スタートアップ大国イスラエルのフェムテックから見えてきた、日本でフェムテックが根付くヒント
中東のシリコンバレーと言われるイスラエル。人口は1,000万人に満たない国であり、日本の四国程度の面積しかないが、人口1人あたりベンチャー投資額は世界一である。
思った以上に人口は少ないが、コロナ禍においても、女性1人あたり出産する子どもの数は約3人と子沢山な国である。その理由のひとつとして、超正統派ユダヤ教の影響が大きい。
筆者の日本人の知り合いに、1人目の出産はイスラエル、2人目の出産は日本という女性がいる。イスラエルの医療について聞くと「技術は一流、サービスは二流」と言っていた。日本の手厚いサービスに慣れていると、イスラエルのサービスは微妙かもしれない。
しかし、イスラエルのフェムテックは、技術的に他の国にはない特徴を持った製品・サービスも多い。イスラエルで注目している5サービスを紹介し、日本でどうすればフェムテックが根付くかを考察してみた。
1.Pulsenmore(パルスンモア)
日本の周産期医療プラットフォームMelody(メロディ)とも似ているが、妊婦が病院に行かずとも、遠隔で診療ができるのがPulsenmoreである。2021年に上場し、2022年にはGEヘルスケアから最大5,000万ドルを投資する契約を締結している。
スマートフォンに装着して使用する携帯型超音波診断装置や、患者が臨床医とオフライン・オンラインで相談を行うモバイルアプリケーションである。
妊婦のお腹の上でモバイルを撫でると、遠隔で医師が胎児の様子を把握できる。
昨年は、イスラエルの医療関係者が、ウクライナ国境にいる難民の出生前超音波検査を行うために、この装置を使用している。
日本ではコロナ禍において、出産数が激減したが、免疫力が下がる妊婦にとって、新型コロナウイルスなどは脅威であり、病院に行くのも憚られる状況である。
そんな中、イスラエルはユダヤ教の「産めよ、増やせよ」という教えのもとで子作りに邁進しており、高い出生数を維持しているが、そのような背景もあり、胎児の遠隔デバイスが発展しているひとつの理由である。
2.OCON Healthcare(オーコン・ヘルスケア)
2011年に設立された、女性向けの医療製品を開発しているOCON Healthcare。
『IUBバレリン』は、ホルモンバランスを変えることなく、子宮に装着し、避妊効果をもたらすビーズ上の避妊装置である。
日本で使用可能な『IUD(子宮内避妊用具』と比べて、3分の1程度の大きさで、かつ子宮によりフィットする3D構造を実現している。
細い管を通じて糸とビーズを入れ、子宮内で形状をボール型に形成するが、従来のものでは痛みを伴うこともある挿入時の負担経験にもつながっている。
さらに、異常子宮出血や重度の月経出血、子宮内膜症などホルモンの働きによる健康課題を解決する『IUBビーズ』や『IUBプリマ』も開発している。
『IUBバレリン』は、日本での展開を申請中とのことで、今後の展開に期待したい。
3.Livia(リビア)
欧米でも人気の生理痛軽減ウェアラブルデバイスであり、薬を使わずに辛い生理痛を軽減する、感覚神経に弱い電気刺激を下腹部に与えるデバイスだ。
カラフルなデザインで、痛みのある部位に吸盤で貼り付けて電源を入れると、電気パルスが流れ、痛みを軽減してくれるという仕組みになっている。「ゲートコントロール理論」というペインコントロールの学説に基づいている。
現在は約60カ国で展開されており、有名メディアでの特集や、フェムテックアワードを受賞したりと高く評価されている。日本の厚生労働省のような、アメリカ食品医薬品局(FDA)の認証も取得しており、実証実験でも8割以上のユーザーが変化を感じている。
4.Tulipon(チューリポン)
Gals Bio社では、健康診断やモニタリングに関する、使い捨ての膣プラットフォームデバイス『Tulipon』を開発している。膣口と膣分泌物から得られる情報を活用して、これまで研究所などでしから得られなかったモニタリングとスクリーニングを、自宅で可能にしたデバイスである。
アプリケーターつきのタンポンのような見た目だが、膣内に入れると月経カップに広がる使い捨ての体内装着型デバイスである。
日本でも、経血量を測る吸水ショーツはあるが、『Tulipon』はショーツのような吸収材を使用せずに、膣分泌物を収集できる。
日本でもテレビ東京で紹介されている。
経血からわかるバイタル情報は、まだ論文などが少ないとも聞くが、これからの研究に期待したい。
5.AiVF
不妊治療を行うカップルを支援する医療技術を提供している。EMAと呼ばれるソフトウェアプラットフォームを持ち、胚の評価プロセスにAIを使用している。妊娠の可能性や体外受精の予測率を高め、不妊治療の成功率を向上させることを目的としている。
イスラエルの不妊治療は1980年から開始され、技術力の高さでも有名である。政府が45歳までの不妊治療に多額の資金を提供しており、保険証があれば薬代の3割以外は不妊治療(人工受精、体外受精、出産)をすべて最初から無料で行うことができる。
その結果、40歳以上の女性が子どもを産む割合が、世界で最も多い国のひとつとなっている。
さらに、他の先進国と異なり、高い教育を受けた女性が、多くの子どもを産むという傾向もある。イスラエル独自の社会背景が、不妊治療のスタートアップを多く輩出している背景ともいえる。
6.まとめ
毎年多くのスタートアップ企業が誕生し、革新的な技術を生み出しているイスラエルだが、フェムテックが発達している理由のひとつが、フェムテックのエコシステムが国全体でできあがっている点である。
イスラエル最大の病院「シェバ」にあるアークイノベーションセンターの後援のもと、フェムテック特化型イノベーションセンターが2020年に設立され、国全体でR&Dを支える仕組みが、フェムテック企業が多く生まれている背景である。
政府機関や医療業界と連携しながら、活況を迎える海外のフェムテック市場であるが、日本でもさまざまな分野と連携することが、最も求められているのはないだろうか。
7.お知らせ①:9/15(金)ウィメンズヘルス×イノベーションの現在と未来を語るイベント
筆者が活動しているFemtech Community Japanでは、2023年9月15日(金)にVC・投資家がウィメンズヘルス×イノベーションの現在と未来を語るイベントを開催します。当日会場にいますので、ぜひ会場でお会いしましょう!
申込はこちらからどうぞ!
8.お知らせ②:9/3(日)締切「始動Next Innovator2023」
筆者が、新規事業やスタートアップの基礎を習得した経済産業省主催のプログラム「始動Next Innovator」が、今年も募集開始しました。
アクセラレータープログラムは、スタートアップ限定のプログラムも多いですが、こちらは大企業の方も対象になっており、さらに今年はシリコンバレー選抜が1.5倍の30名となっています。
まずは打席に立つことが重要なので、応募を迷われている方は、まずは応募してみましょう。応募書類のご相談にも応じますので、ご連絡ください。
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