フィリピン物流事情 人口ボーナスがある国を通して見る日本の課題

2023年9月27日
全体に公開

『タイ王国物流事情』で書いたように東南アジア各国の経済成長は国によって濃淡がある。今回は人口ボーナスがこれからやって来るフィリピン。GDP/Capitaが3,600ドルを超え、マニラ中心部はシンガポールと見間違える程の発展ぶり。

物流現場に於いてロボットやテクノロジー活用の可能性を探ったが、十分な生産年齢人口を有することもあり、そのニーズは極めて低いようだ。唯、一部倉庫では、日本以上に自動化を進めている事例もある。マニラ郊外では街づくり計画が乱立しており、高速道路の延伸/拡張計画も多数。接する人々が前向きで明るい印象。

翻って日本。冨山和彦さんのG型かL型かという論説があるが、人口が減りゆく中、物流含む地方の既存社会インフラ維持にリソースが割かれ、且つ、そういったハード及びソフトのレガシーがあるが故に最新技術の社会実装が進まず、アジア諸国に一足飛びに抜かれる危機感を覚える。

人口:アジア2023-PopulationPyramid.net

先日、フィリピンに出張しました。マニラ中心でしたが、ひと昔前の「街中至る所でHold upがある」とか、最近のルフィーの報道のような治安が非常に悪いという印象は良い意味で裏切られ、アジア感を残しつつも発展/成長の勢いを感じました。最近オープンした三越は本店以上に高級デパートメントストアの雰囲気でした。(同僚が「フィリピンはアメリカですよ!」と力説していたが、やはりアジアはアジアかな笑。)

輸入超国で海上コンテナの入出のアンバランスや主要港の混雑、それにマニラ中心部の渋滞(夕方食事に行く僅か2kmの行程が車で1時間かかりました。)、下水道やコールドチェーンの未整備といったインフラ面の課題が多く散見されました。物流領域は外資規制もあります。夫々の課題に対する行政/民間の打ち手はありますが、全体的な設計の不備や夫々の施策の整合性があまり取られていない印象。全体アーキテクチャー/UX設計は、日本に軍配が上がるでしょうか。

唯、一部の物流センター内では日本でも見たことが無いような最新のマテハン設備や技術が使われていることを確認。何処まで上手く使われているかは「?」ですが、トライアンドエラーを繰り返しながら、定着していくのだと思います。アジアで固定電話ネットワークの前に携帯電話ネットワークが行き渡り、電子決済が日本より先に普及したことを想起しました。

本人撮影:マニラ三越のビール売り場

マニラ近郊では多くの街づくり計画が進行中。島嶼国であるフィリピンの各島/地方都市を色々と見たわけではないですが、マニラなどの主要都市と地方都市では開発状況にかなり濃淡がついてくると思われます。これを主要都市と地方都市との格差問題と呼ぶのか、効率的な開発と呼ぶのか。10年後のマニラ郊外は日本の地方都市以上に便利で住みやすい街になっているかもしれません。

工場や物流センターの改善に取り組む時、物量が増えるフェーズで改善施策を実行するのは比較的容易です。新しい設備投資の固定費率を抑えられ、且つ、回収も見込が立つので。逆に物量が減るフェーズになると固定費カット以外の選択肢が限定される。規模は違いますが、人口減少フェーズの日本は、国づくりの舵取りが難しい局面だと思います。地方創生やL型経済は重要だと思う一方で、社会インフラ投資は濃淡をつけて、且つ、レガシー(既得権益)をぶっ壊して取り組まないと日本全体がアジア各国にゴボウ抜きされ、世界と比べて相対的に貧しく、住みにくい国になり下がるのではと心配になった出張でした。

トップ画像:本人撮影 マニラ中心部     

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