”カイゼン”から大転換へ ~COP27での示唆~

2022年12月15日
全体に公開

前回は、湯船の例を用いて炭素予算について書かせていただきました。今回は、炭素予算などが話し合われている国際交渉の場COPに参加した私が感じた企業への示唆をまとめています。

それは、努力の積み重ねである改善を継続する”カイゼン”ではなく、企業のビジネス戦略や企業文化の大転換をした会社が成功(収益上昇、CO2減少)をしている、ということでした。

エジプトで開催されていたCOP27に11月5日から13日の期間で参加しました。この間、様々なビジネスリーダー、エネルギーや気候変動での有識者との会談を行いました。共通するメッセージは、以下の二つ。

①将来どのような企業が求められるかというビジョンを立てる

②ビジョン達成のために必要な戦略と計画を作る

なぜ国際交渉の場であるCOPに企業が参加するのか?

そもそも、COP(読み:コップ)とは年に1回開催される気候変動に関する国際会議です。温室効果ガスの濃度を「どれくらいに」そして「何年までに」安定化させるか。そして、どの国がどれくらい努力するか、などが毎年の議論の焦点となってきました。まさに炭素予算の話です。

驚くべきことは、COPに参加している団体の中で最も多いのは「その他」(下図参照)、ここにビジネスも含まれます。これは、「脱炭素の実現には多様なステークホルダーの支持が必要」との趣旨で、以前に比べて非政府アクターが参加しやすくなったとの背景があります(注)

出所:UNFCCC (注)COPの会場に入るには、国連から発効される入館証が必要です。この入館証は、毎年のCOP主催国の方針により、数が限定されることもあります。従って「行けば誰でも入れる」というものではありませんのでご留意ください。

ではなぜ企業が国際交渉の場であるCOPに参加するのでしょうか。一義的には先に述べた通り、多様なステークホルダーが国際交渉の進展を後押しするためですが、民間企業は、やはりビジネス上の目的意識もあるでしょう。その目的意識とは、ズバリ以下の3つです。

1.世界中の気候変動の関係者に会うことができる。ネットワーキング

2.自社の戦略が世界で通用するか確認。他社の戦略転換の秘訣について知る。

3.自国・他国の政策に関する深堀と温度感の確認。

おまけ:世界で最もホットな話題を自分の目で見て、聞いて、持ち帰ってくる。

長期ビジョン大転換の必要性、将来求められる企業とは

数あるトップ会談の中で特に印象に残っているのは、欧州電力会社Orsted CEOの Mads Nipperさんのお言葉。

戦略の転換と共に、企業文化の転換を行った」(意訳)「我々の15年前の事業は将来求められるものではなかった。化石燃料8割だった事業をグリーンに変えるためには大きな転換が必要だった。」(意訳)
Orsted CEO, Mads Nipper

Orstedは2006年には17%だった再エネの発電電力量割合を2018年には75%にまで増やし、見事に事業転換を成し遂げました。逆に言うと、化石燃料は8割以上だったものが、2割程度に10年間で減らしたということです。(参考までに日本の2021年の電源構成は、化石70%、再エネ24%、原子力6%です。)

Orstedはそれだけではなく、収益も大きく伸ばしましたCO2を減らし会社も成長を遂げる、世界でも有名な再エネ企業に転換を遂げた素晴らしい例です。

Orstedの再エネ導入割合

出所:Orsted

OrstedのCO2排出量、事業別EBITDA(青色:化石燃料、緑色:再エネ)

出所:Orsted

※Orstedの戦略転換に関する詳細はこちらへ↓

戦略転換の秘訣を対談先の複数社から聞き、自社の場合だったらどう反映させていけるのか、と企業の方は思考を巡らせることができたのではないでしょうか。

政策に対する見方

一方、自社の戦略に大きく影響する日本の政策がどう世界から見られているのかなど、批判的な意見も含めて知ることができます。クローズドな会ではそのような本音の意見をぶつけて議論ができます。

例えば、日本のアンモニア混焼や水素戦略などには厳しい意見もありました。一方、日本の浮体式洋上風力には大きな期待が寄せられていました。こちらも大転換が必要だと認識しました。

技術の話はまた別の時に書かせていただきます!

帰ってきた後が勝負です!(実践フェーズ)

参加した企業は事業の長期ビジョン、戦略や計画をレビューし、必要なアクションを今頃取っているのではないかと思います。

たくさんの情報を生で手に入れることのできるCOPですが、年に一回のイベントを待たずとも、普段から世界の気候変動の情報を積極的に取りに行くことは大事です。その情報元の土地勘などもCOPでは手に入れることができるはずです。国内だけの情報では皆様の経営にとって不十分ではないでしょうか。

私は帰ってきて、あまりにも日本と世界との間に情報のギャップを感じまして、この度このNewsPicksトピックスのオーナーになることを決意しました。読んでいただきましてありがとうございます!

今回私は日本気候リーダーズ・パートナシップ(JCLP)としてCOPに参加いたしました。

主な相手は以下の通り。

出所:JCLP

COPに興味を持った方はぜひJCLPにお問い合わせしてみてください。

出所:JCLP、Japanパビリオンでの公開セミナーの様子

最後に、今回例に挙げましたOrstedのCEO Mads NipperさんがCOP27での様子をTwitterで語ってます。COPの会場の様子もビデオに出てきます!

このトピックスでは、気候変動を含めたリスクとビジネスチャンスの見極めのヒントになるような、気候変動の知識や世界の動きをご紹介していきます。皆さんも気候変動を考慮した経営や事業戦略についてのお悩みがあればコメント欄でお寄せください。

次回は『再エネ安いと何が良い?』について書く予定です。よろしくお願いします!

(どこかでCOP27のサイドストーリー(若者のアクションや現地の様子)も書けたらと思います!)

応援ありがとうございます!
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