合成生物学に必要な新しい資金調達モデル(世界経済フォーラム)

2024年1月8日
全体に公開

2024年のダボス会議・世界経済フォーラム年次総会が、1月15日から19日にかけて、スイスのダボスで開催されます。今年のテーマは、「信頼の再構築へ」。

その関連資料EMERGING TECHNOLOGIESの中で、「The green gold rush: How investment into synthetic biology could help achieve net zero(グリーン ゴールド ラッシュ: 合成生物学への投資がネット ゼロの達成にどのように役立つか)」という文章(英文)が公表されています。これは、ヨーロッパのメディアであるThe European Stingとの協力による記事ということです。

このなかでは、特に合成生物学関係への投資についての課題と「新しい資金調達モデル」の必要性について議論がなされています。

まとめとしては、

①生物学と先端デジタル技術の融合は、より持続可能な経済を創造する上で生物学が果たす役割に革命を起こそうとしている。②基礎となる合成生物学的アプローチが進歩しているにもかかわらず、大量市場導入に必要な規模に達した製品は比較的少ない。③規模拡大に伴う課題に対処するために資金調達の仕組みを再考することで、より多くの製品をより速いスピードで市場に投入することができるだろう。

以下、部分的な引用です。

合成生物学は、人間の生活に必要なものを脱炭素化する大きな可能性を秘めている。食べるもの(代替タンパク質や培養タンパク質など)、着るもの(人工微生物由来の繊維など)、家や職場の作り方(炭素捕捉技術を強化した菌糸体ベースの建材など)、さらには移動手段(持続可能なバイオベースの代替燃料を動力源とする移動手段など)にも応用できるだろう。
課題としては、未成熟な規制環境、製品開発期間の長さ、製品化までのコストの高さ、確立されたビジネスモデルや市場参入戦略の欠如、生物学を用いた製品の真の可能性と何が問題であるかについての一貫性のない説明などが挙げられる。
ブレンド・ファイナンスの仕組みと戦略は、今日この分野で「カテゴリー・リーダー」と見なされている企業に投資を行う上で効果的であることが歴史的に証明されている。具体的には、希薄化する資本と希薄化しない資本を組み合わせた公的資本、民間資本、フィランソロピー資本が、アーリーステージの投資リスクを軽減し、段階的に低リスクの資本が資金調達スタックに参入する準備を整えるために導入され、成功を収めてきた。一握りの合成生物学関連企業は、政府補助金や関連資金調達機関を通じた資金調達により、初期投資テーゼのリスクを軽減し、後期段階の株式資本投資家を引きつけることで、成功を収めている。
投資家は、炭素集約型の既存企業に代わる持続可能な合成生物学関連企業への投資を急ピッチで拡大している。しかし、この可能性を実現するには、創業者が複数の資本源と同時に協力し、資本提供者の競合する投資目的を認識し、スケールアップのテーゼをより迅速に証明する必要がある。今行動し、このようなインパクトの大きい未来技術への投資と支援の方法を見直すことは、バイオベース技術が明日の主力商業代替技術の基盤となる、より資源に強く回復力のある未来への道を開くことになる。

2024年の日本も、合成生物学に投資し投資される年となって欲しいです。

ここで大切なのは、公的資金、民間資金、慈善基金などを組み合わせて、社会的課題を解決していく「ブレンド・ファイナンス」という概念です。 不確実性が高く民間だけでは十分な投資が行われにくいのが合成生物学分野の現実です。公的資金をまず投入して実現性を検証した上で、民間資金の投入を促進していく必要があります。

また、日本経済新聞にこのようなオピニオンもありました。このような視点も合わせて、合成生物学のエコシステムを作っていくことは、日本にとって喫緊の課題であることは間違いありません。

合成生物学は新たな産業革命の鍵となるか?」担当:山形方人

【Twitter】 https://twitter.com/yamagatm3

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