老化克服の合成生物学
秦の始皇帝の支援を受け不死の妙薬を求め航海に出たという徐福、パトロンのお金を集め不老不死の万能薬エリクサー(elixir of life)を求めた西洋の錬金術師達。
老化や不死を目的とした事業というのは、比較的立ち上げが容易です。
例えば、最近話題になるDAO(自律分散型組織)で、バイオ系で最も先を行っているのが、VitaDAOという「老化克服や寿命延長を目的とした医薬品開発」を行うDAOです。VitaDAOは、2023年1月には、ビッグファーマのファイザーなどから410万ドル(約5億5000万円)の投資を受けています。
一方で、徐福も錬金術師も、現代医学的には「詐欺」であることは明白なのでしょうが。。
老化に伴う認知機能の障害は、生物医学上の大きな課題であることは間違いありません。
7月3日のNature Aging誌に、タンパク質「Klotho(クロトー)」を高齢のサルに注射したところ認知機能の改善が2週間程度続いたというカリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の研究グループの研究が発表されました[1]。
この報告によると、Klothoタンパク質のアカゲザル型をマウスで検証し、Klothoタンパク質がシナプス可塑性と認知機能を高めることを示したといいます。そして、高用量ではなく低用量のKlothoを単回投与すると、高齢の非ヒト霊長類において記憶が増強されることを見いだした。このことから、低用量Klothoの全身投与は、老化したヒトにおいて治療効果を示す可能性があるとしています。
Klothoは、インスリン、FGFシグナル、Wnt、NMDA受容体関係など、いろいろな作用を持つとされています。また、注射されたKlothoタンパク質は血液脳関門を通過しないので、どのような形で脳に影響を与えているのか、不明であるということです。
Klothoは、もともと、鍋島陽一らにより、ヒトの老化症状に類似した表現型を示す挿入突然変異マウスが発見され、その原因遺伝子として単離されたものです(1997年報告)。β-glucosidaseとの相同性から糖鎖を分解する活性が予測され、弱いβ-glucuronidase活性があるとされていますが、実際の機能との関連は不明です。
ところで、UCSF研究グループのNature Agingの論文では、アカゲザルKlothoのアミノ酸配列を持ったとされるKlothoタンパク質を使っています。Klothoタンパク質のこういった研究では、以前から市販されているものが使われてきていますが、その作り方についての詳細は論文にほとんど掲載されておらず、論文だけでは知ることができません。その中身が気になります。
🗝Take-home message
老化克服のような研究分野は、合成生物学の対象としても魅力的と思われます。
[1] Castner, S.A. et al. (2023) Longevity factor klotho enhances cognition in aged nonhuman primates. Nat. Aging. https://doi.org/10.1038/s43587-023-00441-x
「合成生物学は新たな産業革命の鍵となるか?」担当:山形方人
【Twitter】 https://twitter.com/yamagatm3
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