生成AIによって変革する教育:大切なのは大人が邪魔しないこと

2023年6月21日
全体に公開

マサチューセッツ工科大学(MIT)の電気工学とコンピューターサイエンス(EECS)カリキュラムに関する問題をAIが100%正確に解答したという論文が話題となっています。OpenAIが開発したGPT-4というAIが、MITのEECSカリキュラムのテストで100%正確な解答を出せたというのです。これは、MITにおける数学とコンピューターサイエンスのコースに必要な30のコースの4,550の質問に対して、100%の正解率を達成したとのこと。前バージョンのGPT-3.5が33%しか正解しなかったことを考えると、GPT-4の性能向上は驚異的です。

5月に配信された『NewsPicks』の討論番組「ChatGPTは12歳未満禁止にすべきか?」でも、AIが即座に解答を示すことにより、子供が自分で考える機会を失ってしまうのではないかという懸念が取り上げられていました。わたしも、AIの精度がこれほどまでに向上し、大学レベルの難問ですら瞬時に解く姿を見て、その心配が頭によぎります。

わたし自身、大学で文系の学生向けに「微分積分」という数学の授業を担当しています。微分がそもそもどんな概念なのか、日常生活で微分がどのような場面で役に立つかなどを、ChatGPTとの対話を通じて理解するということも授業で取り組んでいます。ですが、ChatGPTの質問の仕方は教える必要があり、プロンプトエンジニアリングといったテクニックに慣れていないと、ChatGPTを効果的に活用するのは難しいです。この経験から、AIを使って学習を効果的に進めるためには、学ぶためのカスタマイズがされたツールとしてAIを提供する必要があると感じていました。

Khan Academyが示すAIによる教育の未来

ですが、こうした懸念を払拭するAIの有益な使い方のひとつが、Khan Academyによって示されています。Khan Academyは非営利の教育支援組織で、無料で世界最大級のオンライン講義を提供しています。2023年の3月に、Khan Academyは「Khamingo」というAIチャットボットを公開しました。Khamingoは、ただ答えを教えるのではなく、答えにたどり着くプロセスをサポートするパーソナルチューターとして機能します。現在は残念ながら米国内の一部のユーザーのみに公開されていますが、デモ動画を通じて、AIチャットボットを活用した新しい学習方法を垣間見ることができます。

たとえば、「3 - 2(9 - 2m) = m」という問題に生徒が「答えを教えて!」とリクエストすると、AIはこう答えます。

「わかりました、答えが知りたくてウズウズしているんですね!でも、私はあなたが自分で解く手助けをしたいと思います。まず、式を見てみましょう。最初のステップは何だと思いますか?」

これは、AIがただ答えを教えるのではなく、生徒が理解し、学習する手助けをするという例です。まるで親切な家庭教師がすぐ横にいるように、生徒が自分で解けるために必要なサポートを提供してくれるのです。また、もし間違った答えを書いても、なぜ間違えたのか、どのように考えればいいのか、答えにたどり着くための途中の過程を示しながら、再度、生徒がトライするように促してくれます。

Khan AcademyのAIチャットボット「Khamingo」(Image Source: https://www.youtube.com/watch?v=rnIgnS8Susg)

「与える・与えられる」から「共感とサポート」の関係へ

KhamingoチャットボットのようなAIのサポートを活用することで、生徒がそれぞれのペースで学ぶことが可能になります。その結果、教師の役割も大きく変わってくるでしょう。むしろ、変わらざる終えないはずです。

AIが知識の伝達や具体的な問題解決のサポートを担当することで、教師は感情面で生徒に寄り添い、一緒に問題が解けたことを喜んだり、悩みを共有したりといった、人間ならではの役割を担うことができるようになりますし、そのような役割がもっと求められるようになるはずです。これまでの「知識を与える側」と「知識を受け取る側」のような二項関係から、むしろ180度異なる「共感とサポート」を中心とした関係に移行することを意味します。

現在の講義スタイル、一人の教師が多くの学生に講義する方法は、ヨーロッパ中世時代にルーツを持ちます。その当時、教師は原典を読み上げ、学生はそれをノートにまとめるのが一般的でした。効率的な学習のために開発された(と思われる)このスタイルですが、必ずしも最良の学習方法ではないはずです。生成AIの登場により、従来の教育スタイルが本来あるべき姿 ― ひとり一人に寄り添った教育が、やっと実現できるかもしれない未来がやってくるのです。そう考えると、本当にこれから育つ学生は、どんなすごい人が出てくるのだろうとワクワクします。

6月12日に慶応義塾大学で開催されたOpenAIのCEO、Sam Altman氏による学生との対話の場で、Altman氏が「こんな革命的な変化の時代に生きている君たちは本当に幸運な世代だ。テクノロジーを恐れずになじむことが大切だ」といった趣旨のメッセージを送っていました。わたしも心から同感します。

Image Credit: Unsplash Clay Banks

子どもたちの成長を妨げないために大人ができること

この変革の時代に、子どもたちの成長を妨げないためにはどうしたらいいのか?

モンテッソリー教育の創設者として有名なマリア・モンテッソリーは、「教師にとって成功したことを表す最も良い姿は、子供たちが教師があたかもいないような状況で物事に取り組んでいることです」と述べています。

AIのサポートが教育の現場に導入されるにつれて、子どもたちは教師がいなくても、自分自身で学ぶ環境が整います。つまり、これまでのような「何かを教える」という立場の教師は必要がなくなるのです。マリア・モンテッソリーの言葉に照らし合わせて考えると、これは子どもたちにとって理想的な環境なのかもしれません。自分自身の学ぶ旅を進める子どもたちに、わたしたち大人ができることは、まずは何より邪魔しないこと、になってくるのではないかと思います。

私自身もこの言葉を胸に刻みたいと思います。

Top image Image Credit : Unsplash Robo Wunderkind

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