「オリジナリティある文章」を書くためのトレーニング

2024年5月6日
全体に公開

こんにちは!

この連載企画では、「うまい文章」を以下のように定義しました。

=================================

うまい文章=「わかりやすさ」×「モチベーション」×「独自性」

=================================

今回は、3つめの要素である「独自性」について解説します。

1つめの「わかりやすさ」と、2つめの「モチベーション」はこちら。

どうすれば、独自性ある文章を書けるようになるのか――。このシンプルかつ難易度の非常に高いテーマを考えていきます。

文章の独自性は、一般的なビジネスシーンで求められることはまずないと思いますが、文章に関わる仕事をしていたり、趣味で論評や小説、エッセイなどを書いていたりする人にとっては一度は考えたことがあるテーマだと思います。参考になればうれしいです。

文章の独自性は「すでにあるもの」

3回前の記事で、独自性についてこう書きました。

文章における独自性は、「身につけるもの」ではなく「身についているもの」である。

まずはこの説明からスタートしましょう。

文章の独自性は、歩き方や食べ方や話し方のように、一人ひとり少しずつ異なるものである。ぼくはそう考えています。同じ言語を使っていてもその人の特徴が出る。いいか悪いかは別として。

たとえば「昨日のことを自由に書いてください」と言われたとき、こう書く人がいたとします。

=================================

昨日は、ずーっと行きたかったカフェに

行ったんです❤️❤️

見てくださいっ✨✨おしゃれなインテリア❣

北欧(たしかスウェーデン)でマスターが買いつけたそう🪑

私もいつか自分のお店をもって置きたいなぁ🥰

=================================

さて、どんな感想をもったでしょうか。「絵文字で感情が伝わってきて読みやすい」「内容が薄くて表現が稚拙」「普通に読める」など、さまざまな声が聞こえてきそうです。

ただ感じ方は人それぞれなので、どんな意見も正解ではありません。文章に正義はあっても正解はない。

この例を通して伝えたいのは、「自由に書いてください」と言われて自然に出るクセこそ、文章における独自性である、ということ。

言い換えるなら、本人が「こういう文章で伝えたい(この文章で伝えても問題ない)」という思考が具現化したもの、いわばその人の「コミュニケーションの価値観」こそが独自性となります。

その前提に立つならば、独自性は「身につける」というより「すでに身についているもの」ということになります。幼少期に読み聞かされた本なのか、小学生のときの読書感想文なのか、大学時代の卒論なのか、社会人になってすぐ指導を受けた上司なのか、自然科学の本が好きだからか、村上春樹より村上龍が好きだからか、SNSや掲示板ばかり見ているからか……人によって「現在の独自性が身についたきっかけ(組み合わせ)」は異なるでしょう。

しかし、いずれにせよ、好む・好まないは関係なく、ぼくたちは文章における独自性を、無意識のうちにすでにもっています。したがって、独自性を高めたいと思うなら、「すでにあるものを、どう発展させていくか」と考えるべきです。「すでに持ち合わせている独自性に、幅と深みをもたせる」ということですね。

では、独自性に幅と深みをもたせるにはどうすべきか。

これは「革新的なアイデア(イノベーション)」を生むときと同様だと思います。

そう。「既存のものと既存のものとの組み合わせ」、あるいは「既存のもの同士の組み合わせからの逸脱(外れ値)」です。

すでに持ち合わせている独自性に、他の人がもっている独自性をかけ合わせる。すると、自身の独自性に幅と深みが生まれる、もしくは、かけ合わせから漏れ出た(抽出された)独自性が見えてくる。

これが独自性を発展させる方法ではないか、ということです。

具体的には、次の2つの方法が挙げられます。

1. 「キャラクター」を使い分ける

1つめは、「自身が扱えるキャラクター」を増やすこと。具体的にいうと、以下の3つです。

●------------------------------------------

1. 「主語」の使い分けを練習する

  • 一人称の場合、「私」や「僕」だけでなく、「わたし」「ぼく」「俺」「オレ」「あたし」「ワイ」「おいら」など主語を変えて書く練習をする
  • 三人称(彼は、彼女は、佐藤は)の文章も練習する

2. 「形体・常体」の使い分けを練習する

  • 形体は「ですます調」、常体は「だ・である調」のこと。両方とも練習する

3. 「漢字・ひらがな・記号の比率」を変える練習する

  • 漢字を多くする文章、ひらがなや記号を増やす文章を書き分ける

------------------------------------------●

この3つを意識して、書き分ける練習をしてみましょう。

いざやってみるとわかりますが、主語を変えるだけでも文体が自然とチューニングされていく感覚があるはずです。たとえば、「僕」は「私」よりもカジュアルで距離感が近い感じになり、「俺」や「ワイ」にすると、さらに親しみやすさや仲間意識、ユーモアが増します。

「主語」「形体・常体」「漢字・ひらがなの比率」のパターンをいくつも使えるようになると、なんの縛りもない文章を書くときに、ある変化が起こる可能性があります。

それは、練習したスタイルの中から「(自分にとって)いいとこどり」をしたような文章を書けるようになる、という変化です。ペラペラした不安定な独自性ではなく、ブレはしても芯はしっかりした独自性に発展するわけですね。これはまさに「かけあわせ」で独自性を発展させる方法です。

ちなみに、前回「書くモチベーション」についての話をしましたが、この3つをうまく活用することで、書くモチベーションが湧くときもあります。

たとえば、ぼくが今回の記事を書く気がなかったとしたら、こんな感じで、ガラッと違う文体で書き出してみるのです。

=================================

やっほー! みんな元気? 今回のテーマは「文章の独自性」だよ!

えっ、おもしろそう? ありがとう!

じゃあ、私なりに考えた文章の独自性を発表していくね。

まず1つめ。それは「複数のキャラクター」に憑依する力を鍛えること!

どうどう? おもしろそうじゃない?

=================================

これは、ぼくの頭の中の「ギャル」が喋った文章です(ぼくのファーストキャリアはギャル誌の編集職だったので、なんとなくテンションが体に染みついています)。

こんな感じで、別キャラクターで書くようにすると、本来的に書くことが好きな人ならば、書くことの苦しみから(一時期的にせよ)解放されるはずです。少なくともぼくの場合、舞台俳優になった気持ちになれるので、「書く」という「演じる」という別の感覚を味わえます。

仕事上だと「私・形体・漢字」を使い慣れている人が多いと思いますが、独自性を拡張する意味でも、気分転換という意味でも、意識的にスタイルを変えて書いてみるのはどうでしょうか。

2. 「角度」と「距離」を意識する

文章の独自性が出やすいところとして、書いている対象への「アプローチ(角度)」と「焦点距離」が挙げられます。

たとえば、ショートケーキの魅力について書かれた文章があるとします。

Aさんは、ショートケーキが内包するイメージ(いちご、生クリーム、スポンジケーキ)を掘り下げました。Bさんは、ショートケーキの歴史や各国における立ち位置をまとめました。Cさんは、ショートケーキにまつわる個人的な思い出を書きました。

このように、同じ対象(ショートケーキ)を書くといっても、アプローチ(角度)は人それぞれ異なります。

アプローチを複数持ち合わせいることは、それだけかけ合わせる独自性が増えることを意味します。

アプローチについての学びを深める方法としては、同じテーマを複数の執筆者が書いている書籍や雑誌を読むのが一手です。

たとえば、『猫なんて!』(キノブックス)には、谷崎潤一郎、村上春樹、角田光代、吉行淳之介、高橋源一郎など47人の「猫」をテーマにしたエッセイがまとめられています。これ一冊読むだけで、「猫」に対するアプローチがいろいろ学べます(ぼくの敬愛する先輩が担当した作品なので、ぜひ読んでみてください)。あとは「締め切り」をテーマにした『〆切本』(左右社)なんかもそうですね。

次に「焦点距離」。『街場の文体論』(内田樹著・ミシマ社)で書かれている表現で、次のように説明されています。

説明がうまい人って、友だちの中にもいるでしょう。ものごとの本質をおおづかみにとらえて、革新的なところをつかみだして、それを適切な言葉でびしりと言い当てることができる。
どうしてそういうことができるのか。技術的な言い方をすると、焦点距離の調整が自在だからなんです。はるか遠い視点から、航空写真で見おろすようなしかたで対象を見たかと思うと、いきなり皮膚のでこぼこを拡大鏡で覗くように近づく。

ここでは対象の距離を「航空写真のように見おろすようなしかた」と「皮膚のでこぼくを拡大鏡でのぞく」の2つで表現していますが、言い換えるなら「俯瞰的/局所的」や「マクロ的/ミクロ的」となるでしょう。

たとえば、ある製品のレビューを書いているとき、「個人的な経験」だけで終わらせるのではなく、「業界の話」や「他者に聞いた感想」「類似製品との比較」を織り交ぜてみる。こうすることで、読者はより立体的にその対象を描けるようになります。絵を遠くから見るのと、近くから見るのとでは印象が異なりますよね。そういう経験ができるわけです。

うまい文章では、焦点距離が固定されず、行ったり来たりする。ここにも独自性のかけ合わせのヒントがあると思います。

いかがでしたか。

「独自性」についてはまだ書く話がある気がするのですが、一旦ここでひとくくり。

では、また次回の記事でお会いしましょう。

応援ありがとうございます!
いいねして著者を応援してみませんか



このトピックスについて
樋口 真章さん、他1502人がフォローしています