腸内環境改善/マイクロバイオーム改善による治療の可能性

2023年12月18日
全体に公開

 こんにちは、Cobe Associe代表の田中です。

 どうやら冬は、水分不足や運動不足、自律神経の乱れから便秘になる人が多くなるようです。私が住む神戸市に本社を置くビオフェルミン製薬さんからも「冬の腸デトックス!便秘改善で身体を内側からととのえる」と書いていらっしゃいます。腸内環境の改善、多くの方が関心のあるテーマですよね。

Googleトレンド「腸内環境」2004-2023年。 

 ↑のトレンドグラフを見てもわかる通り、2010年代前半は腸内細菌研究が一般社会でも大きく注目されるようになったタイミングです。無菌マウス飼育の効率化や次世代シーケンサー(NGS)等を活用することで、腸内環境/腸内フローラを解析するハードルがぐっと下がったことがそれを後押ししました。

 腸内環境は、過敏性腸症候群から神経障害、肥満などとの関連性が指摘されており、薬の効き目にも影響を与えるのでは?という研究もあります。腸内に住む真菌(カビや酵母など。マイクロバイオーム全体の0.1%程度)も注目され、マイコバイオームの名前で注目を集めています。マイコバイオームは腸と脳の間で双方向にやりとりがなされる「腸脳軸」でも重要な役割を果たしているのではないかと言われています。腸内真菌バランスの乱れが、喘息やCOPD、皮膚疾患とも関連があるのではとの指摘も。

 さて、腸内環境改善の具体的手法です。

 多くの方がサプリメントや食事改善を想起されるかと思いますが、今回はもっと直接的な手法をご紹介します。

 糞便微生物移植(fecal microbiota transplantation:FMT)は、その名の通り、健康な方から提供を受けた糞便に存在する腸内微生物を患者の腸内に移植する治療法です。2013年にオランダのチームが難治性の再発性クロストリジウム・ディフィシル感染症患者に対する治療として採用し、研究・試験で画期的な成績を上げたことから注目されることとなりました。

 FMTはその後、2型糖尿病やアルコール性肝炎、さらにはHIV感染症やてんかん、うつ病など幅広い疾患に対して効果があるのではとされ、より多くの注目を浴びることになります。↓が"糞便微生物移植の現状と未来"(2018)に載っている表なのですが、可能性は多分野にわたることがわかります。最近のいくかの研究を追ってみたのですが、いずれも小規模での試験ながら、糖尿病うつ病などで「一定有効だったよ」とする論文も見つかりました。楽しみ。

水野 慎大, 金井 隆典, 糞便微生物移植の現状と未来, 日本内科学会雑誌, 2018, 107 巻, 10 号, p. 2176-2182, 公開日 2019/10/10, Online ISSN 1883-2083, Print ISSN 0021-5384, https://doi.org/10.2169/naika.107.2176, https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/107/10/107_2176/_article/-char/ja

 移植方法についても進化が続いています。従来のFMTは「健康なドナーから新鮮な糞便を採取→撹拌濾過した腸液を患者さんに投与」というなかなかハードな方法でしたが、経口などより簡単な方法でFMTを実現しようとする会社も増えてきています。実際、米Seres Therapeuticsが開発したSER-109という薬は、初の経口マイクロバイオーム治療薬として今年4月に米FDAの承認を取得しています。今後、免疫不全などの患者に向けての製品パイプラインを拡大させていくとのこと。期待です。

 これまでは先述の通り、マイクロバイオームや腸内環境と聞くと、サプリメント等を通じたヘルスケア(≠メディカル・治療)の文脈が強かったはずです。米国大手薬局チェーン・CVSと流通契約を結んだViomeは、RNAシーケンシング技術をコアとしながらも事業の出口はサプリ販売や食事アドバイスに置きました(それでも累計1億7500万ドルを調達)。日本のスタートアップ・KINSも、製品ページにはお茶や乳酸菌エキス、サプリメントが並びます。FMTはどこにいったのか?

 日本だとMetagen Therapeutics/メタジェンセラピューティクスが腸内細菌叢×医薬品開発にチャレンジしています。潰瘍性大腸炎を対象としたモダリティは既に後期臨床試験に入っており、POC/ディスカバリーフェーズにあるものも実現したらインパクトが多い領域。

Metagen Therapeutics, Pipeline/Platform (https://www.metagentx.com/pipeline-platform/)
米国における便由来経口製剤の承認をきっかけに、世界ではいま、腸内細菌研究に基づく医療や医薬品の開発が活発に行われています。私たちは、この新たな治療オプションを日本の患者さんたちに、そして日本発のマイクロバイオーム医薬品を世界の患者さんたちに1日でも早くお届けするため、研究開発に取り組んでいます。

 "生きたまま腸まで届く乳酸菌!"という言葉を商品パッケージで見る度に、「とはいえ腸内細菌叢には影響ないんでしょ...??意味ないんでしょ...??」と疑っていた私。最近は、20年後になんならの病気で入院することがあったら、処方される薬のうちの一つには何かしら腸に作用するものが含まれているはずだと確信しています。

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