大阪在住VCから見た関東圏以外のスタートアップによる資金調達環境

2024年4月29日
全体に公開

はじめに

あっという間に5月ですね!

JAFCOに新卒で入って15年目に入りました。毎年春を迎えると、入社して間もない頃を思い出します。ちょうどこの頃は、「よっしゃよっしゃ、やったんで」と根拠のない自信に満ちあふれて研修を受けていたのですが、新卒1年目は配属先の名古屋で色んな滑った転んだがあって、本当に大変でした。でも、それがあったんで14年やってこれたんだとも今では思います(いつかこのあたりの話も書いてみたいと思います)。

新卒でベンチャーキャピタルに入ってちゃんと仕事できるの?」という問いは、しばしばSNSでも見かける論点ですが、私の答えは大きな声で「できます!」です。この記事を読んで頂いている方の中にも、新卒でVCに入られた方もいらっしゃるかもしれません。ぜひ一緒にスタートアップシーンを盛り上げていきましょう!

今回のテーマ

前置きが長くなりましたが、今回のテーマは「東京をはじめとする関東圏以外の資金調達環境」です。

「Coffee Break with Startups」を書かれている平川さんの記事で、熱いネタ振りを頂いたので、今回はベンチャーキャピタル側の視点でのアンサーソングを書きたいと思います!

そもそも、資金調達の件数や金額って多ければ多いほど絶対にエエのか

名古屋にいるときも、今いる大阪でも感じますが、VCなどから資金調達せずに、自己資金と借入で成長をしている会社は相応数存在しています。

ベンチャーキャピタルにいる私がいうのもアレなのですが、一般に、ベンチャーキャピタルからのエクイティ(株式資本)は、銀行からの借り入れによる資金調達は、銀行からの借入よりも、リターンの期待値が高い=資本コストが高いお金です。

外部資本を入れずに、または、外部資本からの調達回数や金額を抑えて事業を成長させることは、資本効率が良い優秀な経営方法、とも言えるわけです。実際、私が過去ご出資した先で、VCからの調達はJAFCOだけで、1回の資金調達で上場やM&Aまで至った会社もありました。

そういう観点で、一概に「資金調達件数や金額が多い=そのエリアのスタートアップシーンがイケている」とは必ずしも言い切れないとは思っています。

関東圏以外のスタートアップファイナンス、件数は伸びてきているぞ!

と、言う「そもそも論」はあるものの、多くのスタートアップにとっては、事業成長のためにVCなどによるエクイティファイナンスを複数回実行することが多いわけであり、そういう観点では、資金調達の環境というのは多くのスタートアップにとって関心が高いトピックだと思います。

そこで、関東圏以外のスタートアップの調達環境がどうなのか、、INITIALさんが出されている「Japan Startup Finance 2023」(https://initial.inc/enterprise/resources/japanstartupfinance2023) のデータを紐解いて、考察をしてみました!

関東圏を関東一都六県と定義し、関東圏とそれ以外のエリアで、2018年~2022年のデータを比較しました(2023年の数値も使いたいところですが、まだ速報値で数値が今後変わることが想定されることから除外して計算しています)。

まず、資金調達件数です。確かに件数こそ少ないのですが、年平均成長率で見てみると、

全国:17.9%、関東圏:17.2%、関東圏以外のスタートアップ:21.5%

と、意外に思われるかもしれませんが、関東圏以外のスタートアップが関東圏を上回っているんです。関東圏以外のスタートアップが調達するケースは着実に増加してきていると言えるのではないでしょうか。

確かに、各地のアクセラレータープログラムの増加・深化や、エクイティ調達のhow toなどの情報流通VCとオンラインMTGできる環境・商習慣の普及などは、それまであったVCとの間にある地理的な制約や情報的な格差を着実に埋めていると感じています。

一方で、1社あたりの調達金額は低位…

他方、1社あたりの調達額関東圏の約50~70%の水準に留まっています。

平川さんが言及された通り、シリーズをAからB、BからCへと重ねて、大型の調達金額を実行する会社は関東圏と比べると、まだまだ少ない、と言えると思います。

多くのスタートアップでは、資本政策・エクイティ調達は、「単発」で完結することはほぼなく調達した資金で事業成長して新たなエクイティ調達に結びつけていく必要があります。

そういう意味で、資金調達が完了したその瞬間に、次の資金調達は始まっていると思います。調達活動が終わった後も継続して、事業や研究開発がどういう状態で次の資金調達を迎えるか、解像度を上げて議論をすることは、次のエクイティ調達を実施する上でとても重要です。普段お会いする起業家の方にしばしばお尋ねする質問であり、ご投資先でよく議論するテーマです。

大学発ディープテックや、SaaSを筆頭に、事業を急速に成長させて大型調達を実施するスタートアップは着実に増えてきていて、これらの事例が次の事例を呼ぶいい循環をもたらしつつあると実感しています。事実、昨年度JAFCOからは、名古屋・大阪・福岡で合計4社に新規投資をさせて頂いています。今後数年で、関東圏以外でも大型調達を行うスタートアップが更に多く出てくるのでは、と見ています。

さいごに

急に何を言うてんねん、と言われそうなんですが、私あまり「地方」という言葉があまり好きではないんです。ことスタートアップの文脈における「地方」という言葉には、「東京と比べて劣っている」というニュアンスで使われたり、想起させることが高確率であると感じています。

丸14年「地方」でVCをやってきた私が、関東圏以外のスタートアップについて言及する際に、「地方」という言葉を使うのにはなんとなく抵抗があるんです。ささやかな「意地」みたいなものなのかも知れません。なので、この記事でも極力「地方」という言い方は避けて書いてます(なので、関東圏とか、関東圏以外、といったまどろっこしい表現になってしまうのですが)。

確かに、「今時点においては」資金調達の環境は関東圏とそれ以外では社数も、1社あたりの金額も少ないです。その一方で、特にコロナ以降は、オンラインMTGの普及、リモートワークの定着と、かつてないほどに地理的な制約のないフェアなビジネス環境だと言えないでしょうか。

私も含めて、「地方だから」というマインドセットではなく、資金調達も、顧客開拓も、採用も、全ては、意志の強さ・やり方次第、だと強く思います。

各地域固有の土壌に根ざしながら、大きな社会課題の解決に挑戦する起業家は、エリアを問わず各地から生まれてくるものだと確信してます!15年目も頑張ります!

感想やコメント頂けると嬉しいです!こちらの質問箱からでも!

https://querie.me/user/mizuki_takahara

ではでは!


出典:Japan Startup Finance2023 - 国内スタートアップ資金調達動向 - P.31「地域別の資金調達額」2024年01月23日時点、P.33「地域別の資金調達社数」2024年01月23日写真:Getty images

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