【見逃されやすい“小さな差異”。そして、奥に潜んだ世代間ギャップ。D&Iの落とし穴はどこに?】AlphaDrive/NewsPicksエディター ぺ・リョソンさん✖️経済キャスター 瀧口友里奈対談<その③>

2022年12月27日
全体に公開

環境に恵まれたこともあり、在日コリアンとして日本社会でストレスなく過ごしてきたと語るペ・リョソンさんは、一方で、日本の企業内で見落とされがちな“小さな差異”に注意が必要だと指摘します。リョソンさんと、経済キャスター瀧口友里奈の対談。その3回目をお届けします。

“小さな差異”にこそ注意が必要

瀧口:リョソンちゃんはこれまで在日韓国人であることで嫌な思いをしたりしたことはなかったですか?

リョソン:私の場合は人と環境に恵まれたこともあり、韓国人であることが理由で嫌な思いをしたことはありませんでしたね。日本社会の中でのほうが、むしろ伸び伸びできているかもしれません。

私はD&Iについては、差の度合いが小さい人ほどちゃんとインクルージョンするという姿勢が大事だと思っています。私は国籍からして周りの日本人の人たちと違うので、違いが大きくて差がわかりやすいほうだと思います。違いが大きいと、意外とその違いを許容してもらいやすいと感じています。

たとえば私は、実はテキストでのコミュニケーションが、私生活、ビジネスシーン問わず、苦手なんです。文章を瞬時に理解できなくて、友人のメッセージではたまに要件を見落としたり、仕事では指示を読み間違えたりすることもある。だけどそんなとき、友達や同僚から「リョソンちゃんは高校まで韓国語で話していたし、大学でもほとんどの時間、英語を使っていたのだからしかたないよね、これから頑張ればいいよ」とはじめの方は大目に見てらえたりします。

国籍や育ってきた環境の違いなど大きくてわかりやすい差異には対処しやすいですけど、同じコミュニティ内の目に見えにくい、小さな差にいかに気づいてインクルージョンできるかが、すごく重要なことなのだと思います。育った国や母国語は同じでも、過ごしてきた時代、働いてきた業界、所属する部署、持っている専門スキルなど、違いがミクロになればなるほど、相手に対するインクルージョンの意識が小さくなってしまうのではと考えています。

たとえば、私の営業職の友人は過去に、「コンサル出身の人と仕事をするのが苦手」と言っていたことがあります。同じチームで一緒に仕事をしていたものの、仕事の仕方や価値観の違いを指摘され続けたことで心を病んでしまい、最終的に異動しました。小さなバックグラウンドの違いはあるとはいえ、お互いが大事にしてきた価値観とやり方を理解しインクルージョンすることで、少しでもポジティブなチームになったのではないかと感じました。

女性にフォーカスした企画は逆差別?

瀧口:仕事をする中で違和感を感じていることはあったりするかな?

リョソン:つい最近、産業医の先生に取材して働く人のストレスと原因に関する記事を書いたんです(https://forbesjapan.com/articles/detail/51651)。そこで印象的だったのは、「女性は“女性活躍”に疲弊している」という話でした。今、世間では女性管理職の比率が話題になっていて、大企業も急いで女性役員を増やしたりしている。はじめはとても前向きな動きだと感じましたが産業医の先生によると、一部の組織では女性活躍推進の事例が社内にないことから、女性を昇進させたい組織と、現状の働き方を維持して家庭と両立したい女性との間にギャップが生まれているようです。そんな現実もあるんだなと思いましたね。

また、こういった女性活躍に関する記事を企画していると、一部では「女性ばかりにフォーカスする企画はよろしくないのでは?」という意見もいただきます。これについてどう対処すべきか、発信する側として悩んでいるところです。

瀧口:女性にばかりフォーカスすると、逆に男性を排除していることになるという意味なのかな?

リョソン:そういうことです。男性にフォーカスした企画はないのに、なぜ女性にフォーカスするのか。ダイバーシティに逆行しているのではないかと。

瀧口:活躍する女性たちを表彰するようなアワードに関しても、最近同じような意見が散見されるよね。

リョソン:男女平等な社会であればそういう主張は正当なのかもしれないけれども、現実の社会は男女間に大きなギャップがあるのだから、女性にフォーカスした企画があってもいいのではないかと私は思います。

瀧口:私も同じ意見です。近年、女性にフォーカスしたコンテンツが以前よりも増えたので、直近のコンテンツだけを見れば、そういう企画が多いと感じる方はいるのかもしれない。

これからは女性の活躍というテーマの中で、いかに男性にも参加してもらうかということが重要だと思う。

リョソン:そうですね。「男性に参加してもらう」ことがポイントだと私も思います。

たとえば小学生の頃、女の子に意地悪をした男の子に対して周囲の女の子が「男子、サイテー」と言っているのをみかけませんでしたか(笑)組織における女性活躍の課題も、女性の間だけで「男性にはわからない女性の苦労がたくさんある。男性はもっと理解すべきだ」と議論するのではなく、みんなで今あるジェンダーまわりの課題を洗い出し、最適な解決策を考えられるかが大事だと考えています。そういうすべての性別を巻き込んで、みんなで考えられるコンテンツをつくっていけたらいいですね。

瀧口:一部の人から女性活躍の企画を拒絶されてしまう理由には、その企画の中に「怒り」が乗っかってきちゃっているということもあるのかも。怒りがモチベーションになって世の中を変える原動力が生まれることも多いけど、怒りには、それに触れたくない人たちを排除してしまう一面があることも忘れてはいけないよね。

世代間ギャップが子育て世代の行動変化の妨げに

瀧口:あともうひとつ、世代間の問題も大きいと思う。たとえば、子育て世代の20~40代の男性は、育休、産休をちゃんと取って、パートナーといっしょに子育てをしたいと思っている人も多いけれども、職場の上司の理解が十分ではないためにそうできないという状況も生まれていると聞きます。20~40代の男性は家では家事や育児をし、会社では今までと同じパフォーマンスを求められて、働きながら子育てをする女性たちと同じような苦しみを味わっていると思うんだよね。上の世代の人たちに、日本社会で働く人たちの生き方が進化しているということをいかに理解してもらうかというのも、重要な課題だと思っているよ。

リョソン:最近一部の組織では、役員クラスの人が積極的に現場と会話しているという事例もよく聞くようになりました。しかし、企業内でD&Iの取り組みの設計・実行の決裁権を握っている人たちが、当事者の事情をまだよく理解できないからといって、若い世代に決裁権を預けて「(課題について)よくわかっている人たちで決めてくれ」と完全に現場に任せるケースもあるという話を聞いて、ちょっとショックを受けたんです。上層部の人たちが何かしらアクションを起こそうとしてくれているだけでも前向きなことだと思うけど、なんだかちょっと寂しい。

瀧口:うん、確かに。権限も譲渡してもらえず何も変わらないよりは全然良いことなのだと思うけれども、できれば理解していただきたいよね。

リョソン:より良い制度をつくるために、「わかる人たちに任せる」というのもわかりますが、みんなで考えたいという気持ちがあります。

瀧口:同じ女性同士だとしても、上の世代の女性たちが、後輩の女性たちの事情を理解できていないという実体験の話も聞いたことがある。

「自分たちの時代にはがんばって子育てと仕事を両立させてきたのだから、下の世代にもできるはず。今の人たちはあまりに楽をしすぎなのではないか」と思ってしまうという上の世代の女性たちの声を聞いたの。

タフにやり抜いてきた世代の方達から見ると下の世代はとても楽そうに見えてしまう。これは女性に限らず、様々な職場の場面で世代間で抱かれている率直な気持ちなのかもしれないよね。

この気持ちも理解できるのだけど、自分たちのつらかった経験を、果たして下の世代にもさせたいのか?それは、下の世代にとって本当に必要な経験なのか、今一度考えていただいたり、そのきっかけとなるようにしっかりと世代間の対話する機会が必要だと思う。

私たちが50代や60代になったときには、若い世代の子たちの気持ちや事情をちゃんと理解できるようになりたいと思う一方で、それはきっとそうそう簡単なことではないんだろうなとも感じるよ。

目指すゴールも働き方も、選択肢はいろいろ。大谷選手に学ぶ、目標設定の方法とは――?(④最終回に続く)

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