ベストセラー編集者が教える「文章力を高める3つのコツ」

2023年10月16日
全体に公開

メール、チャット、資料、プレスリリース、SNSなど書くシーンが多い現代において、「文章力」の重要性はますます高まっています。実際、海外のビジネススクールでも、「文章力はリーダーの重要なスキル」といわれていますが、日本では社会人になると、文章力を学ぶ機会はほとんどありません。

前回の記事では、文章力を高めるポイントをいくつか紹介しました。

今回は、私のライティングの先生でもあり、何冊ものベストセラーを生み出してきた編集者の庄子錬さんから、「リーダーが学ぶべきビジネス文章力の高め方」について伺います。

リーダーや、リーダーを目指す人、またビジネスパーソンとしてライティングを学んだことがないという人も必見ですので、ぜひお読みください。

@Wake Consulting

庄子 錬

株式会社エニーソウル代表取締役。編集者・執筆家、企業コンテンツアドバイザー。手がけた本は200冊、『バナナの魅力を100文字で伝えてください』(20万部)など10万部以上のベストセラーも多数担当。150社の企業ブランディング実績。編プロ→出版社2社→大手コンサル→起業。

◇目次

・プロ編集者の圧倒的な文章力

・なぜリーダーに文章力が必要なのか?

・文章を高めるコツ1「カジュアルパターンを覚える」

・文章を高めるコツ2「見た目にこだわる」

・文章を高めるコツ3「心に響くキーワードをつくる」

◇プロ編集者の圧倒的な文章力

庄子さんとの出会いは、2015年に出版した私の最初の著書『世界最強人事」(幻冬舎)の編集を担当いただいたのがきっかけでした。

当時、コンサルタントとして文章を書く機会が多かった私は、ある程度文章力にも自信がありました。しかし書いた原稿を庄子さんに見てもらうと、もはや原型がないくらいに真っ赤に修正されて毎回戻ってきました(笑)。「文章はこんなに奥が深いものなのか」と驚くとともに、自分の文章力の低さを恥ずかしく思ったものです。

2冊目の著書『人事こそ最強の経営戦略」(かんき出版)も庄子さんにご担当いただき、ライティングのコツを一から学びました。おかげさまで、現在も反響をいただくベストセラーになりました。

:庄子さんに文章をお見せすると、内容やポイントは変わらずにものすごく読みやすく修正してくださるので、いつも感動しています。ライティングのプロが見たら修正点はすぐにわかるものなのですか?

庄子:1枚のビジネス文書なら、10秒あれば修正すべき点が見つかると思います。今はビジネスシーンでも情報にあふれている時代ですから、伝えたい内容を目立たせ、余計な表現を削ることが修正の中心になりますね。

◇なぜリーダーに文章力が必要なのか?

:最近はメールだけでなくチャットやSNSなど、さまざまなテキストツールが使われています。私が行っているリーダー育成プログラムでも、受講生の多くが「文章のやりとりで生じる誤解」や「部下への文章の指導」に対する悩みを打ち明けています。文章力の難しさは、どこにあるのでしょうか?

庄子:社会人になると、文章力を学ぶ機会ってほぼありませんよね。編集者や新聞記者などの職種は例外として、OJTや我流で身につけた人が大半だと思います。そのため、上司の人たちも「こうあるべきだ」という主観でしか文章を語れない。これが、部下とのすれ違いの大きな要因になっていると感じます。

とくにZ世代の人たちは、ネットやSNSが当たり前の時代で育っているので、「電話や対面で話すよりも、テキストのほうが受け止めやすいし、伝えやすい」と感じている傾向があります。この点を考慮しないまま「直接話すのが一番伝わる」と思い込んでいると、部下との溝が深まってしまう一方ではないでしょうか。

ある調査では、次のような結果も出ています。ビジネスリーダーにとって文章力が大きな課題になっていると感じますね。

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・上司の85%が「部下の文章にストレスを感じる」

・上司からの文章アドバイスにストレスを感じたことがある部下は53.0%

・部下に文章のアドバイスをしている上司の61.9%が、自身の文章力に不安を抱えている

(2022 年「企業における上司・部下間 の文章のやり取りに関する意識調査」/公益財団法人 日本漢字能力検定協会)

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:深刻な問題ですよね。上司は部下の文章を指導する場面も多いと思いますが、毎回修正していると、上司の仕事が「部下の文章校正」になってしまいます。

庄子:上司がそれぞれ「文章基準」を持つのではなく、チームや部署、会社単位で共有しておく必要がありますよね。実際、「課長が指摘した文章を修正して部長に見せたら、まったく違う指摘がきた」などの非効率なやりとりはよく起こりますが、部下にとって大きなストレスになります。

あと、文章を指摘するときに注意してほしいことがあります。

それは「絶対に否定しないこと」

文章はいわば「その人の肉体の一部」であり、多かれ少なかれコンプレックスのようなものを含んでいます。たとえビジネス文書であっても、です。

なので、いくら部下の文章がひどくても、「すごくわかりづらい文章だね」「きみ、社会人何年目?」などと否定しないようにしてください。

僕自身、編集者として著者からとんでもない文章を受け取ったことは幾度となくありますが、最初は必ずベタ褒めします(笑)。そのうえで「ここをこうすると、もっとよくなると思います」という、あくまでクオリティを上げるための客観的視点でアドバイスするように心がけています。

:たしかに文章には個性が出る部分もあるので、全否定されると自分そのものが否定された気持ちになりそうですよね。部下に対して文章の指導をするときは、良いところも指摘しながら丁寧に行う必要がありそうです。

◇文章を高めるコツ【1】「カジュアルパターンを覚える」

:文章力を高めようと思ったら、なにを意識するべきでしょうか?

庄子: 大きく3つのポイントがあります。1つめは「文章の型」を覚えること。毎回良質な文章を一から書くのは時間もかかりますし、ある程度の訓練が必要です。

でも「文章の型」を知っていれば、短時間で作成できますし、見直す基準にもなるので修正もしやすくなります。ここでは、「かたいメール」しか書けない人のための「カジュアルパターン」を紹介しましょう。

①   「感想」から入る

結論を伝える前に「そうなんですか、大変ですね。。。私も気をつけます。」「なんと、素晴らしいですね! どうやって成功したのか今度教えてください!」など、相手の発言に対する感想を伝えましょう。このとき、記号や感嘆詞を適度に使うと、相手はより心を開いてくれます。

② 最後は丁寧に

いくらカジュアルといっても家族や友人ではないので、最後は丁寧にしめることが大切です。ラリーが続くようなら「だと思います!」「ご意見ください!」などでもよいですが、そうでないなら「それでは、どうぞよろしくお願いいたします。」などフォーマルに終わらせたほうが「キャラの切り替えができる優秀な人」に見えます。

:これはわかりやすいですね。提案書や顧客へのメールなどフォーマルな文章は多くの人が慣れているかもしれませんが、部下や、社内向けにカジュアルに連絡したいときやチャットでの文章の書き方は、苦手に感じている人もたくさんいると思います。

◇文章を高めるコツ【2】「見た目をよくする」

庄子:2つめのコツは、「見た目」です。

文章はぱっと見て「わかりやすそう」「読みやすそう」と感じさせることが大切であり、そこがクリアできれば細かなニュアンスは気にならないものです。逆に見た目が悪い文章は、なかなか読む気になれませんし、頭に入ってきづらくなります。

見た目をよくするコツは大きく3つあります。

①   「箇条書き」+「上下に線」

並列の事柄を書く場合は、箇条書きにするとともに上下に線を入れます。こうすることで、文章全体を見たときに重要箇所がすぐにわかるようになります。

【Before】

次回の会議で話したいことは「今週の売上結果」「現在の営業進捗」「クライアントA社への対応」「新入社員佐藤さんの紹介」です。

【After】

次回の会議で話したいことは以下のとおりです。

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・今週の売上結果・現在の営業進捗

・クライアントA社への対応

・新入社員佐藤さんの紹介

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②   大切な箇所の前後で行を空ける

特に伝えたいメッセージを書く場合は、前後を1行空けて太字にしましょう(これは書籍編集でも大切にしています)。

【Before】

企業の経営において、人材の育成は不可欠です。人は組織の最大の資産であり、そのパフォーマンスが結果に直結します。成果を上げるカギは、彼らの能力を引き出すことにあります。経営者やリーダーとして、この役割を果たすのは容易ではありません。しかし、その重要性を理解し、適切なアクションをとることが求められます。

【After】

企業の経営において、人材の育成は不可欠です。人は組織の最大の資産であり、そのパフォーマンスが結果に直結します。

成果を上げるカギは、彼らの能力を引き出すことにあります。

経営者やリーダーとして、この役割を果たすのは容易ではありません。しかし、その重要性を理解し、適切なアクションをとることが求められます。

③   文章が長くなりがちな人は「主語と述語の不一致」に注意

これはビジネスパーソンに限った話ではなく、ライティングで生計を立てている人でも陥りがちな間違いです。

たとえば、次の文章を読んでください。これは採用記事のなかで、「なぜあなたは当社を選んだのか?」という質問に対する回答です。

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当社の事業は、環境・リサイクル、製鉄、電子部品、金属加工と大きく4つあり、仮にどれか1つの業績が不安定になっても他事業でカバーできる事業形態に引かれました。

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主語は「当社の事業」ですが、述語は「事業形態に引かれました」となっていて、主語と述語が一致していません。正しく表現するためには、以下のように修正すべきです。

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当社の事業は、環境・リサイクル、製鉄、電子部品、金属加工と大きく4つあります。仮にどれか1つの業績が不安定になっても他の事業でカバーできるという事業形態に私は引かれました。

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主語と述語が食い違っていると、第一印象でわかりづらい文章になってしまいます。長い文章を書かないことに越したことはないのですが、もし長くなる場合でも主語と述語が一致しているかはよく確認しましょう。

:これも本当に大切ですよね。私もついメッセージやメールを送るときに、文章を話し言葉のようにダラダラと続けて書いてしまって、あとで見返しても読みづらいなと感じることがあります。大事なところで箇条書きや改行をうまく入れていくことは、文章独特の注意点として、意識していきたいですね。

◇文章を高めるコツ【3】「心に響くキーワードをつくる」

庄子:3つめは、「心に響くキーワードを入れる」こと。

提案書や企画書のタイトルや見出しではサマリーを軸につくることが多いですが、それだけだとインパクトが弱く、読者のモチベーションを高められないこともあります。そこでおすすめしたいのが、以下の3つの方法です。

①   客観性を使って説得力を出す

次のように客観性のある一言を入れると、内容に対する信頼度が上がります。

・最新のケーススタディから導いた〜

・統計データが示す〜

・実際の顧客評価からわかった〜

・業界トップの認知度を誇る〜

など

②   数字を入れる

数字を入れることで具体性が出て、「どれくらいのボリュームの内容なのか」を読者がイメージしながら読み進めることができるため、最後まで読んでもらえる可能性が上がります。書籍の企画の場合、「数字で表現できないか?」という視点でタイトルやコンテンツを考えることも多々あります。

・10分でできる

・5ステップ

・10カ月計画

・1万人が実践した

など

③   カギカッコを入れる

これは前述の「見た目をよくする」にも通じることですが、強調したい部分をカギカッコでくくることによって、視覚的なメリハリがつきます。

・リーダーが知っておくべき「教える技術」とは?

・顧客満足度を上げる「アフターサービス」の極意

・ビジネス変革を導く「データ分析」の重要性

など

ちなみに、この記事のタイトルも「客観性」「数字」「カギカッコ」を活用して考えてみました。どう思われましたか?(笑)

:なるほど! こうやって使うんですか。このキーワードをつくる技術は、ビジネス文章では頻度が高いですよね。私もこれまで部下への文章アドバイスのなかでは、この部分が一番多かったように思います。なかなか言葉が思い浮かばなくて苦しんでいる人も多いと思うので、ぜひ参考にしてもらいたいです。

◇対談を終えて

リーダーにとって、文章力はこれからさらに重要性を増すスキルだと思います。

しかし、文章やキーワードも「こうすればうまく書ける」と言われても、なかなか体系的に説明することはできませんでした。

今回、ビジネス文章力を高めるために、とても実践的なポイントを教わり、私自身もこのトピックスが読者の皆さんにとって少しでも読みやすくなるよう、どんどん実践していこうと思いました。みなさんも、ぜひ1つでも取り入れて文章力を磨くヒントにしてください!

Top画像は@Linustock

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