AI時代の営業:AIは人間の営業パーソンを置き換えるか?

2023年7月19日
全体に公開

以前にTwitterでAIセールスパーソンの研究論文を取り上げました。この頃と比較して、ChatGPTを始めとしたLLM(大規模言語モデル)をベースにした生成AIのアプリケーションが最近では爆発的に増えてきています。多くの方が最低一度はChatGPTなど触れたことがある状況ではないでしょうか。

今回の記事は営業とAIを考えるのに良いきっかけんなりそうな論文を取り上げて、その解説とともに今後の営業パーソンとAIの関係性を考察します。最近発表されたAIチャットbotのB2Bビジネスにおける研究報告も合わせて取り上げたいと思います。

(表題イラストはCanvaのText To Imageで自動生成したものです、AIは使ってこそ面白い、、!)

AIによる営業プロセスへの介入と人間である必要性

まず初めに、ごく簡単に今回取り上げつ論文について説明します。タイトルは"The effectiveness of AI salesperson vs. human salesperson across the buyer-seller relationship stages"です。

この論文では、営業プロセスを買い手と売り手の関係性構築プロセスの観点から捉えており、その中で「AI営業担当者」を人の営業担当者と比較したアプローチについてまとめています。これ、個人的にはめちゃめちゃ面白いことをやっているなと思ったのですが、当時LinkedInで共有した時には「AIに営業ができるわけない」というコメントがつけられました。否定はできない状況でしたが、最近では様子が変わってますね。

この論文で触れている重要なポイントは、顧客との関係構築プロセスの各段階において最も効果的なタスクを施行するにはAIが得意な部分と人間が得意な部分があるという見解を示しているところです。

つまり、買い手から見た購買プロセス(購買ジャーニー)の初期フェーズでは、購買者は多くのサプライヤーから自社の要望に叶う情報を収集する段階においては網羅的で、購買者の問いかけに対して最適な回答を届けることが信頼構築につながります。このようなパターン化された行動の中で最適解を導くアプローチは人間よりもAIの方が得意あることが多いです。つまり、営業プロセス初期フェーズにおいては、購買者が欲しい情報を素早く、最適に届けることが求められ、AIが威力を発揮する場面と言えます。

一方で、商談も進み購買者がサプライヤー候補を絞り込んで、より自社にとって魅力ある価値提案を受ける場面においては、定型化されたやり取りでは信頼をより増強することは難しくなります。AIにとって不得意である直感力共感力はこの中期以降の営業プロセスでは重要になるため、ここは人間が営業を行う意義が見出せることになります。

AIと人間はそれぞれがバイヤージャーニーの中で混ざり合いながら価値共創を進めている(CanvaのText To Imageによって生成されたイメージ図)

B2Bセールスの場面で考えると、購買者はたった一回安くモノやサービスを仕入れることを目的にすることはほとんどなく、長期的に関係を作り安定的に調達したり契約後に価値を実現できるパートナーを選定する意味合いがとても強いです。こういった、まさに「価値共創」の場面においてはAIによる自動化は適切ではないと考えられます。一方で、お互いの関係性がある程度成熟していたり、取引的に継続されるビジネスの場合はお互いがリソースをかけることよりも簡便で正確に取引が進むことを望むこともあるため、そのような日々のやり取りに関してはAIで対応し、サポートの場面で人が深く関与するバランスもまた最適な関係性になり得ます。つまり、カスタマーサポートやカスタマーサクセスによって人間のリソースを適度にAIで自動化する動きが無視できなくなってきています。

ChatGPTなどを考えたときの営業プロセスにおけるAI活用

この論文がリリースされて約一年で状況はかなり変わってきているように感じます。この論文にはまだ引用文献はありませんが(2023年7月9日時点)、ビジネス現場ではChatGPTや生成AIに顧客関係へのアプローチがかなり増えてきている実感があります。

例えば分かりやすい例は今回の表題イラストです。ChatGPTを使って画像生成のためのプロンプト(どのような内容をイラストにしたいかを伝える指示書のような文章)を作成して、CanvaのText To Imageという機能を使って画像を作成しました。面白いことに、これらのテクノロジーはスライド生成など営業プロセスで必要な製品やサービスの説明を効率的かつ正確に準備することができるようになりました。

カスタマーサポート領域ではいち早くChatGPTによる顧客対応の検討が進んでいます。例えば、顧客による製品レビューや苦情への返信対応、実装済みのチャットbotの対応能力強化、顧客の声(問い合わせ実績)の収集と分析、問い合わせの多言語対応、バーチャルアシスタントの導入などです。

(ちなみに弊社もGPTを使った機能開発には力を入れており、先日機能リリースを出しております)

AIの時代にB2Bセールス”パーソン”に求められる事とは

最初に紹介した論文にも出てきていますが、買い手と売り手の関係において、まだまだ買い手が人間を求める場面は多くあります。Prof. Dr. Simon Fauserら(2022)はB2BビジネスにおけるAIチャットbotの役割に関する研究を報告しています。

この論文の冒頭で、B2Bビジネスシーンでの信頼関係を構築できる期待値が低いという観点から、買い手もまだAIチャットbotと比較して人間のセールス担当者を求めることを引用しています。一方で、AIチャットbotは24時間いつでも応答できることから、将来にはスピーディに自分達の求める情報を入手したい買い手にとっては必要なチャネルになり得ることは予想されます。さらに、企業としても人間のセールスパーソンと比較するとWebサイト上にAIチャットbotを配置することで顧客対応できれば、オペレーションコスト上は非常に優位になります。しかし、それらの十分な機能を果たすためには、B2Bビジネスで買い手が必要とする情報を共有できる応対能力と同時に、売り手が買い手にとっての価値基準を理解できるように対話できるようにならなければいけません。また、チャットAIbotは自ら買い手にアプローチすることはなく、買い手がAIチャットbotを利用して(クリックして)はじめて関係がスタートします。つまり、売り手である企業はどんなに精巧なシナリオを組み、最適化し、よいサービスをAIチャットbotに実装したとしても、それを使うかどうかは買い手次第であることを忘れてはいけません。

これらを総合すると、

1. B2Bセールスのプロセスにおいて、まだまだ買い手は人間の売り手との関係構築を望む場面が多い

2. 一方で、関係構築の初期段階であったり、買い手としてもシンプルな問い合わせに素早く答えてほしかったり、ある程度のパーソナライズ化で十分な品質の回答が得られる場面であればAIにコンタクトすることに抵抗は少ない

3. 人間のセールスパーソンとAIセールスパーソン(AIチャットbot含む)はそれぞれがB2Bセールスプロセスの中で得意な部分があるため、共存して、結果的に買い手にとっても売り手にとってもベストな購買体験を構成できるようにすることが今後求められる

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0148296322004155

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