最初は仮説の形を取ります。それは大抵思い付きや直感によるものです。そしてプロダクトマネージャーがアサインされるのはこうしたタイミングです。プロダクトマネージャーとしての最初の仕事は、プロダクトの仮説を検証することです。そのためにデータ分析やユーザーリサーチを行います。そして、多くの場合に仮説の誤りが発見されます。

コンサルティングであれインハウスであれ、こうした場合プロダクトマネージャーは難しい立場に置かれます。アサインされたプロジェクトを否定することは、自分のポジションを否定することになりかねないからです。

しかし、プロダクトマネージャーは、それが現実であれば、勇気、気骨を持って当初の方針にNoという必要があります。

筆者の経験からいくつかの事例を紹介します。

セカイカメラをピボットして、結果的にDLからのMAU転換を0.5%から50%まで上げた際には、ARビューというセカイカメラという製品のアイデンティティーを捨てる決断が必要でした。これは、ARビューに魅力を感じて取り組んでいた多くの同僚の大きな反発を招きました。

コンサルティングの事業を始めた際の最初のプロジェクトの一つで、本社が米国にあるスタートアップのAR技術を応用したアプリの開発を依頼されたことがあります。当初のアイデアは非常にニッチで、市場性は不確実でした。一方で、クライアント企業では、別の事業提携が持ち上がっていました。パートナーはすでにWeb上で大きなアクティブユーザーと商流を持っているサイトで、筆者はこちらのプロジェクトに注力するよう主張し、結果として高いグロースを実現し、クライアント企業が手がけたプロジェクトの中で現在までサービスがアクティブに存続しているのはこちらのアプリだけとなっています。

一方COCOAについては、後に問題になったテストの不十分さ、陽性登録率への懸念、それらの根本原因となった当時の安倍首相が開発チームに相談なしに発表したリリース日程など、多くの問題はわかっていました。しかし、オープンソースコミュニティの立場から厚生労働省の側にこれらの懸念を指摘したり、リリース日程を変えてもらうようなことはできませんでした。その結果としてCOCOAの効果は限られたものとなりました。

たとえ不利益でもNoという

より根本的には、所与のソリューションアイデアを前提にプロダクトマネージャーをアサインするのが間違いなのです。そうではなくてプロダクト組織はアウトカムの指標の定義を明確にした上で、顧客の理解に基づく仮説の構築と検証を継続的に回し続けるべきなのです。しかし、すべての組織がこのように運営されているわけではありません。

目の前の利益や、組織の中での栄達を優先するのであれば、たぶんこうした考え方は間違っているのだと思います。クライアントやマネージャーにNoということが、自分のポジションを危うくする場合もあるでしょう。

筆者は、それもやむを得ないかなと思っています。

スティーブ・ジョブズは、Noをいうことの必要性を誰よりも理解していました。1997年のWWDCで下記のような言葉を述べています:

 人はフォーカスするとは、フォーカスすべきものにYesということだと思ってる。だけどそれはまったく違ってるんだ。その本当の意味は、百とある他のいいアイデアにNoということなんだ。注意深く選ぶ必要がある。僕は自分がしてきたことと同じくらい、しなかったことを誇りに思ってる。イノベーションとは、千のことにNoということなんだ。

誤りにNoといえない事業は、長期的に成功することは難しいでしょう。顧客にインパクトを与え、その結果として事業の成果を上げることが目的ならば、それができない環境にしがみつく意味はありません。少なくとも筆者はこれまでも、そしてこれからもそのようなスタンスで仕事をしていきます。

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