学者の創意工夫を感じる「写真」の語源
「写真」「photo」「カメラ」といったワードはとても日常的ですが、これらの語源は何でしょうか?中でも「写真=真実を写す」という言葉に、哲学性や浪漫を感じます。起源を探っていたら、そこに「カメラ」を初めて日本に紹介した学者たちの創意工夫を発見しました。
カメラの語源
まず、今日の「写真」誕生に欠かせない存在が「カメラ・オブスクラ」です。
「カメラ・オブスクラ」は、暗室の一点に穴を開け、そこから入った太陽光が穴の対面壁に像を結ぶ装置です。16世紀にはレオナルド・ダ・ヴィンチ他、多くの芸術家が絵画(写生)の下書きに利用。
ただし、同様の装置はずっと前からあり、紀元前400年の書物にも登場。当時は天文学を目的に使われていました。
15世紀以降この改良が盛んになり、次第に絵画に使われるようになります。その頃の名称は学者が自分の名前を付けて発表するなどバラバラ。それを1604年にドイツの天文学者ヨハネス・ケプラーが統一して「camera obscura:カメラ・オブスクラ」と提唱します。
camera obscura(語源:ラテン語)
・camera :部屋
・obscura:暗い
カメラと写真の誕生
19世紀以降、感光剤や定着液などの化学技術が発達し、カメラと写真が生まれます。「写真」になるには、暗箱に投影された光の像を記録して、再現する必要があります。
光を記録する装置①が「カメラ」で、②で再現されたものが「写真」です。
*カメラと写真の内容
現在:①イメージセンサー②液晶とJPEG
以前:①フィルム②印画紙とインク
もっと前:アスファルトの材料、銀や銅、ガラス板など
photographの語源
技術的に「写真」が誕生し、「photograph」が生まれます。
photograph (語源:ギリシャ語)
・photo:光の・graph:図
ここまで見ていると、cameraもphotographも仕組みを正確に表現しているのが特徴ですね。
ちなみに、「photochemistry:光化学」「photosynthesis : 光合成」など、光にまつわる単語はいろいろあります。
■日本語の「写真」の語源は?
日本に「カメラ・オブスクラ」が紹介されたのは、江戸時代1788年。蘭学者の大槻玄沢が書物「蘭説弁惑」にて「写真鏡」と訳して仕組みと図版を掲載。杉田玄白も1815年に「写真鏡」として紹介。
「camera obscura」を直訳すると「暗い部屋」ですが、これでは意味が伝わりません。
そこで当時の学者たちは、「カメラ・オブスクラ」を見なくても、書物を読んだ人が実物をイメージしやすいように「写真鏡」としたのではないでしょうか。
写真鏡 (語源:写生の派生語/学者の工夫)・写生:生きているものを、写し描く・写真鏡:鏡のように、真実を写す装置
「写真」の起源を、5世紀の中国の書物だとする説もありますが、「写生」からの派生語だと考えた方が自然だと思います。
そして「写真鏡」の短縮形で「写真」の誕生です。「photograph」を直訳すると「光図」ですが、日本では原理に基づいたものではなく、「真実を写したもの」という人間にとっての意味の方が市民権を得たというわけです。
■語源のまとめ
というわけで、語源のまとめを掲載します。
次回は、カメラマンやフォトグラファー、インスタグラマーなどの「撮り手」に焦点を当てます。これを探求しているうちに、人間のとある「欲望」にたどり着いたので、こちらも綴っていきたいと思います。
*参考
神林優「写真という名について ― 発明前夜から日本伝来まで」
キャノンサイエンスラボ・キッズ「カメラの歴史をみてみよう」
ケンコートキナ「カメラ・オブスクラとは」
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