【AWS サミット ロンドン2024】生成AIで本人そっくりに作られたアバターが登壇?

2024年4月27日
全体に公開

AWSサミット というテックイベントをご存じだろうか。クラウドコンピューティングの最大手であるアマゾンウェブサービス(AWS)がほぼ毎年世界各地で主催する、AWSのテクノロジーイベントである。2011年に米国ニューヨークで初めて開催され、日本でも2012年からAWSサミット東京の名で、コロナ渦による開催中止の2020年を除き毎年開催されている(オンライン開催含む)。今回、筆者がレポートするAWS サミット ロンドンもまた、初回開催の2015年から継続的に催されており、その動員数と規模はAWS欧州中東アフリカ地域の事業国間で最大を誇る。AWSサミットでは、主催であるAWSのみならず、パートナー、クラウドコミュニティ、エンジニアが一堂に会して、AWSに関しての学習、相談の機会や、実際の顧客による事例の発表や情報共有などが行われる。ちなみに、AWSサミットで提供されるコンテンツ、セミナー、対面相談会など、全て無料である(ただし、一部会場で実施されるAWS資格の受験料はかかる)。また、エンターテイメント性も高く、非エンジニアや業界関係者でなくとも、最先端の技術を楽しみながら学べるのがAWSサミットの特徴だ。

AWSサミットのオープニングキーノートは必見

AWS Summit London 2024 オープニングキーノート会場Auditoriumの様子(AWS Summit London 2024にて筆者撮影)

全ての国で開催されるAWSサミットのオープニングは、どこもエンターテイメント性に溢れている。満席の会場に、華々しい照明、音楽、映像と併せて、まるで有名ロックバンドのライブコンサートが始まるかのような演出が施され、実際にバンドやDJによる生演奏から開始するAWSサミットも少なくない。そして、今年のAWSサミット ロンドンは、AI時代ならではのユニークなオープニングを飾った。

登場したスクリーン上のタヌージャ・ランダリー

キーノートセッションに登壇した欧州中東アフリカ地域マネージングディレクターのタヌージャ・ランダリー(AWS Summit London 2024にて筆者撮影)

定刻通りに暗転した会場で始まったオープニングキーノートで、登場したのはAWSヴァイスプレジデント、欧州中東アフリカ地域マネージングディレクターのタヌージャ・ランダリーだ。しかし、通例のAWSのキーノートスピーカーであれば、ステージの脇から、入場BGMとともに観客の拍手ときらびやかな照明を浴びて颯爽とステージ上へあがってくるはずなのだが、彼女が登場したのは、ステージにあるメインスクリーンと、会場内に複数設置されたサブスクリーンに映し出されたビデオ映像の中である。スクリーンに登場した彼女は、観客に「ようこそ、AWSサミット ロンドンへ。私は欧州中東アフリカ地域を統括していますタヌージャ・ランダリーです」と自己紹介し、AWSサミット ロンドンへの意気込み、世界のAI動向を交えたスピーチを開始した。観客に「なんだ、ビデオメッセージでのオープニングか」「AWSにしては地味なスタートだな」と感じさせたその時である。

スクリーン上の彼女が衝撃のコメントを放った。

タヌージャが観客に放った衝撃の内容とは?

スクリーン上に登場したタヌージャ・ランダリー。筆者撮影
「まもなく、本物のタヌージャが皆様のお目にかかります。それまでは、彼女のアバターである、私とお付き合いください」
“Soon you will meet the real Tanuja but meanwhile you have me, her avatar”

なんと、それまでスクリーン上で、ジェスチャーと笑顔を交えながら流暢にプレゼンし、時折目線をやや左方向に落とし、その先にあるであろうカンペに目をやりながらスピーチしているように見えたタヌージャは、AWS Bedrockという生成AIで作られたデジタルアバターだったのである。そして、この後、実際に本物のタヌージャへがステージ横から登壇し、観客からは惜しみない盛大な拍手が沸き起こった。

この演出に会場は度肝を抜かれ、筆者も脱帽であった。

AWSサミット ロンドン2024の様相

AWS Summit London 2024 エキシビジョン会場にて筆者撮影

先に述べたAmazon BedrockはAWSによる生成AIであるが、AWS サミット ロンドンのアジェンダやコンテンツでは、このサービスに紐づくテーマが多く見られた。生成AIは、テック業界で加速することを止まない話題の的だが、AWSも同じである。AWSサミット内のブレイクアウトセッション(会場の各所で行われるセミナー、プレゼンテーションやディスカッションなど)の多くがAIに関連したものだった。例えば、AWS Bedrock上大規模言語モデル(LLM)フレームワークの事例や、AIアプリケーション開発におけるセキュリティ、AI導入によるコンタクトセンターの変革、などである。また、AIと関連して、Sage Makerと名付けられている機械学習のフレームワークを持つプロダクトに関したコンテンツも少なくなかった。

AWS Summit London 2024 エキシビジョン会場にて筆者撮影

常設の展示会場では、世界の気候問題に対してAWSが取り組む持続可能エネルギーやゼロカーボンエネルギーなどに関するエキシビジョンも存在感を放っていた。

また、いまやAWSのグロースエンジンとも思える、スタートアップ企業をフィーチャーしたコンテンツやエキシビジョンもお馴染みだ。AWSスタートアップロフト、という文字通りスタートアップ企業を対象としたコミュニティエリアは、会期を通じて人で賑わい、AWSのエグゼクティブら集まりスタートアップとの交流を楽しんでいた。

AWS Summit London 2024 エキシビジョン会場 Ask an Architectにて筆者撮影

Ask an Architectも毎年人気のコーナーだ。ここでは、AWSのエンジニアたちに技術相談を持ち込み、アドバイスを受けることができる。

AWS Summit London 2024 エキシビジョン会場にて筆者撮影

パートナーによるエキシビジョンにはユニークなブースが多い。ビッグデータに特化したクラウドサービスを展開するスノーフレークは、大型滑り台を設置し、会場の客を楽しませていた。

AWS Summit London 2024 エキシビジョン会場 F1 Pitmakes にて筆者撮影

AWSイギリスはF1レーシングに協賛しており、ディープラーニングなどの技術サポートを行っていることからロンドンサミットではF1関連のエキシビジョンもお馴染みだ。

AWS Summit London 2024 エキシビジョン会場にて撮影

エキシビジョン会場では、ジャズバンドやDJによる生演奏が響き渡る。

AWS Summit London 2024 エキシビジョン会場にて撮影

サミットも終盤に近付くと、エキシビジョン会場全体がネットワーキングセッションに入る。各所で来場客向けにバーが設営され、ワイン、ビールやソフトドリンクなどが振舞われる。

筆者とAWSサミット

AWS Summit London 2024 Registration会場に設置された黒板。筆者撮影

ひとつ思い出を語りたい。

筆者にとって、AWSサミットは慣れ親しんだテックイベントである。なぜなら、筆者は元AWS中の人であり、そのキャリアの後半をヨーロッパ中東アフリカ地域事業で培った。そのため、AWS サミット Tokyoを含めて、オランダのAWS サミット アムステルダム 、スウェーデンのAWSサミット ストックホルム、そしてイギリスのAWSサミット ロンドンでは主催側として参加してきた。そして、今尚、思い出深いのが、2017年のAWSサミット ロンドンである。

この日の大半、私はあるブースで過ごしたのだ。

今から7年前のAWS Summit London 2017 にてAIブース対応を担当する筆者

AWSサミット内に常設されるエキシビジョン会場内には、AWSに関しての様々なテーマや技術、プロダクトに応じたブースも設置される。これらのブースでは、AWSの社員がシフト制で常駐し、ブースを訪れる顧客への技術相談やアドバイスなどを行っている。マーケティングディレクターからの指示では、1スロット1時間、集客が多く見込まれるブースは当然最低アサイン人数も多いが、少ないブースであっても1スロット最低2人をアサインするよう決められていた。当然、AWSのプロダクトや技術に長けたソリューションアーキテクトチーム(通称SA )が中心になってそれぞれのブースにシフト制でアサインされるのだが、当時のAWS イギリスは、個々のブースのシフトを組めるほどのリソースがSAチームにはなかった。従って、穴があるスロットは、その技術に明るい営業社員やビジネスディベロップメントチームらがボランティアで対応していた。AWSの主力サービスであるコンピューティング、ストレージ、データベースやコンテンツデリバリーなどは、技術やユースケースを語れる社員が多いので、シフトはすぐに埋まる。しかし、いつまでもスロットが埋まらず、終日スケジュールで見てもわずか一人のSAが午前中の2時間しかアサインされていない、超マイナーなミニブースがあった。

何を隠そう、そのブースはArtificial Intelligenceである。

今日であれば、略語である二文字にしたほうが顧客に伝わるであろうAIだが、その当時のAWSイギリスにはAIに精通した社員はおろか、SAチームですらその人材が居なかった。そして、そのブースに最終的にアサインされたのが筆者だった。たまたまAIの基礎を構成する機械学習に知見のあった筆者に白羽の矢が立ったというのが背景だ。アサインされたのは午後の2時間だけだったはずなのだが、後任のスタッフが現れず、結局、その日の午後スロット丸々、たった一人で守り抜いた記憶が懐かしい。

そんなマイノリティだったAIブースが、今日のAWSサミットの大半を占めるような時代になったことには灌漑深さを感じずにはいられない。

AWS Summit Tokyo 2024は6月20日、21日、幕張メッセにて開催

AWSサミットは、毎年、世界各国で開催されているが、AWS Summit Tokyo2024は、幕張メッセで6月20日、21日の2日間で催される。AWSサミットTokyoは、アメリカに次いでの巨大規模で行われるため、ロンドン以上の賑わいを見せることだろう。どのような驚きを与えてくれるのか、非常に楽しみである。

トップ画像:AWS Summit London 2024にて筆者撮影

参考1:AWS Summit London | Agenda 2024

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