映画紹介「13デイズ」:人類史上有数の「瀬戸際」。米ソ全面核戦争はどうやって回避されたのか?

2022年6月25日
全体に公開

みなさん、こんにちは!

いつもこの「世界のニュースをめっちゃ基礎から学ぶ部屋」を読んで頂きありがとうございます。

今回は新しい試みで、僕が大好きな映画を紹介したいと思います。ずばり、作品はケビン・コスナー主演「13デイズ」です。

1962年のキューバ危機を描いた名作は書籍も映画もたくさんあるのですが、僕はこの作品が一番好きです。単純にケビン・コスナーが超かっこいいというのもありますが、この映画は外交・安全保障の本質に触れる部分を学ぶことができます。

いわゆる「ドンパチ」やるような派手な戦争映画ではないですが、ハラハラさせるシーンも満載です。

そんな13デイズ、4つの名ゼリフを抜き出して、それをベースに紹介してみたいと思います。休日のお供に、ぜひお付き合いください!

Bettmann / 寄稿者

①真珠湾をもう一回喰らったみたいだ

時は1962年10月、一枚の写真にアメリカ政府が震撼します。

フロリダから目と鼻の先にあるカリブ海の島国・キューバにソ連が核ミサイルを持ち込んでいるのが、偵察飛行によって発覚したのです。

この当時のキューバといえば、フィデル・カストロや革命家チェ・ゲバラなどが中心となって革命を起こし、現在につながる社会主義国家が誕生したばかり。

キューバはすぐにソ連と接近し、アメリカを敵視し始めます。するとアメリカのケネディ政権はカストロ政権の転覆作戦を実行しました。

左からカストロ、ゲバラ、ソ連のミコヤン副首相(PhotoQuest / 寄稿者)

革命でキューバからアメリカに流れ込んでいた亡命者たちを組織してキューバに上陸作戦を行うというものでしたが、これが大失敗に終わります。「ピッグス湾事件」と呼ばれるもので、1500人の参加者は1100人が捕虜、100人が死亡という、歴史に残る大失態に終わりました。

そこからしばらく経ったこの62年10月、まさかまさか、冒頭のミサイルがキューバで見つかったのです。わずか5分でアメリカに到達し、8000万人を殺傷する能力を備えたものです。

その一報を聞いたこの映画の主人公にしてケネディ政権の首席補佐官、ケネス・オドネル(ケビン・コスナー)は次のセリフを口走ります。

ケネス・オドネル
なんてことだ…真珠湾攻撃の不意打ちをもう一回喰らったみたいだ
(13デイズ)

アメリカにとっては不意を突かれた形で、受け入れがたい事態が突然目の前に立ち現れたわけです。これこそが、キューバ危機の始まりです。

ここから、核兵器によって人類が最も滅亡に近づいた2週間が幕を開けることになります。

一番右がオドネルです(George Tames / 寄稿者)

②ソビエトに唯一通じる言語、それは…

この時点ではまだキューバのミサイル基地は完成しておらず、発射はできない状況。ただし、放っておけばあと数日で配備が終わり、アメリカが核攻撃に晒されるという切羽詰まった状況でした。

ケネディ政権はすぐに外交安全保障分野の高官を、OBも含めて招集します。状況が日々悪化する中で、この危機にどう対処するのかを話し合うためです。この会議はエクスコム(国家安全保障会議執行委員会)と呼ばれました。

そこに招集されていた一人がディーン・アチソン。第二次大戦末期のトルーマン政権で国務長官を務めた、対ソ強硬派の重鎮のような人物です。

エクスコムの中で、アチソンが語った言葉が、2つ目の名ゼリフ。

ディーン・アチソン
私は諸君の前任者たちと一緒に、多大な犠牲を払ってソビエトと戦ってきた。芝居がかった言い方になるが、多大な犠牲を払って分かった事がある。
ソビエトに通じる唯一の言語は「行動」。ソビエトが従う唯一の相手は「力」なのだ。
(13デイズ)

この初期の時点で、エクスコムではいくつのプランが浮上します。劇中のシーンでは

①ミサイル基地を狙った限定的な空爆

②広範囲にキューバを攻撃する大規模空爆

③大規模空爆に続く侵攻(カストロ政権の転覆)

という3つの選択肢が軍やアチソンから提案されます。この場ではケネディは結論を出さずに会議を終えますが、後日もう一つの選択肢が出されます。それが

④キューバ近海を海上封鎖。さらなるミサイルがキューバに到着するのを阻止する

というもの。アメリカ海軍がキューバ近海に展開し、底に入るソ連系の船を強制的に停めて積荷を確認し、武器が積まれていない場合のみ通すというものです。これはマクナマラ国防長官から出た案でした。(カタカナが多くてすみません)

それぞれのオプションをとった場合に何が起きるのか、ざっくり見ておきましょう。

①~③空爆、侵攻プラン

キューバに配備されつつあるミサイルの大半を破壊することが可能だが、完全な破壊は不可能。残ったミサイルから反撃され、本土攻撃を受ける可能性は残る。

そしてキューバのミサイル基地に駐留するソ連兵も死ぬため、米ソの戦争に突入。ヨーロッパ駐留中の米軍などが攻撃され、核戦争になる可能性が非常に高い。

④海上封鎖プラン

すでにキューバにできつつあるミサイル基地は除去できず、まもなくキューバに到着する残りのミサイル部品も停められない。つまり、ソ連がミサイル基地を完成させてしまう可能性が高い。

ソ連に外交姿勢を示し、解決できれば一人も死なずに危機を解決できる可能性もあるが、「弱腰」と思われ、ソ連がエスカレートする可能性も。

要は、どんな行動をとってもメリット・デメリットがあったというわけです。即・戦争に突入するか外交の余地を残すかどうか。外交の余地を残すなら④の海上封鎖しかないでしょう。

しかし、上で紹介したアチソンの言葉に凝縮されているのは、「ソビエト人には外交など、通じない」という考え方。強大な力と行動のみで対話できるというものです。

アチソンやアメリカ軍幹部は海上封鎖なんていうものは「弱腰だ」と批判。全面核戦争になるリスクがあってでも、空爆すべきと主張します。

余談ですが、軍部の一部はこのとき、空爆してもソ連は核で反撃することはないだろうと主張します。その理由は「彼らが滅亡するから」というもの。あくまで米軍が圧倒的に強く、ソ連軍を圧倒できるという前提のロジックになっています。

③地獄の炎が凍りつくまで

※このへんから、ネタバレが加速しますのでご注意を!※

結局、政権がとった決断は④海上封鎖でした。ケネディが「親愛なるアメリカ国民諸国──。」から始まる有名なテレビ演説で、ミサイルの存在と海上封鎖の実施を発表します。

ソ連の船を空からも監視(MPI / 特派員)

ちなみに、海上封鎖のグラウンドルールはこんな感じです。

キューバ近海に海上封鎖線を設定し、通過するソ連系の船をアメリカ海軍が止める

アメリカ軍が乗船検査し、武器が含まれている場合は引き返しを命じる

これらを拒否した船には発砲する。ただし、その際は大統領の個別指示を仰いで行う

海上封鎖というのは前述の通り、外交の余地を残す手段ではありつつ、軍事力で相手を矯正するという意味では戦争行為に極めて近い行為でもあります。

このため、ちょうど開かれていた国連の場ではキューバ代表が「経済封鎖だ」と強くアメリカを批判し、ソ連も「ミサイルなんてでたらめだ。キューバにミサイルなんてありせん」としらを切ります。(この時点でアメリカは例の決定的賞異なる画像を示していません。)

そこで登場するのが、次の名言。以下は、実際に行われた国連でのアメリカとソ連のやり取りです。

アメリカ/スティーブンソン大使単純な質問をしましょう。ソ連はミサイルを設置したことを否定するのですか?イェスかノーでお答えください。通訳は必要ありません。イェスかノーです。

ソ連/ゾーリン大使ここはアメリカの法廷ではない。

アメリカ/スティーブンソン大使
あなたは今、世界の法廷に立たされているのです。

ソ連/ゾーリン大使
検察官が被告にするような質問には答えたくありません。

アメリカ/スティーブンソン大使
イェスかノーで答えればいいのです。答えないというのなら、地獄が凍りつくまででも待ちましょう。
( I am prepared to wait for my answer until hell freezes over, if that’s your decision.)
(13デイズ)

そしてこのやりとりの中で、アメリカは初めてソ連がミサイルを配備していた「証拠写真」を公開。しらを切っていたソ連は赤っ恥をかくことになります。これがその写真です。

Historical / 寄稿者

後日談ですが、ミサイル配備は極秘作戦だったこともあって、ソ連指導部は国連大使や駐米大使に存在を教えていなかったようです。

この衝撃映像の公開で、危機は一段と加速していくことになります。

④これは海上封鎖なんかじゃない、言語なんだ!

国連安保理会合の翌日、アメリカの海上封鎖はすでに発動しています。ソ連のタンカーは次々とキューバに接近し、大半は海上封鎖線の前でストップして引き返します。

ケネディ政権の策が見事にハマった!…と思いきや、ケネディは指揮所(国防総省)に詰めていた側近のマクナマラ国防長官から衝撃の事実が知らされます。

「タンカーを1隻見失い、1時間前に封鎖線を突破されていました…。」

これは大変なことです。海上封鎖線を突破するということは、ソ連がアメリカの提案に乗らないという意思表示でもあるからです。もしも武器が積まれていたら、戦争に発展する可能性も高い。

アメリカ海軍はすぐに対応に追われます。突破したタンカーに信号を送り、直ちに停止するように求めます。しかしタンカーは前進。

そこで、マクナマラと一緒に指揮にあたっていた海軍のジョージ・アンダーソン提督は現場の船長との電話で「発砲しろ」と威嚇射撃を命令します。(アンダーソン提督は強硬策を求める軍高官の一人です)

しかし思い返してみると、海上封鎖のグラウンドルールでは、発砲には大統領の許可が必要だったはず。発砲の合図を聞きつけたマクナマラ国防長官と海軍のアンダーソン提督の、こんなやり取りが展開されます。

マクナマラ国防長官発砲だと!?今すぐやめろ!

アンダーソン提督(海軍の船長に対して)撃ち方やめ!(マクナマラに向き直って)ただの曳光弾ですよ、まったく!あなたはずっと泊まり込みで朦朧としていて、ミスを犯している!私の邪魔をし、部下を死なせるつもりか!海軍はジョン・ポール・ジョーンズの時代から、海上封鎖のやり方は熟知している!

マクナマラ国防長官
大統領の許可なく発砲はしないルールだったはずだぞ!


アンダーソン提督
お言葉だが長官、船を攻撃したわけではない!発砲とは、攻撃を意味します。船の頭上を狙っただけです!

マクナマラ国防長官
大統領の指示はそうじゃない!ソ連が私と同じ勘違いをしたらどうするんだ!!
いいか、以後、私の許可なしにいかなる発砲もしてはならん。いいか、分かったか、提督!

アンダーソン提督
・・・イェッサー。

マクナマラ国防長官
まったく、何がジョン・ポール・ジョーンズだ!君は何も理解していないようだな、提督!

これは海上封鎖なんかじゃない。これは言語だ!世界が初めて知る言語なんだ!これでケネディ大統領がフルシチョフ書記長と対話しているんだ!

(This is not a blockade. This is language. A new vocabulary, the likes of which the world has never seen! This is President Kennedy communicating with Secretary Khrushchev!)
(13デイズ)

ジョン・ポール・ジョーンズとは、1700年代の軍人で、アメリカ独立戦争の英雄とされる人物です。海軍のアンダーソン提督は、その次代の人物まで引っ張り出して、ケネディ政権の代理人である国防長官を丸め込もうとしたわけです。

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そして、「暗黒の土曜日」へ

映画のネタバレはこのへんまでにしておきます。が、少しだけ解説を。

戦争行為ともとれる威嚇射撃が行われた翌日、事態はさらに悪化します。キューバを偵察していたアメリカ軍の飛行機がミサイルで撃墜され、パイロット1名が死亡したのです。

撃墜された偵察機(Keystone-France / 寄稿者)

「危機」の段階ならまだしも、アメリカ軍人の命が奪われた以上、もう全面報復に出るしかない。軍部は一層強くケネディにそう迫り、空爆と侵攻を決断させようとします。

核戦争を覚悟した人も多かったことでしょう。

しかし、ご存知の通り、全面核戦争は起きませんでした。核戦争になっていたら、米軍が駐留する日本に住む私たちは、いなかったかもしれません。

では、どうやって破局的な核戦争は回避されたのか。このシーンこそ、13デイズの最も面白い部分です。

amazonプライムでも見られますので、ぜひこの週末にでも映画「13デイズ」を見てみてください!

次回のテーマは「なぜ今さら、キューバ危機を理解する意味があるのか」です。ロシアのウクライナ侵攻を見る上での視点も交えて書いてみたいと思います。ぜひまた、お付き合いください!

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