経団連のバイオトランスフォーメーション(BX)の課題
4月16日、経団連が「バイオトランスフォーメーション(BX)実現のための重要施策」という文書を公開しました。これは、2024年6月公表予定の次期政府バイオ戦略策定に向けて、とりわけ重要な施策を提言するというものであるようです。
これは、日本のバイオ産業の将来にとって重要な指針となるものでしょう。しかしながら、現状では多くの課題も存在します。今回は、BX提言の内容を踏まえ、日本のバイオ産業が抱える問題点と、未来への展望について考察します。
昨年3月に公開された「バイオトランスフォーメーション(BX)戦略」では、「現ロードマップは「技術」や「市場」の区分で描かれており、 バイオエコノミーが解決しうる「課題」との関係不明瞭」「ターゲットが2030年と比較的短期であり、ホワイトバイオ など大型の設備投資において投資対効果の予見可能性 が低い」といった課題があったとしています。その上で、このBX実現のための重要施策では、「2040年や2050年など長期をターゲットとして「課題」別に 達成すべき道筋に技術や市場をバックキャストしてプロットする「課題オリエンテッドな」ロードマップを策定」というのがポイントのようです。
概要版も公開されていますが、実際にどのようなことが書いてあるのか、生成AIで全文をまとめてみました。
バイオトランスフォーメーション(BX) 実現のための重要施策:提言
I. はじめに
バイオエコノミーは、環境問題解決、食料安全保障確保、経済成長の両立を可能にする、社会変革を牽引する力を持つ。経団連は2023年3月に提言「バイオトランスフォーメーション(BX) 戦略 ~ BX for Sustainable Future ~」を公表し、BX実現に向けた旗幟を鮮明にした。
本提言では、2024年6月公表予定の政府次期バイオ戦略策定に向けて、以下の分野横断的及び適用分野毎の重要施策を提言する。
II. 国内外の動向
国内では、政府が経済財政運営と改革の基本方針においてバイオものづくり、ゲノム創薬、再生医療への投資拡充を謳い、各省庁が分野毎にプロジェクトや基金事業を進めている。経団連も国内外のバイオコミュニティとの連携強化、適用分野毎のワーキンググループ設置など、積極的に取り組んでいる。
一方、世界各国もバイオエコノミー実現に向けた取組みを加速させている。米国は大統領令や戦略を発表し、EUはルール整備を進めている。英国は国家ビジョンを策定、中国は計画を発表するなど、活発な動きが見られる。
III. 分野横断的な重要施策
課題オリエンテッドなロードマップの策定:2040年または2050年をターゲットに、課題解決に資する技術・市場育成のプロットを作成
市場目標を明確化し、投資促進を図る
国際的な技術動向の把握と分析を不可欠とする
サプライチェーンの可視化・強靭化:原材料の確保から市場に至るサプライチェーン全体を可視化
非可食バイオマス(第二世代)の主流化を見据えた体制整備
レッドバイオ分野における原材料調達リスクへの対応
基礎研究から事業化・普及に至るパスの強化:バイオコミュニティ活性化のための財政支援
ディープテック・スタートアップ育成:資金調達環境整備、海外ベンチャーキャピタル誘致
バイオエコノミーに関わる人材の育成・確保:産学官人材流動性向上、キャリアパス明示
グローバルなルール形成:戦略的参画、英語での情報発信、国際標準化への貢献
バイオデータ基盤整備:官民連携によるデータベース構築、国際連携の強化
国内製造基盤の構築・拡充:民間企業の大規模設備投資への財政支援、海外企業誘致
IV. 適用分野毎の重要施策
ホワイトバイオ(工業・エネルギー):
バイオ燃料・バイオプラスチックの商業化に向けた技術開発・実証
バイオマス発電の効率化・コスト削減
バイオリファイナリーへの投資促進
グリーンバイオ(食料・植物):
耕作技術の高度化、病害虫抵抗性・耐塩性作物の開発
培養肉・代替乳製品の実用化
フードロス削減に向けた技術開発
レッドバイオ(健康・医療):
次世代がん治療薬・再生医療製品の開発・実用化
予防医療・パーソナライズド医療の実現
バイオ製剤の生産コスト削減
V. 産業界のコミットメント
経団連は、会員企業に対し、以下の事項を積極的に推進することを求める。
各社の具体的な取り組み:分野毎の重要施策に基づく個別具体的な取り組み
重要施策の実現に向けたアクション:政府との連携、国際貢献、情報発信
VI.おわりに
BXは、持続可能な社会の実現に向けた重要な挑戦である。産学官一体となって取り組むことで、課題を克服し、バイオエコノミーを確立し、日本の未来を力強く切り拓いていこう。
さて、日本のメディア記事のバイオ産業の無視は依然として気にかかります。
経団連のバイオトランスフォーメーション(BX)については、日本のバイオ系産業の将来の捉え方について、多くの盲点があると、個人的には感じています。大雑把にまとめるとこのようになるでしょうか。
●ホワイトバイオ、グリーンバイオ、レッドバイオというふうに分野ごとの「縦割り思考」にとらわれていて、連携が不足している。日本は特にアカデミアや行政の体制にも起因するこの分野間の分断が大きく、分野の壁を壊すことが求められている。
●「人工知能」などの他の先端分野との連携が弱く、この発想を大胆に推進することの緊急性を十分認識していない。そのためにはバイオ系で閉じるのではなく、「人工知能」分野と直接人材交流する体制(人材育成や報酬体系を含めて)を構築し、時代に取り残されないバイオ産業の競争力強化が必要である。
●情報発信ではなく、今必要なのは消費者や政策関係者との「対話」であることに気づいていない。そのためには、双方向的な対話を促進する仕組みの構築を行うとともに、市民に対してもオープンなバイオテク系メディアを育成しなくてはならない。
●結局、既存の大企業中心、中央集権型の科学技術の伝統的思考をもとに策定されており、バイオ系イノベーションのキーワードとなっている「分散型のエコシステム」という方向性や現代的なニーズが十分考慮されていない。
●日本のバイオ産業の停滞を招いているのは、行政や立法、更にはアカデミアにも大きな原因があること。これらの問題点の徹底分析を行わず、BXに未来はありません。
●バイオ先端技術の安全性や安全保障について言及はあるものの、喫緊の課題であるという認識が低い。バイオ先端技術では、人工知能と同様に、「安全性や倫理観」そのものが国家間や産業上の競争のカードになっている。
結局のところ、経団連の識者は、日本のバイオ産業がなぜ弱くなってしまったのか、その点をどのように認識し、どのように改善しようとしているのでしょうか。
【合成生物学ポータル】 https://synbio.hatenablog.jp
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