組織デザイン。ピラミッド型か?サークル型か?

2022年6月16日
全体に公開

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このトピックスは、「組織と経営のデザイン」を取り扱います。

今回は、もっともベーシックとも言える組織デザインのテーマ、

ピラミッド型か?サークル型か?どちらの組織形態を選ぶべきか?

を扱います。

ティールとか、ホラクラシーとか、流行した現代型の組織形態が気になっていたり、学んだ方も多いと思います。

ただ、私はそのようなサークル型の組織構造ではなく、ピラミッド型組織を選ぶことを強く推します。

その前提と理由を書いていきます!

初めに、一橋大学教授の沼上幹さんの本から「官僚制組織」についての言葉を引用します。

創造性や戦略性を強調する政策をとろうと考えている企業も、まず自社の官僚制機構という足腰のチェックをするべきである。官僚制組織という足腰が揺らげば、どれほどきらびやかな戦略も絵に描いた餅にすぎないのであり、そもそもミスへの対処に忙しくなって、戦略を考えるヒマなどなくなってしまうのである
沼上幹著:「組織戦略の考え方」より

官僚制組織とは、ピラミッド型の組織のことです。沼上さんは「組織設計の基本はピラミッド型」だと断言しています。

この沼上さんの考えを紐解いていきます。

ピラミッド型組織とは何か?

ピラミッド型組織とは何でしょうか?

それはプログラムとヒエラルキーという2つの要素から成り立ちます。

  • プログラム:繰り返し出現する問題を解決する手順やルール
  • ヒエラルキー:プログラムで対応できない例外への対応手順やルール

まず、仕事の多くをプログラム化する。そのプログラムで対応できない例外を、ヒエラルキーによって、上司が考えて処理する。

例外が発生した場合、その都度全員で考え、相談するのは非効率なので、上司という人間が対処する。

その上司が対処できないほど例外性が高ければ、さらに上の上司の判断によって処理され、例外性や重要性が極めて高いものは、最後に組織トップ(CEOや取締役会など)の判断に行き着きます。

重要なことは2つ。

  1. 例外対応を、その都度できる限りプログラム化し、例外対応を膨張させないこと
  2. 例外対応を少なくするため、メンバーを育成して、メンバーの例外的対応の能力を上げること

例外対応が多くなっては、上司の例外対応がボトルネックになり、組織の成長を妨げるからです。スピーディに意思決定できない上司にイライラした方は多くいらっしゃると思います。

なので、この定義において、上司に求められる力は、

  1. 例外対応する能力
  2. 例外対応をプログラム化する能力
  3. 例外的対応への現場の処理力を高める能力

の3つです。

新しくリーダーになった方は、プレイヤーとしての能力の高さを評価されており、例外対応能力は高いことが多い。一方で、例外対応をプログラム化する能力はプレイヤー経験では養うことが難しい。また、現場の育成も不慣れなことが多く、主に2と3でつまずく方が多いように思います。

「現場対応で忙しくて未来のことが考えられない!」というリーダーの典型的な発言は、まさに2と3でつまずいていることを意味します。

沼上幹著:「組織戦略の考え方」を参考に、筆者作成

トップ、ミドル、メンバーの3階層のシンプルな組織を考えれば、

  1. ミドルが、メンバーの育成、例外対応のプログラム化を行い、例外対応を減らし続ける
  2. 極力、ミドルが例外対応を行い、トップに上げない
  3. 1、2が前提になり、トップの例外対応が少なくなることで、トップが長期指向を保つ

という状態が、ピラミッド型組織がワークしている状態です。ミドルが重要ですね〜。

逆に失敗は、ミドルが例外対応のみに追われてしまい、メンバーの育成や例外対応のプログラム化を行えない状態。

結果、トップの例外対応が増え、トップが長期指向を持てず、短期の例外対応に追われてしまう状態です。トップがトップの役割を果たせない、というやつですね。

具体的に考えてみましょう。

経営者である私に意思決定を求める連絡が来ます。そこで私が意思決定するだけで終わらせてしまっては、同種の意思決定に今後も対応し続けなければなりません。そしてやがてパンクします。

なので、「これは、〜さんの意思決定で進めてください。今後も」とあえて意思決定せずに戻したり、「これは〜でいきましょう。なぜなら、〜という考え方に則っているからです」などと話して、次回からはその考えに則って、メンバー自ら意思決定することを促したりします。

ここで重要なのは、他のケースにも適用できる形で意思決定の原則を伝える、シンプル・ルールの考え方です。

ピラミッド型組織をワークさせるためには、例外対応を膨張させず、ミドルまでで例外対応がほぼ解消される状態をつくることです。

この前提があってこそ、メンバーやミドルの創造性を高めるための施策などを付加的に行うことが可能になります。

これが、沼上幹さんが「組織戦略の考え方」という本で書かれたことです。

サークル型組織は硬直的

ピラミッド型組織について、みなさん、どんな印象を持たれたでしょうか?

「意外とシンプルだな」

「合理的で悪くないじゃん」

と思っていただければ私の意図通りです。(そうじゃなかったら悲しい。)

ピラミッド型組織の原則は、沼上さんが喝破された通り、とてもシンプルです。

なぜシンプルになるのかというと、例外対応の規則を属人化しているからです。メンバーが対応できなければミドルが対応する。ミドルが対応できなければ、最終的にトップが対応する。

この属人性とエスカレーションによる例外対応の原則が、ピラミッド型組織のデザインの美しさであり、ピラミッド型組織に自由をもたらしている点だと思います。

逆に、この属人性とエスカレーションを廃した形で、例外対応の原則をつくるタイプの組織が、サークル型組織です。

サークル型組織を「エスカレーションがない組織」と定義します。組織階層がなく、リーダーがいない。

この場合にも、ピラミッド型組織における「プログラム=繰り返し出現する問題を解決する手順やルール」は同じく必要です。

一方、「プログラムで対応できない例外への対応手順やルール」については、エスカレーション以外のやり方が必要になります。これが難しい。本当に難しい。

サークル型組織にも色々な類型がありますが、おそらく最も有名なサークル型組織である、ホラクラシーを取り上げます。

Brian J. Robertsonの「Holacracy: The New Management System for a Rapidly Changing World」(日本語訳もあります)を参照します。

ホラクラシーでは、プログラムの集合をサークルと呼びます。特定の役割を与えられたチームのようなものです。

そのサークルの運用にあたり、以下のような意思決定を担うガバナンスミーティングが必要になります。これが、ヒエラルキーに変わる例外への対応手順です。

<ガバナンスミーティングの役割>

  • サークル内の役割やポリシーの追加や修正
  • 必要な役割(ファシリテーター等)を担当するサークルメンバーの選出
  • サブサークルの追加や解消

まず、各サークルが果たす役割を厳密に決めます。そして、例外対応についてはその都度ガバナンスミーティングで、その役割をどのサークルが担当するか、新たなサークルが必要かを決めていきます。

例外が発生する度にガバナンスミーティングを開くか、ガバナンスミーティングが開かれるまで、例外対応を遅らせることが必要になります。

いやーめんどくさい。

ヒエラルキーや属人性を否定すると、このように、例外対応への厳密な手続きが必要になり、意思決定コストが膨大になり、働く喜びが失われるリスクがあります。

横道にそれますが、これは、Web 3の文脈で語られることが多い分散型自律組織、DAO(Decentralized Autonomous Organization)についても同じです。

DAOでの意思決定は、基本的に、ガバナンストークン(意思決定の投票券を獲得できるトークン)保有者の全員参加型で行われるので、意思決定のコストがとても大きい。

また、重要な意思決定については、合意を取らず、ハードフォーク(分裂)することもあります。後者の分裂による組織の非連続性については、一定の利点もあると理解できますが、意思決定コストの大きさはクリティカルな課題だと感じます。

ヒエラルキーが無い分散型(非中央集権型)で、かつ意思決定コストが低い組織形態。これは、組織デザインの夢のテーマですが、現在その成功例を知りません。

話を戻します。

なので、サークル型組織は例外対応が弱い。例外対応への厳密な手続きは、組織を硬直化させ、官僚化させる危険性があります。

事実、ホラクラシーを採用していた世界で最も有名な企業、Zapposについて、「Zappos has quietly backed away from holacracy」という記事が2020年1月に出ています。

But in the last few years, Zappos has been quietly moving away from holacracy. It has done away with its at-times rigidly (and ironically) bureaucratic meetings and brought back managers, while retaining its circular hierarchy, a key artifact of holacracy.

しかし、ここ数年、Zapposは静かにホラクラシーから遠ざかっている。Zapposは、ホラクラシーを象徴するサークル形のヒエラルキーを維持しながら、時には(皮肉にも)厳格で官僚的な会議を廃止し、マネージャーを呼び戻した。

ホラクラシーがピラミッド型組織より、「厳格で官僚的」だというのはあまり知られていません。

この「例外対応についての弱点」が決定的な理由で、働く喜びを実現し、企業のパーパスを実現するために、私はサークル型の組織ではなく、ピラミッド型の組織を選択しています。

サークル型組織も部分的には成立する

ここまでで、「ピラミッド型か?サークル型か?」という質問についての私の考えを書きました。

このセクションでは、発展的な蛇足として、現状成立していると思われているサークル型組織について、少し言及します。分かりにくい話なので、特に興味がある方以外、このセクションは飛ばしてもらうのが良いかもしれません。

例えば、サークル型で運営されているエンジニア組織は数多くあります。

アジャイル開発はそもそもサークル型を志向していますし、その型としてのスクラムや、それを束ねたスクラム・オブ・スクラムなども分権的なサークル型の考え方です。

エンジニア組織など、企業組織の一部においては、サークル型組織は限定的に成り立ちます。

なぜなら、エンジニア組織内部では、「例外対応を少なくする=メンバーだけで多くを意思決定する」という意思決定構造がデザインしやすいからです。

しかし、他の組織との接合点では例外が多く発生します。

例えば、サークル型のエンジニア組織においても、他組織(例えば、営業組織)との接合が必要な意思決定(例えば、何を開発するか)においては、エンジニア組織の代表者(CTOやCPOやVP of X)が他組織と協議し、属人性を一定許容して意思決定する、という形が一般的だと思います。

同様に、コンテンツをつくる編集部などの職能性が強い組織は、その組織内でコンテンツ作成や評価等を完結させることで、他組織と疎結合な状態をつくり、限定的なサークル型の組織は成立し得ると思います。

そのような、限定的なサークル型組織ではなく、サークル型組織を全社に拡張した例として、Spotify(Spotify Model)、Haier(人単合一モデル)、Amazon(スクラム・オブ・スクラム)が有名で、良く記事に取り上げられます。

https://blog.crisp.se/2012/11/14/henrikkniberg/scaling-agile-at-spotify

ここは深入りしませんが、私のリサーチの範囲だと、これらの企業を含めても、分権型を徹底したモデルで成功していると断言できる例は見つけられていません。

事実、Spotify Modelは失敗したという記事も出ていますし、Amazonには明確にヒエラルキーがあり、スクラム・オブ・スクラムの適用範囲は限定的だと思います。

ハイアールの人単合一モデルは、3種類のマイクロエンタープライズ(ME)からなるモデルですが、MEを協調させる役割を担う「プラットフォーム」という組織概念が存在するなど、結局そこにヒエラルキーの仕組みが存在している様に見えます。

この辺りの話題に詳しい方がいらっしゃれば、ぜひコメントいただきたいです。知りたい!

働く喜びにあふれたピラミッド型組織をつくる

働く喜びって最高ですよね!

働く喜びを実現し、それを強みとして企業成長を実現していく。企業が掲げるパーパスの実現を目指していく。そのための組織デザインのベースは、ピラミッド型か?サークル型か?どちらが良いか?

この問いについて、「ピラミッド型が良い」が現状の回答です。ただ、エンジニアなど特定の職能分野や、目的が明確なプロジェクトチームについて、サークル型の組織を部分的につくり、ピラミッド型の組織と接続させる形もあり得ます。

ただ、組織はほぼ必ず退廃します。

ピラミッド型組織は、30〜50名の間は、3階層を保つことで、シンプルに経営できます。

一人の人間がラインとして担当できる人数の限界が7名だと言われているので、3階層だと、7x7(メンバー)+7(ミドル)+1(トップ)で、57名が限界人数になります。

4階層だと、同様の計算で400名が限界人数です。4階層になると、組織運営の難易度が格段に上がります。

  • 複数の3階層組織のトップ(ミドルを育てられるリーダー)の育成・採用
  • 複数の3階層組織をまたぐ意思決定の構造化(意思決定コストの低減)
  • 一番上のトップが現場、顧客感覚を保つこと

などが課題になり、これらの課題への対応を怠ると、

  • 4階層組織のひとつ下の、3階層組織がワークしない
    (最初の方に書いたワークしないピラミッド型組織の例に陥る)
  • 複数の3階層組織をまたぐ意思決定(例外対応)のコストが膨大になる
  • トップが顧客や現場の感覚を失い、間違った意思決定や不明確な方針が生まれる
  • トップからの距離が長いメンバーが多くなり、企業全体で向かう方向が不明確になる
  • 顧客や現場からの距離が長いメンバーが多くなり、働く意義を実感できなくなる
  • これらの結果、働く喜びが失われ、組織のパーパスも実現できなくなる

という「組織の退廃」の状態に陥ります。

歴史上、ほぼ全ての組織が構成人員の増加と共に階層を増やし続け、組織を退廃させてきました。

堺屋太一さんが「組織の盛衰」という本で書かれた、組織全体の目的達成より、組織の一部分の目的達成や、組織を維持することが優位になり、組織機能が低下する「共同体化」も大きな課題です。

次回は、ピラミッド型組織における、「人数増加に伴う組織の退廃」の問題にどう対応するか、について書こうと思います。キーワードは「情報環境」です。(別のことを書きたくなったらすいません。)

感想や質問など、自由にコメントいただければうれしいです〜。

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