精米対応の遺伝子組み換えビタミンB1強化米

2024年4月19日
全体に公開

遺伝子組み換えで作ったゴールデンライス(golden rice)は、イネOryza sativaの品種の1つで、ビタミンAの前駆体であるβ-カロテン合成が行われるよう遺伝子操作を行ったGMOで、合成生物学の成果としてしばしば紹介されることがあります。

このゴールデンライスは、スイセン(Narcissus pseudonarcissus)のフィトエン合成酵素(PSY)とリコペンβ-シクラーゼ(LCY)、細菌(Erwinia uredovora)のフィトエン不飽和化酵素(CrtI)の遺伝子が導入されていました。その後、トウモロコシ(Zea mays)のPSYに変更されたり、LCYが不要であることがわかったりして、新しいバージョンGolden Rice 2も作られてきていますが、GMOであることから、依然として広く栽培されるものにはなっていません。

ジュネーブ大学(UNIGE)を中心とする国際チームが、4月11日のPlant Biotechnology Journal誌に、遺伝子組み換えで作った新しいタイプのビタミンB1強化米を報告しています。

Fitzpatrick, T.B. et al (2024) Vitamin B1 enhancement in the endosperm of rice through thiamine sequestration, Plant Biotechnology Journal

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/pbi.14348

よく知られているように、もともとコメはビタミンB1(チアミン)の含有量が少ないのですが、精米によりビタミンB1はさらに減少します。このことで、日本でも戦前には脚気(beriberi)の原因となっていました。戦争や文豪など、様々なエピソードも多いです。

これまでも、遺伝子導入によって葉と糠(米粒の外層)のビタミンB1含有量を増やすことには成功していましたが、精米後の米粒のビタミンB1含有量を増やすことには成功していませんでした。

このチームでは、ビタミンB1を胚乳組織に封じ込める遺伝子を発現するイネ系統を作出しました。この遺伝子(Si TBP)は、ゴマ(Sesamum indicum)由来のチアミン結合タンパク質 (TBP)のものです。これを、イネジャポニカモデル品種TP309(野生型)で、イネ胚乳特異的グルテリンD-1プロモーターの制御下でSiTBPを発現させました。

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/pbi.14348

このSiTBPを発現するトランスジェニック植物は、形態学的に野生型と差がありませんでした。葉と精米前のビタミンB1含有量は違いがありませんでした。しかし、トランスジェニック系統の精米後のチアミンレベルは、野生型と比較して3〜4倍増加していました。 つまり、この作物から作られた300グラムのご飯は、成人の1日あたりのビタミンB1の推奨摂取量の約3分の1を含むことになります。

今後は、この方法を商業用の品種に適用するという計画だそうです。

確かに、栄養についての知識も他の摂取方法も十分でなかった時代に、このような米があったなら、日常的なビタミンB1不足を補うことができたかもしれません。しかし、現在の日本のような場所で、GMO反対の意見もあるなかで、この方法を使うという理由がどこにあるのか、いろいろ考えてみても思いつきません。地球以外の場所で農業を行う時になったら、使えるということなのでしょうか?

合成生物学は新たな産業革命の鍵となるか?」担当:山形方人

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